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仮初めの王妃~3つの契約を課したのは、あなたですよね?~  作者: 景華


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28/31

28・3つの契約を課したのは、あなたですよね?

 

「クリスティ……まさか……お前が……おれの?」

 その言葉とともに、彼が一歩、こちらへ近づこうとする。


 え?

 俺の?

 いや、いやいやいや、まさか、そんなわけ……え、本当に?


「この香り、あぁそうだ、間違いない!!」

 興奮したようにそうぶつぶつと口にするルシアン様に、私の中に冷たいものが落ちる。

 そして────。


「契約を、忘れましたの?」


 ぴしゃり、と、自分でも驚くほど冷たい声が出た。

 私のその声に、私の方に歩みを進めるルシアン様の足が止まった。

 私は距離を保ったまま、さらに言葉を重ねる。


「一つ、『愛を求めない』。一つ、『望まない』。一つ、『近づかない』」

 ゆっくりと正確に、誤解など一切残さないように並べていく。


「全部、あなたが望んだことですよ?」

 その言葉に、ルシアン様の表情が、はっきりと歪んだ。

 後悔か、混乱かわからない。けれど──……。


 そんなものは、もう私の知るところではない。


「違う……。違う、あれは……っ」

「違いませんわ」


 すぐにその希望を断ち切る。

 一歩たりとも踏み込ませないように。


 だってそうでしょう?

 された扱いは、言われた言葉は、消えないんですもの。

 結婚よりも先に結ぶことになった、あの妻への侮辱以外の何ものでもない、破られない契約も。


 そして私は、ほんのわずかに首を傾げた。


「ねえ、陛下」

 出てきたのは、自分でも不思議なくらい、穏やかな声。


「“番”って──何だったのでしょうね?」

「っ……!!」

 問いかけた瞬間、胸の奥にあった何かが、静かにほどけた気がした。

 そして私は、ルシアン様に背を向けて歩き出す。

 与えられた、”別邸”という名の私の城へ戻るために。


 次の瞬間──。

「うぁぁあぁああああああああ!!」

 空を裂くような咆哮が町中に響き渡った。

 ルシアン様の叫びだ。


 悲痛で、どうしようもなく取り返しのつかないものを失った者の声。


 けれど私はそれを背に、ただ静かにそれを聞いていた。

 私が振り返ることは、絶対にない。


 だって私は、守っているだけだもの。3つの破れぬ契約を。


 その3つの契約を課したのは、あなたですよね? ──ルシアン様。




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