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出来損ないのノア  作者: きな粉
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3/7

戦争

「まったく馬鹿らしい。」

引きちぎられた子供向け聖書が、ゆっくりと床に舞い落ちた。

「それならば、なぜ、今私たちは戦争をしている?」

鋭い緑の目が、俺たちを見つめる。

見透かされたような目に、思わず心臓が跳ね上がる。

「答えは簡単。

 失われたところで、人間の負の感情なんて、すぐに生み出されるからだ。」

 、、、にしても。」

総司令官が、息をゆっくりと吸った。

「元はといえば、ノアとニアのせいだからな。いつも、国民にバレないように、大人しくやれと言っているのに、教会者を呼ばせて。

 そのせいで、こんな子供向け聖書を渡されたんだぞ。あそこの教皇は、本当に性格が悪い。」

『教会者』というのは、そのトップの命令にしたがって動き、普段は各地に散らばっている、神と宿主の狂信者の集団だ。

国境を超えて働く教会者たちは、現場の掃除などの、宿主のサポートをすることが主な仕事である。無償で大体のことはやってくれるので、宿主たちは、頻繁に利用している。

「それで?」

扉がゆっくりと開く音とがした。

「そんな愚痴こぼすために、全員集めるような無駄なことしねぇだろ?お義父さん?」

その舐めた口の聞き方。ニヤニヤと嫌味な笑み。赤い目に、銀の髪。前を開けた白いシャツと、ダボダボのズボン。

最悪なことに、俺とニアの父親である、クズ男、コール・キャロウェイだ。

総司令官は、コールを見ると、大きなため息をついた。

「コール、何週間も姿を見せずに、急にそれか?」

「そんな硬いこと言うなよ。俺には俺の日常生活ってもんがあるんだよ。

 早く用件言え。楽しくなりそうな気配がしたから、来てやったんだぜ。」

総司令官が、もう一度ため息を付くと、口をゆっくりと開いた。

「戦争を、始めるぞ。」

その瞬間、部屋の空気が変わった。

色々な表情が入り混じる。

無表情の総司令官。

険しく眉をしかめる亦凡さん。

うつむき、顔が見えないクラリスさん。

すべてを見透かしたように、ニヤニヤと笑うコール。

そして、俺のことをじっと見つめてくるニア。

ー200年前に、神が人間の前に、姿を表した。

その100年後に、戦争が始まった。

そして、40年前。

人間は、新しい戦い方を見つけた。

大勢対大勢ではなく、精鋭対精鋭。

つまり、国民が誰も死ななず、国の利益だけが手に入る、見事な理想郷が完成したわけだ。

ー宿主たちの犠牲と引き換えに。

その理想郷は、各国の話し合いによって定められた。

宿主の力の象徴であり、宿主を殺すことで得られる『神石』。

降参、もしくは、国の保有する神石がなくなったとき、その国は、勝った国の属国となる。

その国の国民、財産、特産品。すべてが、その国のモノとなるのだ。

100年も戦争を続けて、残っている国なんて、まともではないに決まっている。

降参なんて、するわけがない。それに、国民も許さないだろう。

何も失わず、口を開いてギャーギャー騒いでいるだけの国民が。

この戦争が意味するのは、宿主の死。

このクソみたいな世界で、クソみたいな戦争をする、その理由は何だ?

手を固く握りこむ。袖の中の手錠があたり、カチャ、と音がなった。

惑わされるな。俺の目的はただ1つ。

俺は、それでいい。

「、、、総司令官。それで、どこと戦うんですか?」

「私のことを、おじい様と呼んでくれたら教えよう。」

「俺のことも、お前とか、呼び捨てじゃなくて、パパって呼べよ。」

睨む。

「冗談だよ。」

「あたしは、ちゃぁんと、おじーちゃん、パパーって呼んであげるよ!」

「流石は、俺の娘だなぁ。小遣いやるよ。

 ほれ、500万エユード。」

コールが、黒いカードを取り出して、ニアに手渡そうとする。

「わーい!ありがと、パパー!」

「おい、コール、そんな軽く、高収入の一般国民の年収を渡すな!」

「ゆでダコさんはカチカチだなぁ。

 電話で伝え忘れたけど、ゆでダコの意味、ハゲだからってのもあるから。」

「おい、小娘!!」

そのとき、あの、という震えた声がした。

「モーガン様、恐れ入りますが、わたくしの約束は、かなえられますのでしょうか。」

クラリスさんと、総司令官の約束。

おそらく、総司令官が、クラリスさんを、宿主に勧誘したたときに、なにか交換条件を出したのだろう。

「そう焦るな。お前の欲望は、きっとこの戦争で大いに満たされるだろうよ。」

「安心いたしました。ありがとうございますわ。」

そう答えた、彼女の頬が、少し上気しているように見えた。

、、、興奮している?

その時、ククッと笑い声がした。コールだ。

「ずいぶんとクレイジーなやつが入ってきたみたいだなぁ。

 俺は、そういうやつ大好きだぜ。」

「うふふ、光栄ですわ。  

 、、、でも、貴方様には、わたくしの願いは叶えられそうにないですわね。」

コールは、再びククッと笑う。

それを遮るように、総司令官が口を開いた。

 「、、、さて、残りの国は5国。

 我が国、アジール国、神聖エーテル帝国。

 そして、戦争中のゼラニウム連合国と、ギガント連合国。

 私たちは、その戦争中の2国に、突っ込む。」

「なんだと!!」

亦凡さんが叫んだ。

「戦争は、一対一の国同士で行われるもの!

 国際戦争法で定められているだ、、、」

「黙れ」

総司令官の声が響く。

「戦争法なんて、もう気にしている場合ではない。

 もう残りの国は片手で数えられるようになった。

 妥協していたら、死ぬのは私たちだ。」

「、、、だが、だが!国際戦争法には理由がある。

 宿主たちがあまりにも激しい戦争をしたら、民間人に被害が出る。

 なんの罪もない子どもが殺されるかもしれないんだぞ!」

「ねぇ。」

そのとき、ニアの声が響く。

ニアは、亦凡さんの袖を、小さく引っ張った。

「それが、どうしたの?」

ニアが、本当に、本当に純粋に、亦凡さんに聞いた。

途端、息がうまく吸えなくなる。

違うだろ、お前、そんなんじゃないだろ。

だって、お前ー。

「、、、お前の子どもを思う気持ちは、とても正しい。

 だが、現実的ではない。

 私の孫たちのような子どもがいるこの世界ではな。」

総司令官の声で、思考が遮られる。

もう反論はおきなかった。

「さて、それでは始めようか。

 戦争を。」

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