ハッキング
「ねぇ、ノア。」
ニアが、俺をまっすぐ見つめた。
その瞳を見つめ返すことができず、なんだよ、と視線をそらす。
体力は回復して、みんなでかまくらの中に座っている。
先程のことを問い詰められるんだろうな。憂鬱だ。
「トマトってさ、逆から呼んでも、トマト、だよ。」
、、、不安になった俺が馬鹿だったよ。
横にいる亦凡さんを、ちらりと見る。
、、、なぜ不敵に笑っている!?
「ニア、『私、負けましたわ』って逆から読んでみろ。」
「わ、た、し、、、。ふ、ふぅん、ゆでダコさんにしてはやるじゃん。ま、まあ、ゆでダコさんにしてはだけど。」
まったく、くだらない話しやがって。
呆れると同時に、安心感が胸に広がる。
「なんの話ししてるんですか。
本題に戻りますよ。
今の課題点は3つ。
この吹雪を抜けて、居住区に侵入すること。スピオンさんとの連絡方法を見つけること。
そして、スピオンさんを誰か特定すること。」
「スピオンの特定、か。」
亦凡さんが呟いた。
スピオンさんの座右の銘は「敵を欺くには、まず味方から」であり、味方にも正体を明かさないのだ。
その完璧主義はぶりはもはや美しいが、今はとてつもなく迷惑だ。
「、、、物語でのスパイってさ、いっつも頭良さそうにしてるじゃないですか。
俺、いつかぎゃふんと言わせたかったんですよね。」
亦凡さんは、目をパチリとまたたかせた後、顔をクシャッとして笑った。
「威勢の良いことだなぁ。儂は乗ったぞ。」
「ノアが言うなら何でもー。」
かまくらの中いっぱいに地図を広げる。
「まず、居住区に行く方法についてです。
寒さの影響で、農作物は少ない。よって、この国には、狩猟の文化があるはずです。
ハンターに見つかれば、ニアの能力でなんとかなります。
よって、俺達が行くべきは、居住区に近く、日差しが温かい南向きの斜面。」
地図の真ん中に近い森を指を指す。
「ここです。」
ほう、ふうん、と、亦凡さんが、分かっているのか分かっていないのか、よくわからない声で頷く。
まあ、この人は、身体能力に全振りしているからな。
「スピオンさんと連絡を取る方法は、やはり、通信面でしょうね。
この国は、気候の影響で、『神の選別』の際の国際協調の動きにあまりついていけず、先進技術は、あまり進んでいませんからね。
ハッキングしても、他の宿主にバレにくいでしょう。」
そこで、ニアからの視線を感じた。
ニアは、目を細めながら、俺を見つめる。
「、、、言ってくれ。
あるんだろ、戦略。」
「ん。まあ、天才二アちゃんだからねぇ。
愛しのノアくんのためにひと肌脱ぎますか。」
ニアが、ゆっくりと口を開いた。
ビービービーッ。
ゼラニウム連合国の総本部。
けたたましい警戒音が鳴り響く。
そこにいるのは、戦闘系でないゼラニウム連合国の宿主、モへードと、宿主ではないが、一般兵幹部として本部にいる、スピアと、アゲントだ。
ゼラニウム連合国は、国風的に愛国心が強いため、国民軍が結成されている。
戦場にいる宿主1人と、一般兵幹部が1人、そして、国民軍たちによって、今、この瞬間にギガント連合国との激しい戦いが、ノアたちが入ったところから、遠く離れた反対側、で行われている。
「なんやろう、こん音は!?」
ドタドタと、大きな足音を立てて走るのは、スピアだ。
「ハッキングだそうですよぉ。そんなの、あたしたちの国が対処できるわけないじゃないですかぁ。
世界の終わりですよぉ。」
「そう情けない声を出すな、アゲント。」
「だってぇ、、、。なんで、モへードはそんなに冷静なんですかぁ。」
スーツをぴしっと着こなしたモへードは、四角いメガネを上げた。
「確認すればいいだけのことだ。
まずは、自分の端末を確認するくらいのことはしろ。」
モへードの指示に従い、2人は自分の席へとついた。
モへードもパソコンを見る。
そこには、10、9、というカウントダウンと、その後ろで次々と描かれていく文字式が映し出されていた。「スピアちゃんの画面も、私と同じ感じですねぇ。
あーあ、やっぱ駄目ですよぉ。無理ですよぉ。」
そう言って、アゲントは、パソコンを殴った。
ゴン、と鈍い音がしたと思うと、画面が真っ暗になる。
「うわわ!何やっちょんのか!!アゲントちゃん!?」
「あああああぁ、壊しちゃったぁ。そこまでやろうと思ってなかったのにぃ。
もう全部だめだよぉ。」
「貴様は、なぜイライラすると、すぐものを殴るんだ!?」
「だってぇ、これでテレビ直ったって聞いたことあってぇ、、、。」
そのとき、モへードと、スピアのパソコンから、パパパパーン、と間抜けな音が響いた。
『親愛なるゼラニウム連合国へ。
おめでとう!このメッセージが届いたということは、君たちの中に、藁が詰まっていることが証明されたというわけだ。
そんな馬鹿な君たちに愛を込めて。』
「ふん!!」
グシャ、と音がする。スピアも、パソコンを叩き割ったのだ。
「わしん国馬鹿にするやつは許さん!自然豊かで、優しいこん国は、わしん宝物や!
どうせ、ギガント連合国ん仕業やろうね。 」
モへードのところに、スピアは歩いていき、そのパソコンも壊そうとする。
「おい!やめろ!いくらすると思っているんだ!
ただでさえ、万年財政不足なのに、何を考えている、貴様ら!」
モへードが、必死にそれを押さえつける。
「貴様たちは、あとで報告書だからな。覚えておくんだぞ。」
「、、、でも、でも、今出す相手なんておらんのやねえかな。」
その言葉に、2人の肩が揺れる。
「元帥様、ずっとカタカタ震えち、小声じブツブツ言うち。
わしには、あげなん尊敬できんちゃ。
あげなんが守る国なんて、、、。」
「おい!」
モへードが声を荒げる。
「口を慎め。元帥様、そして、国民たちに対しての冒涜だぞ。」
スピアが、ギュッと下唇を噛みしめる。
「、、、でもぉ、アゲントもそう思いますぅ。
だってぇ、他の宿主様や、幹部兵たちも、どんどん行方不明になっててるじゃないですかぁ。
もうまともなのは、5人だけですよぉ?前は、もっともっといたのにぃ。」
モへードが拳を握り込む。
少しためらう様子を見せたあと、ゆっくりと口を開いた。
「、、、俺は、この中に、スパイがいると思っている。」
1音ずつ噛みしめるように言われた言葉は、2人の胸に突き刺さる。
「そげなわけ無えやろう!?わしらは、ずっと前から一緒におる仲間!
疑わんじくりい!」
「スピアに以下同文ですぅ。
もう、怒っちゃいますよぉ、モへード。」
モへードは、力なく笑った。
「そうだ。この中に、スパイなんているはずなんてない。
、、、よし、貴様たちは今すぐ報告書をかけ!そして、パソコンの弁償代は、体で払ってもらおうか。」
「いやぁーん、エッチですねぇ。」
「何を言っているんだ、貴様は。
雑用に決まっているだろう。
まずは、雑巾がけ100周!」
俺は、眼の前にいる、老人に頭を下げた。
「ありがとうございました。」
「いやいや、お安い御用だよ。」
俺たちと、運悪く遭遇し、ニアの能力によって、感情をを注入され、居住区に導いてくれた哀れな狩人だ。
「特に、おもてなしもできなかったからね。
まあ、旅を楽しむんだよ。」
世界を旅する旅人、という設定の俺は、ありがとうございます、と言う。
宿主以外は、世界を旅できるほどに平和な世の中だ。
「にしても、君たちは、整った顔をしているね。
さらわれないように気をつけるんだよ。えっと、おじいちゃんだっけ。」
俺とニアの祖父、という設定の亦凡さんが、ニコリと微笑む。
本人は、年齢差に嘆いていたが。
「しっかりと、この子たちを守ってあげるんだよ。
もちろん、自分を守ることも大切だけれどね。」
亦凡さんは、ハッとしたような顔をしたあと、頷いた。
その後、当たり障りのない会話をして、老人から離れる。
「ニア、亦凡さん。」
小声で2人に話しかける。
「わかりましたよ、スパイは、この国の本部の中にいます。」




