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仮初めの王妃~3つの契約を課したのは、あなたですよね?~  作者: 景華


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29・Sideルシアン



「……静かだな」

 玉座に座り、ぽつりと漏れた声は、やけに空虚だった。


 かつては常に人の気配があった玉座の間。

 臣下が並び、声が飛び交い、国が動いていた場所。

 それが今は――ひどく、広く感じる。



「報告いたします」

 臣下が距離を取ったまま頭を下げる。

「……何だ?」

「西部のゴルティア公爵家と公爵家派閥の家一体が、正式に離反を表明しました」

「……そうか」


 驚きはない。

 もう何度も聞いた報告だ。

 ここ最近はずっとそう。

 どこどこの一派が王家の派閥から手を引く、どこどこの貴族が王制反対運動に加担している。

 聞き飽きた。


「理由は」

「……“王は偽りの番にうつつを抜かし、国を守れなかった”と」

 言いづらそうに言葉を紡ぎ出した臣下に、俺は乾いた笑いをこぼした。


「……正しいな」

 否定できない。

 あの日、国は壊れかけた。

 そして救ったのは────自分ではない。



「他には」

「民の支持も……その……」

 言葉を濁すが、言わなくても分かる。


「……クリスティ様に、集まっております」


 やっとのことで口にされたその名を聞いた瞬間、指が、わずかに震えた。


「……当然だ。彼女が救ったのだからな」

 否定の余地など、どこにもない。


「もういい。下がれ」

「はっ……」

 臣下が逃げるように去って、再び謁見の間には静寂が訪れた。


「ふぅ……」

 俺は静かに息を吐き、ゆっくりと目を閉じた。


 思い出すのは、あの日の言葉。



『契約を、忘れましたの?』



 忘れるはずがない。

 あれは、自分が与えたものだ。


 彼女を遠ざけるために。

 彼女を“不要な存在”として扱うために。


 「……愚かだな」


 誰もいない玉座の間で、呟く。


 分かっている。

 最初から、どこかで違和感はあった。

 それでも、自分は、“楽な方”を選んだ。


「……番、か」

 その言葉が、今はひどく虚しい。


 本能。

 絶対。

 運命。

 そんなものに縋った結果が、これだ。


「……違うな」

 ぽつりと、否定する。


「選ばなかったのは、俺だ」


 そして俺は玉座から立ち上がる。


 虚ろな目で虚空を仰ぐ俺は、そこに座る資格はないと理解していた。



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