潜入
『スパイは、アゲント、という人です。』
ゼラニウム連合国内のカフェに入った俺たちは、それぞれの端末で、メッセージを送信して、作戦会議を行っている。
、、、ニアは、ゲームしているが。
隠す気もなく、ピコピコというゲーム音が聞こえてくる。
『ハッキングを仕掛けたところ、1人の人の端末にだけ防がれました。
防がれなかった、本部での端末情報を抜き取った結果、主要なメンバーは3人いました。
そして、その端末情報を得られなかった人、それが、アゲント・ツェレさんという女性です。
ゼラニウム連合国のものより高度な技術力を持つのなんて、スパイしかありえません。
スパイなら、情報を抜き取られやすい端末を強化するはずですしね。』
「流石あたしの作戦だねぇ。崇め奉ってもいいんだよ?」
「お前のいいところは、その調子に乗るチーター並の速さだよ。」
亦凡さんが、文字を打つのが見える。
老人だからか知らないが、文字を打つのが、遅い。日が暮れそうだ。
『にしても、よくあんなハッキングのオウログラムを即興で作れたな。』
プログラムがオウログラムになってるな。
遅い上に誤字るのか。
『前、気まぐれにコールが作ったのを保存しといたんです。
、、、できが良くて。』
これに関しては、俺のほうが打つのが確実に遅かった。
コールを褒めるぐらいなら、世界中の石を集めて、その数を数えるほうがまだ有益だ。
亦凡さんも、しぶそうな顔をしている。
『アゲントさん、もといスピオンさんは、まだ自分の正体を隠し続けるつもりだと思います。
だから、データ上でメッセージを送っても、無視される可能性もあります。』
『まあ、スピオンは、下手に動いたら、殺されるだろうしな。
あちらの安全を取るだろうし、データはちと難しいかもしれんなあ。』
亦凡さんの顔を見る。お手上げの顔だ。
もう少し、体じゃなくて、頭に栄養は回らなかったものか。
『直接あって伝えられればいいんですけどね。』
『そんなの捕まって見るか!
なーんてな!ガハハハハ!』
、、、なんか嫌な予感がー
「こーんにーちはー!!!
エレノア連合国の『厄災の双星』サマがいるよお!」
急に立ち上がったニアがそう叫ぶ。
その言葉は、平日の昼間で客が少なく、店内音楽が大きくても、十分に人の耳に届いた。
「おい二アァ!
何やっとるんじゃお主ぃ!!
あと、儂もいれろぉ!!!」
無言でニアと亦凡さんを殴る。
けろっとした顔のニアがものすごくムカつくな。
むしろ、褒めてという顔をしてきてるぞ、こいつ。
すぐに、すごい量の国民軍が、カフェに押し寄せてくる。
ここまで来たら、もうなんとでもなれだ。
俺たちは、そのまま本部へと連行された。
「儂、意外と神様信じてるんだよ。
だから、さ。」
亦凡さんが囁いてくる。
「なんとかしてしろ、神様。」
、、、少々乱雑な、神頼みだった。
そして、俺たちは、客室と言うには、狭く、暗く、暑苦しいところにおいてある椅子に縛られた。
まあ、強いて名前をつけるなら、監獄だな。
「ねーねー、おじさん。あたし、喉乾いたぁ。
トロピカルな飲み物飲みたい気持ちが沸き上がってくるんだけど。」
「う、うるさい!お前、自分の立場がわかっているのか!!」
もっともだ。この男性のことを、そっと抱きしめてあげたい。
そして、目を、黒い布で覆われた。
その間もニアはべらべらと喋り倒している。
「なあ、これから儂らは何をされるんだ?」
亦凡さんの声が聞こえた。
「拷問に決まってるだろう?
なぜ、エレノア連合国の『厄災の双星』が、こんなところにいるのか、ゆっくり吐いてもらうぞ!」
「だから、儂を入れろぉ!!
儂の年齢で!現役は少ないから!ちゃんと有名なんだぞ!」
「亦凡さん、うるさいです。」
「ノアまでそんなこと言うなよぉ。」
危機感のない奴らめ、と、ブツブツと男がつぶやくのが聞こえる。
本当にそのとおりだ。なんだ、この野生動物2匹は。
「ったく、調子に乗るなよ。
『厄災の双星』なんて、おじいちゃんに泣きついて、宿主になっただけだろ?
何にもできないお子様たちは気楽でー」
「ニアを馬鹿にするな。」
男が、一歩後ずさったのが分かった。
俺の殺気が、あたりに撒き散らされる。
亦凡さんの、呆然とした顔が、視界の端で見える。
、、、でも、今そんなことは関係がない。
コートの袖に隠していたナイフを使って、縄を切り、目隠しを取る。
ニアを侮辱された。
ニアを侮辱された。
ニアを侮辱された。
俺のニアを侮辱した。
こいつは、こいつは侮辱した。
許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。
「お前、名前は?」
男が座り込む。
「おい、聞いてんのかよ。
お前、名前は?」
「ヒッ、ア、アフォ、アフォートッ。アフォートだっ!!!」
「ふぅん。」
見下ろす。
がくがく震える膝、涙のたまった瞳、許してと助けを乞う口。
、、、こいつに生きる価値はないな。
ナイフを振り上げる。
「死んで詫びろ。アフォートさんよぉ。」
ナイフを、顔面に向かって垂直に下ろす。
それが、あたって、赤い液体が吹き出す
ーはずだった。
そこには、白くて、武器を使ってできるあざが、無数についている手があった。
その寸前でナイフを止める。
ニアの手だ。
ニアは、俺の顔を見つめてきた。
「ノア、落ち着いて。
深呼吸、深呼吸。」
我に返る。
その温かい眼差しに、既視感を覚えて、思わず、何かわからない声が漏れ出てくる。
「、、、あ、うあ。え、、あ。」
「もう、別にいいよぉん。
あとで、濃厚なキッスをしてくれればね。」
「、、、しない、よ。」
ニアの座っていた椅子を見る。
木でできたその椅子は、大きな亀裂が入っていた。
筋肉を膨張させて、椅子をへし折ったのか。
また、ベキッと音がした。
亦凡さんの椅子が折れた音だ。
そのままこちらに近づいてくる。
「、、、大丈夫か?ノア。
あんなの、始めてみたが。」
俺の顔を覗き込んできた。
「あ、はい。すみません。
我忘れちゃって。」
「、、、まあいいんだけどな。この国の名物、国民軍のレベルの低さも分かった。
にしても、なんでこんな脆い木の椅子を使ってるんだろうな。」
「財政不足やわあ。もう、なんてこと言うんか!」
「そうですよぉ、最悪の始まりですよぉ。もう今日は全部駄目ですねぇ。」
扉を開け、2人の女性が、監獄に入ってきた。
「ゼラニウム連合国、一般兵幹部のアゲントとぉ、」
「同じくゼラニウム連合国、一般兵幹部が1人、スピアや。」
モジモジして、落ち着かない、アゲントさん。
これが、スピオンか。
どうにかして、スピアさんと離さないと。
「以後よろしゅう!」
ひまわり色のスカートが似合う、ニッコリとした笑顔で、スピアさんが言った。
「、、、て、もう以後は、あんまりねえかんしれんけどなぁ。」
、、、可愛い笑顔で、物騒なこと言うな、この人。
「なんとかしろ、神様。」
小さなつぶやきが、隣から聞こえてきた。




