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第26話:深夜のシステム更新と定額働かせ放題の罠

……結局。


ストックが無い状態になっても、通信機越しのスイの悲鳴と無言の圧力は止まらず、私は深夜までアナログな書類整理のアドバイスを手伝わされる羽目になっていた。


無能と呼ばれ虐げられてきた私だが、生きるために身につけた実務能力と頭の回転は、自分でも嫌になるほどこういう場面で役に立ってしまうのだ。


そしてようやく時計の針が頂点を指そうとした頃。


ボーン、ボーン……。


別荘のリビングに置かれたアンティーク時計が、深夜0時の鐘を鳴らした。


「……勝った。私の完全勝利よ」


私は目の前の忌々しい通信機を睨みつけながら、勝利を確信して不敵な笑みを浮かべた。


「ピロン♪」

『ストックが最大値【3】に回復しました! 本日もインフォメーションをご活用ください!』


脳内に響く待望のアナウンス。


私はすかさずホログラム越しにこちらを伺っているスイへと宣告した。


「スイ、聞いてる!? 今からストックを【3】つ全部使い切って、隣国の外務大臣の裏金ルートを根こそぎ引っこ抜いてあげるわ! それを渡したら、本日の業務は完全終了よ。明日の0時まで、私は絶対にこの通信機には出ないから!」


『お、お待ちくださいリズ様! せめてあと5件、いえ、あと3件だけでも追加の身辺調査を……!』


「問答無用! ストックがないものは物理的に検索できないんだから、あきらめなさい!」


高笑いしながら、私はインフォメーションにプロンプトを叩き込んだ。


(教えて、インフォメーション! 隣国の砦破壊を隠蔽する『最適な交渉ルート』と『大臣の裏金証拠』と『砦責任者の悪事』を全部!)


『該当いたしました! 消費ストック【3】でご案内します!』


脳内に流れ込んでくる膨大な情報を、私はそのまま通信機越しのスイへと叩きつけた。


「はい、スイ! これで本日のストック【3】は全て使い切ったわ! 私のギフトは空っぽよ。もう物理的に検索は不可能なんだから、私を働かせることはできないわね。じゃあ、良い夢を。二度と今日中に繋がないで頂戴!」


『あ、リズ様! お待ちくださ――』


パチンッ!!


私はスイの制止を遮り、魔石の通信を力強く遮断した。


静まり返るリビング。


私はソファに深く沈み込み、勝利の美酒(冷めた紅茶)を一口啜った。


「あーっはっはっは! 見た、ミド!? これで私は正当に、物理的に、今日の仕事を終わらせたのよ! どんなに頼まれても『弾切れ』なら仕方ないものね!」


「……あんた、悪い顔してるわねぇ。まあ、その執念は認めてあげるわ。お疲れ様」


ソファでクッションを抱えていたミドが、呆れたように、けれど少しだけ感心したようにジト目を向けた。


ああ、なんて素晴らしい夜。これから明日の0時まで、私は誰にも邪魔されずにスローライフを――。


その瞬間だった。


いつもなら「検索終了」で消えるはずのウィンドウが、突如として砂嵐のようなノイズに包まれた。


「……えっ? 故障? インフォメーション、どうしたの?」


「……何よ、その音。すっごく嫌な予感がするわね」


ミドが跳ね起きた。


直後脳内に響いたのは、いつもの能天気な合成音声よりも洗練された、シスタネお姉様のような完璧な営業スマイルを感じさせる女性の音声だった。


『――システム、アップデートを開始します。……完了しました』


『おめでとうございます。お客様の貢献度が規定値を超過したため、インフォメーションは生産性向上のための【Ver. 2.0:ビジネス・エディション】へと自動アップデートされました』


「びじねす……えでぃしょん……?」


私の目の前でウィンドウが青白く、スタイリッシュなデザインへと書き換わっていく。



【アップデート内容のご案内】

最大ストック増量: 【3】→【5】へ

※差分となる【2】ストックを即座に付与いたしました。


ライトクエリ機能: 人名・地名等の簡易検索はストック消費【0】で回数無制限に。


【新規】管理者同期: 登録済みの「管理者(リピート、スイ)」へ、お客様の「ステータス」と「検索ログ」がリアルタイムで共有されます。

(※現在、管理者2名があなたの【オンライン(稼働中)】ステータスを確認しました)



「…………は?」


私は各項目を三度見した。


ストックが増えた?


つまり、空っぽだったはずの私の弾丸が、今この瞬間にリロードされた?


というか簡易検索は回数無制限?


それだけじゃない。


私の「検索ログ」も「稼働状況」も、あのお兄様たちに筒抜け……!?


「……ねえ、リズ。あんた、今なんて言った……?」


「ストックが、補充されて……私の状態が、お兄様たちに、リアルタイム共有……」


私が震える声で告げた瞬間。


ミドが絶望的な形相で天を仰いだ。


「……終わったわね。最悪のアップデートだわ。『無制限』なんて聞こえはいいけど、これ要するに……【定額働かせ放題プラン】に『無料タダだからお得でしょ?』って強制加入させられたのと同じじゃない」


「……働かせ、放題?」


私が呆然と呟いた、その時だった。


ピロリロリロリロッ!!! ピロリロリロリロッ!!!


切ったはずの通信機から、耳を劈くような爆音が鳴り響いた。


それは、システムから「部下のキャパシティが増えました、働けます!」という通知を叩きつけられた上司による、歓喜の咆哮だった。


『リズ様ぁぁぁっ!! 今、手元の管理パネルに通知が来ました!! 弾切れなんて嘘じゃないですか!! ステータスが「対応可能アクティブ」に変わりましたよ!!』


通信機の向こうで、スイがこれまでにないほど興奮した様子で――もはや限界突破した笑顔で叫んでいる。


『しかも【ライトクエリ】無制限……! これなら、今までストックを惜しんで後回しにしていた「帝都の全貴族の昨日の献立」や「全役人の遅刻回数」といった、細かい【嫌がらせの材料】が、今すぐに、無制限で手に入ります!! さあ、続きを始めましょう!!』


「あ、違うのスイ! 私はもう寝るの! 私はスローライフを……!」


『さっそく、追加の調査リスト【128件】をデータで送りました! なにせストック消費ゼロですからね!リズ様、スローライフの合間の「暇つぶし」に、サクサクと検索しておいてください!!』


ピロリン! ピロリン! ピロリン! ピロリン!


「息抜きの量じゃないわよぉぉぉっ!!」


私は通信機の前で頭を抱え、必死に脳内のウィンドウに向かって念じた。


(インフォメーション……! この『無制限機能』、オフにできないの!? 管理者共有も切りたいんだけど!?)


『【回答】:設定の変更は不可能です。お客様の業務効率および利便性向上のため、本機能はデフォルト設定(解除不可)となっております。速やかに次の検索クエリを入力し、業務を再開してください』


「…………」


流暢で無機質なAIの宣告に、私はソファに崩れ落ちた。


無料。タダ。ストック消費なし。


その甘美な言葉が、これほどまでに残酷な凶器となって私に突き刺さるとは。


「……ほらね、リズ。タダより高いものはないって、前世の偉い人が言ってたわよ」


ミドがもはや憐れみすら通り越して、悟りを開いたようなジト目で私を見つめていた。


「『無料だからいくら頼んでも大丈夫』っていう悪魔のロジック。これ、ブラック企業の経営者が一番大好きな言葉なのよね……。あんた、完全に『共有カレンダー』で24時間監視される地獄に引きずり込まれたわよ」


さらに追い打ちをかけるように、通信機からひどく穏やかで……最高に楽しげなリピートお兄様の声が漏れ聞こえてきた。


『――そうか。リズの力が進化したのか。素晴らしいね、スイ』


「お、お兄様……!?」


『では、以前から懸案だった【帝都の全地下水路の構造マッピング】も、いまの彼女ならストックを気にせず「片手間」でやってくれるだろう。……ログはこっちで見ているから、リズ、気負わずにやっておくれ』


「片手間で帝都をハックさせるなぁぁぁぁっ!!」


窓の外では農民の服を着た騎士たちが、夜通しの交代勤務(シフト制)で「異常なし!」と叫びながら松明を掲げて走り回っている。


私の念願だったスローライフは、ギフトの「良かれと思ったビジネスアップデート」によって、もはや睡眠時間すら危うい『ブラック・リモートワーク地獄』へと変貌を遂げたのだった。


(本日の残りストック:2 / ライトクエリ:無制限開放中 / 管理者同期:アクティブ)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


更新の大きな励みになりますので、もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると大変嬉しいです。


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