後半
「え~い、うるさい!!とにかく、全てロージーが悪いのだ!大罪人として処刑してやる!!」
「彼女は我が国の英雄なのだ。英雄を勝手に処刑されたら困る」
「ロージーは私たちの大切な仲間ですからね」
私の処刑とキーキーと騒ぐアーロン王子の言葉を、一組の男女が遮る。
「クライヴ様、ララ様、お久しぶりです」
アーロン王子に断罪されている途中だが、隣国でお世話になった友達に挨拶をした。ストーカー勘違い王子より、久しぶりに会う仲間の方が大切だ。
アーロン王子の声を遮った男女は、昨年の8月から2ヶ月間「母樹探索パーティー」を一緒に組んだ隣国の皇太子のクライヴ様、クライヴ様の婚約者である筆頭聖女ララ様だ。
クライヴ様とララ様の後ろには、隣国の公爵令息のセシル様と騎士団長の子息のレナルド様が控えている。もちろん、この2人も仲間だ。
隣国の方々の後ろには、顔を表現し難い色にした国王陛下が、今にも雷を落としそうにしている。
隣国は、聖樹の国と言われている。どんなに小さな集落にも聖樹が最低限1本植えられているからだ。新しい集落ができるたびに「聖樹の森」から苗木が運ばれ植えられる。
その聖樹の加護の力で、飢饉や疫病などの災厄、他国の侵略から守っていると、留学中に習った。
しかし、私が留学していた時は、聖樹の力が弱まっていた。湧水が減り、少しずつ土地が痩せ細ってきていた。王家と神殿が文献を調べたところ、「全ての聖樹は母樹から力を分けてもらっている」という伝承を見つけ、母樹の力が弱まっている事が原因ではないかと結論づけた。
なぜ、私が王家と神殿の話し合いの結果を知っているのか。それは、「母樹探索パーティー」の一員になった時に教えてもらったからだ。
隣国の学校で、魔法の使い方を学んでいる時に、私の魔法が女性に使用している時には劣るものの、「雌」「牝」にも効果があることが判明した。
動物に使った場合、毛艶が良くなったり、発色が良くなったり、鳴き声が美しくなったりする。植物の場合、葉が青々しくなったり、花が美しく咲いたり、芳しい香りがするようになる。つまり、私が動植物に魔法を使うと、繁殖に有利な事が起こる。
それに目を付けたのがクライヴ様だ。
聖樹は全て姿が同じで、開花の時期しか母樹とそれ以外を区別する事ができない。次に開花するのが20年後のため、ララ様を含む国中の聖女たちを集めて、森にあるすべての聖樹に聖魔法を掛けるという人海戦術を行う事が検討されていた。
しかし、それではあまりにも効率が悪く時間も掛かってしまう。そこでクライヴ様は私に声をかけた。
私の魅力魔法は植物にも効果があり、空間にも作用する。
私が聖樹の森を歩き回るだけで、母樹を見つける事ができるのではないのかと。検証のため、白銀杏子という雌雄別の木で試したところ、見事に成功した。雌の木の方が雄の木より葉が銀色が輝いた。素人目には違いは分からないが、専門家から見ると明らかに違うらしい。
リーダーのクライヴ様、母樹探索の要の私、母樹の治癒を行える聖魔法が使える聖女ララ様、聖女の補助を行う神官(3名)、植物学者のセシル様と国立植物園上級職員(5名)、レナルド様を含む護衛騎士たち(たくさん)の「母樹探索パーティー」が結成された。
ひと月半、聖樹の森でキャンプを行いながら森を歩き続け、やっと見つけた母樹はとても弱っていた。ララ様が母樹に2週間毎日、聖魔法で治癒を行った。その甲斐があり母樹は元気になり、世代交代のための 娘樹となる実を付けた。
聖樹の森から帰還後、私たちは王宮に呼ばれ、皇帝陛下からお誉めの言葉をいただいた。
さすがに、母樹が弱っていた原因は、国家機密に当たるため教えてもらえなかった。だけど、褒美の品として白銀杏子の実(王族でもなかなか食べられない超高級品。私の魅力魔法のおかげでいつも以上に甘くなっている)を7個いただいた。もちろん、アビゲイル様経由で国王陛下にいくつか献上した。
クライヴ様個人からは、皇室御用達のデザイナーのドレスをお礼の品としていただいた。そのドレスには、ララ様のご実家の辺境伯領特産の高級絹生地で作られた。
ララ様は聖女であるが辺境伯令嬢ということで中央貴族たちに軽んじられていた。だけど、母樹の回復という国家の危機を救った英雄となったことにより、クライヴ様の婚約者としての地位を確実な物になったと。
ララ様のお父様から、国の危機を救ったお礼と、ララ様の功績を称えるために、私の働きを過小評価する事になってしまったお詫びを兼ねて、ドレス用の高級絹生地をくれた。
そんな訳で、私には隣国という後ろ盾がある。アーロン王子のひと言で私の事を処刑が決まったら最後、一瞬で国際問題になりクライヴ様たちは「英雄の救出」を掲げ、この国に攻め入るだろう。そして、私がこの国からいなくなり、この国の多くの女性たちに憎まれることになる。
「うるさい、うるさい、うるさい!我が国の事に口を出すな!ロージーは処……」
「黙りなさい!」
「黙れ!」
「ピギャ!」
アーロン王子が、再び私の処刑を口にしようとして瞬間、王妃様の魔法が火を吹き、国王陛下の雷が落ちた。
まあ、火を吹いたとは比喩表現で、王妃様が実際に使った魔法は水魔法である。私がこの場所に居るせいで、王妃様の魅力である魔力制御に磨きがかかり、精度・威力が上がっている……とアビゲイル様が解説している。
アーロン王子も、自分の身を守るためにとっさに炎を出す。しかし、炎の帝王と言われる火魔法のエキスパートの王家の血が流れているのに、鍛錬を怠っているためその威力は弱く、魔法の精度も悪い。そのため、マッチの火程度の炎しか出せない。
「ピギャッ」
王妃様はマッチの炎を、王宮の庭にある大噴水と同じ量の水で消している状態だ。
「ピギャャャャーーー!!」
王妃様の大量の水責めにより、陸の上で溺れているアーロン王子に、トドメとばかりに国王陛下の雷魔法が炸裂する。
我が国では、火魔法の家系に生まれる雷魔法(特殊魔法)使いは最強と言われている。国王陛下もそれに漏れず、現在の国最強の魔法使いだ。
アーロン王子を丸焦げにできる力をお持ちながら、絶妙な力加減で感電死しないギリギリの雷をアーロン王子に落とした。さすが最強の魔法使いだ。
「ピギャァ……」
雷により、アーロン王子は倒れ込んだ。床の上でピクピクと痙攣しているアーロン王子を、他の人が感電しないようにと、側妃様が魔法で首から下を氷漬けにした。氷漬けにされたアーロン王子は衛騎士たちにより外に運ばれていった。
アーロン王子の姿が見えなくなったあと、国王陛下が「今回は隣国のクライヴ皇太子殿下と聖女ララ様が来てくれた!皆のもの拍手を」と言い、アーロン王子の存在を思いっきり無視した。
国王陛下の言葉に、会場中からクライヴ様とララ様の歓迎の拍手が送られ、クライヴ様たララ様もそれに応えるように、皆に手を振った。
何事もなかったのように、夜会が進められたが、アーロン王子の私に対する妄想の暴走のせいで、夜会にケチがついてしまったため、お詫びも兼ね、会場にいる女性たちが少しでも美しく魅力的になるように、魅力魔法を会場にかけた。
あの後、氷漬けにされたアーロン王子はと言うと、王妃様のご実家でみっちり絞られていると。王妃様のご実家は水魔法の名門で、王妃様のお父様は元騎士団長である。現在も、とても元気で力を持て余していると聞いた。
「孫の指導監督」と大義名分を得て、アーロン王子をビシビシ鍛えているとのこと。アーロン王子は、泣きごとを言う度に水を掛けられ、訓練の辛さに気絶しても水を掛けられ起こされて、ピギャピギャ言いながら、祖父と楽しく過ごしているらしい。
と、アビゲイル様とブリジット様が、夜会後のお茶の席で楽しそうに話していた。
それから1年後、私を美の妖精と崇める男爵令嬢・子爵令嬢から聞いた話だが、この年の成婚率が上がり、また王子・王女から生まれたわけでもないのに、貴族たちの出生率が上がったそうだ。
私は魔法学園卒業後、ブリジット様たちの支援を受けながら、夢であった総合ビューティーサロンを開いた。学園時代、多くの貴族令嬢と交流を持ったため、とてもサロンは賑わった。
また、サロンで働く傍ら、特別文官という王宮の役職を頂き、アビゲイル様の戴冠式の総合プロデュースを任されたり、アビゲイル様の外遊に随行したり、アビゲイル様から依頼を受けて、他国のイベントにも駆り出されたりしている。
そして、何故か他国を訪れる度に、その国の男性に「お前の魅力魔法のせいで破滅した」と糾弾さる。その度に「魅力魔法持っていますが、何か問題ありますか?」と言うはめになった。




