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出来損ないのノア  作者: きな粉
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吹雪の中で

ーほら、ノア!こっちだよ!

そう言って、俺を導いてきてくれた『あいつ』は、もうどこにもいない。

視界がクラリと揺れる。

これはまずいな。こんなところで意識を失ったら、最悪死ぬぞ。

すると、言い合いを続ける2人の声が、突然止んだ。

「ノア、なんだか顔色が悪くないか?」

亦凡さんが、顔を覗き込んでくる。

「こんな極寒の敵地で、味方2人が騒ぎまくっていたら、顔色なんて悪くなるに決まってますよ。

 とりあえず、吹雪を凌がないと、、、」

「ノア、違うでしょ?」

不意に、ニアの声が飛んできた。

いつものおちゃらけた声との間にある、確実な温度差。

肩がビクリと震えた。

「ねぇ、違うよね。『あの子』のこと、だよね。」

冷たい言葉のナイフが、俺に突き刺さる。

それは、吹雪なんかよりもずっと、俺の体温を、確実に下げていく。

「もう絶対帰ってこない『あの子』に、すがろうとしてるなんて、駄目じゃん、ノア。」

ゆっくりと振り返ると、そこには目を三日月型にして笑う、そいつがいた。

キャハ、キャハハ、キャハハハッハッハ。

吹雪ではかき消されないその笑い声。

それが、段々と、遠のいていく。

眼の前が暗くなった。


「おいノアッ!?」

いきなり倒れたノアに、亦凡が駆け寄る。

呼吸があることを確認し、自分の防寒着をノアに被せ、背負った。

そして、ニアを見て、息を呑む。

能面のような顔。どこを見ているのかもわからない、虚ろな瞳。

ニアは、今にも消えてしまいそうに、いや、本人がそれを望んでいるように、薄く見えた。

「、、、お、お主は、何なんだ?」

どうにかしてひねり出した問いは、それだった。

ニアは、今、その存在に気がついたように、亦凡を見る。

「ーあたしは、何でもないよ。

 ただ、存在しているだけ。」

激しい吹雪が、音を立てて、2人を覆い隠した。


「、ハーハッ、ヒュッ、ごめん、ごめんなさい。ハアッ、ヒュッ、無理だ、できない。ハァッ、アッ、ごめんなさ」


飛び起きる。

バサッと音がして、俺にかけられていたらしい防寒着が落ちた。

背筋に、冷たいものが次々に走っていく。

、、、夢か。

「おお、起きたな。」

亦凡さんの声がした。

「寒さと吹雪をしのぐために、ニアとかまくらをつくってな。

 火も、そこら辺の木の枝でたいておいた。

 温かいだろう。」

俺が頷くと、亦凡さんは、ニコリと俺に向かって微笑んだ。

 「そろそろ交代だが、ニアは外で見張りをしてくれている。

 それは、予備の防寒具だから遠慮をするな。

 まぁ、とりあえず、あたたまれ。」

「、、、俺、どのくらい寝ていましたか?」

「そうだなぁ、、、2時間半位だと思うぞ。」

、、、そんなに気絶していたのか。

胸がずきんと痛む。

くそ、俺は大きな迷惑をかけた。きっと、総司令官や、スピオンの計画も台無しにしているだろう。

「すみません。俺のせいで。」

亦凡さんは、大きな手を俺の頭の上に乗せた。

「そう自分を責めるな。大丈夫。」

温かい手と、言葉。

その優しさに、つい甘えてしまいそうになる。

目を伏せたまま、何も言えないでいると、亦凡さんは、手をどけた。

「、、、ところで。」

亦凡さんの声色が、少し低くなったのを感じて、顔を上げる。

「お主が眠っている間に、ニアから、『あの子』というのは、お主の『好きな人』だと聞いた。」

あ、と思わず口から漏れ出す。なんで、あいつ言ったんだ、、、。

「、、、別に、好きってわけじゃありません。特別っていうだけです。」

亦凡さんから目をそらす。

、、、もうやめてくれ、触れないでくれ。

「その次に、ニアの『好きな人』を聞いた。」

土足で俺の内側に入ってこないでくれ。覗こうとしないでくれ。

「ニアは、こう言った。」

もう聞きたくない。口を閉じてくれよ。

「ノア、だと。」

「だから、やめてくれって言ってるだろ!!」

気づいたときには、大声を出していた。

目の前の、驚いた顔を見て、ハッとする。

、、、なにやってんだ、俺。

「す、すみません。 

 こんな大声出すつもりじゃ、、、」

「いや、今のは、儂が悪い。お主の気持ちを考えていない発言だった。

 申し訳がない。」

亦凡さんが、頭を下げる。

「ねぇ、亦凡さん、本当は、ニア『ノアのはずだよ、多分ね。』って言ったでしょう?」

亦凡さんが、ハッとして俺を見た。

「、、、なぜ分かった?」

フッと、笑いがこもれでた。

「だって、あいつには、何もないから。」

静寂が訪れる。

困らせているのは分かっている。こう言ったのも、ただのわがままだ。

亦凡さんは、しばらく視線を彷徨わせた後、口を動かした。

「儂は、お主には何も言わない。だが、言いたくなったら、いつでも言え。

 、、、それじゃあ、ニアと交代してくる。」

待って、と亦凡さんのマントを掴もうとした手は、宙を掴む。

その背中は、かまくらの外に出て、見えなくなってしまった。

待って、って言って、何をしてもらうつもりだったんだろう。

外で、亦凡さんと、ニアの話す声がする。

「戻りたいなぁ。」

絞り出たその声は、パチパチという炎の音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。


「おい、ニア!ノアが起きたぞ。」

亦凡は、外で見張りをするニアに声をかける。

「そっかぁ。よかった、よかった。

 愛しのノアにおはようのチューでもしてこよっかなあ。」

「、、、ノアには、防寒着は予備のものだと伝えておいた。」

亦凡は、ニアを見る。防寒着を着ずに、少し震えるニアを。

「、、、やっぱり今すぐ儂のものを着ろ。

 死ぬぞ。」

「ゆでダコさん、さっきようやくおっけー出してくれたんじゃん。

 自分の言葉には責任を持ちましょー、だよ。」

「ノアがすぐに気が付くのは、分かっているだろう?」

「わかってるよん。

 でもね、あたしは、守らなくちゃいけないから。ノアのこと。」

亦凡の目には、一瞬、先程の、能面のような顔のニアが写った。

だが、すぐに、いつも通りのヘラヘラとした笑みに戻る。

「じゃあ、あたしノアにチューとギューしてくるから。

 ノア、喜びすぎて、また気絶しちゃったらどーしよ。」

亦凡に背を向けたニアの肩に、重いものがかかった。

「、、、ノアには予備と伝えたからな。

 お主が着ていないと、気づかれてしまうだろう。」

ニアは、キョトンとした顔で肩にかかった、亦凡用の大きな防寒着を触った。

「これじゃあ、大きさでバレちゃうよ。

 さすが、ゆでダコさんの頭の悪さだねぇ。」

亦凡は、何も言わない。

ーこれだから、空気を読むってのは、苦手なんだよ。

そう、小さくニアがつぶやいた。



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