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8・カイルの過去


「っ……!? 攫われた……? って……まさか……」

 驚く私に、カイルがゆっくりと頷く。


「はい。……獣人の番として。拉致結婚を……」

「そんな……」

 だけど騎士団長の娘が拉致結婚にあっているだなんて、私は知らない。

 そんなことになっていたならば、すぐに知らせが入って国からの抗議をするだろう。だけど私はそんな話を聞いたことがない。お父様だってそう。そんな素振りはなかった。

 だから恐らく──報告に上がって来てすらいないんだわ。


「報告は……」

「……していません。父は騎士団長として、国と国に争いをもたらす原因であってはならない、と……」

「っ……」


 オーランド騎士団長はとても職務にまじめで忠義を持った方だ。

 だけどそこまで……そうまでして国を守る必要なんて……。


「父の立場は、母も、兄も、そして私も理解しています。ですが、どうしても何とかしてやりたかった私は、家族に絶縁状を置いて国を出ました。誰にも、迷惑をかけないように」

「絶縁状……」

 彼なりの強い意志。

 ご家族も苦しんだでしょうに、そんな素振り、一度だって見せたことはなかった。


「それなのに……。……この国に着いて、妹の行方を探し出した時には、妹はすでに……亡くなっていました」

「!? 亡くなって……? どうして……」

「妹には、マルボロ王国に婚約者がいたんです。彼は商家の人間で、妹とは幼馴染で仲が良かった。だからでしょう。どうしても、彼以外の人間──しかも獣人と結婚するだなんて、耐えられなかったのです。初夜の場で、自分を拉致した獣人と刺し違え、二人共に息絶えていたようです」


 あまりに凄惨なその結末に、言葉が出てこない。

 それほどまでに愛した人なんていない私にはわからない感情だけれど、それでも、これが悲劇でしかないことはわかる。


「私は、その遺体を発見し共同墓地に埋めたという神父に話をつけ、妹の遺体を引き取り、妹を、クリスティ様の屋敷の近くにある丘の上に埋めました。さすがに、亡骸を持って国境を超えるにはその正統性が求められ、説明が必須となる。そうすれば父が守ろうとしたことも無駄になり、妹に何があったかも明らかにさせることになる。公にして、辱めたくはなかった。ただ静かに、もう眠らせてやりたかった。……だからこの国に埋め、私も妹が寂しくないように、この地で生きることを決めたのです」


「っ……」

 さぞ悔しい事だろう。

 だけどこの人は、自分以外の大切な人の為に、全てを背負って生きることに決めたのね。

 その犠牲芯に、胸がみしみしと痛む。


「私は、この国を憎んでいます。ですが……、滅びることを待っていたはずのこの国が立ち直る可能性に、戸惑いながらも……期待してしまう」

 まっすぐに、どこか複雑そうに細められたそれに首をかしげると、すぐにカイルははっとして頭を下げた。


「失礼しました、クリスティ様。仮にも王妃であるあなたに、失言でした」

「うん、仮に、じゃなくて、実は本物の王妃なのよ、私」

 そう言って顔を見合わせると、私達はどちらからともなく、ふはっ、と噴き出した。


「……ねぇカイル。私、この国の衝動は仕方がないものだとは思う。種族の特性は、私達がどうこう言えるものではない。だけど、それが絶対であってはならないし、罪は罪として裁かれるべきだと思っているわ。私に何ができるかはわからない。だけど仮にも、いえ、実は本物の王妃だから──やれるだけ、やってみるつもりよ。きちんと、人と獣人が整備された法の下に、対等に生きていけるように」

「クリスティ様……」


 そう、私が決意を言葉にした、その時だった──。



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