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第21話:平和な朝のティータイムと昼寝確率0パーセント

地下神殿での決戦から、一週間。


帝都を揺るがした第5皇子ワルモンドによる反逆未遂事件は、第6皇女プリーズ=アフタミアの圧倒的な『情報』と『采配』によって、奇跡的に死者ゼロという結末で幕を閉じた。


ワルモンドは皇位継承権を完全に剥奪され、裏切り者のエルドラと共に捕縛された。


二人に下された判決は、地下牢での幽閉でも城の清掃員でもなく……『第2皇女ネネードの専属荷物持ち(兼・囮役)』として、Sランク指定の危険地帯『絶望の魔境』へ送られるという、死と隣り合わせの超ブラック労働だった。


ネネードお姉様からは「こいつらを囮にして魔境を散歩する許可が出たおかげで、書類仕事のストレスが溜まらねぇぜ!」と物騒な魔法通信が届いている。


彼らは、ミドが「回復力は完璧だけど、副作用で『魔獣を猛烈に引き寄せるフェロモン』が出るから使い物にならない」とお蔵入りにしていた失敗作を、ネネードお姉様が『回復もできて囮にもなるなんて最高じゃねえか!』と嬉々として持ち出した『特級回復薬(兼・魔獣の撒き餌)』を持たされているらしい。


そしてネネードお姉様がリスポーンで帰還するたびに、魔獣を引き寄せる匂いをプンプンさせながら魔境のド真ん中に取り残されるという、究極のサバイバル(鬼ごっこ)地獄を味わっているとのことだ。


自分の命を盾にして安全圏から高笑いしていた男と、強欲さで主を裏切った女にはこれ以上ないほどお似合いの罰だろう。


「……ふぅ。やっと静かになったわね」


私は迎賓館のバルコニーでミドが淹れてくれた最高級の紅茶を楽しみながら、心地よい朝の風に目を細めた。


たった今、インフォメーションのストックを使って、魔境で涙と鼻水まみれになって逃げ惑う彼らの惨状を『検索』してスッキリしたところだ。


これでお兄様たちとの貸し借りも完全に精算したし、私は辺境の領地でのんびりとスローライフを送る……はずだった。


「――失礼するよ、プリーズ。朝のティータイム中に邪魔をしてすまないね」


「……げっ」


バルコニーの扉が開き、この世のものとは思えないほど爽やかな笑顔を浮かべたリピートお兄様が入ってきた。


その後ろには、山のような書類を抱えて今にも倒れそうなスイ。


さらに純白のドレスを揺らすシスタネお姉様と、なぜか孤児たちをゾロゾロと引き連れ、腕に小さな子猫を大事そうに抱えたネクロノお兄様までが付き従っている。


「ちょっと、皆お揃いでどうしたの? 私は事件が解決したら、辺境の別荘で一切の公務をせずに寝て暮らす予定なのですが」


私が不機嫌にティーカップを置くと、リピートお兄様は「ははは、もちろん覚えているとも」と笑いながら、私の目の前に分厚いリストを広げた。


「君の望み通り、辺境に最高の別荘を用意したよ。ただ……君の『インフォメーション』がなくなっては、今後の帝国経営に支障が出ると皆が泣いていてね。……まずはこの国境警備の最適化ルートを検索してくれないか?」


「……スイ」


「はい。すでに『本日のお仕事リスト・第一派閥分』として整理してあります、殿下……」


スイが死んだ魚のような目で、ドサリと書類を私の机に並べる。


すると、すかさずシスタネお姉様が私の手を両手でぎゅっと握りしめてきた。


「プリーズ! 私からもお願いよ。今朝の祈りで『プリーズの叡智を教会の運営にも活かせ』という確かな神託が下ったの! だからこの、教会の不正経理の洗い出しと、慈善事業のターゲット選定も検索してちょうだい!」


「神託をそんな事務作業のゴリ押しに使わないで!?」


ドンッ、とさらに『第三派閥分』の書類の山が追加される。


私が目を白黒させていると、横からネクロノお兄様が「……プリーズ」とおずおずと花飾りを差し出してきた。


「孤児院の子供たちが、君にお礼の花飾りを作ったんだ。本当に、ありがとう。……それで、ええと……」


ネクロノお兄様は少し頬を赤らめながら、懐から黒いバインダーを取り出した。


「僕が管理することになった『スラムの再開発計画』なんだけど……君の完璧な指示がないと、どこから手をつけていいか分からなくて。……助けて、くれないかな?」


「〜〜〜ッ!」


子供たちの無邪気な笑顔と、かつての覇気を失ってすっかり『気弱な弟キャラ』みたいになったネクロノお兄様の上目遣い。


……こんなもの無下になどできるはずがない。


「いいじゃない、リズ。これだけの報酬、最高級のお菓子と茶葉を貰ってるんだから。ほら、私の実験用の薬草園の候補地もついでに検索しなさいよ」


ミドまでがリピートお兄様から賄賂(特級の錬金素材)を受け取ったらしく、私の隣で楽しそうに笑いながら身内を売り飛ばしている。


「……はぁ。なんてこと。結局、場所が変わっただけで私の『インフォメーション』が全員から狙われているじゃない。……ねえ、『教えて、インフォメーション』」


私は特大の溜息を吐きながら、無音設定のウィンドウを呼び出した。


(私が今日、この書類をすべて放り出して昼寝できる確率は?)


ピカッ


『該当いたしました! 消費ストック【1】でご案内します!

【回答】:0%です! 本日もリピート殿下、シスタネ殿下、ネクロノ殿下、ネネード殿下から合計58件の依頼が予約されています! 帝国の命運はあなたにかかっています、お客様!

(本日の残りストック:1)』


「……最悪だわ」


私は額を押さえ、諦めたようにペンを取った。

どうやら私の本当の平穏への道のりは、まだまだ遠そうである。


だが、ただ黙ってこき使われるだけの私ではない。


「よし。やるわよ! その代わりお兄様! 今夜の夕食は帝都で一番高いお店を貸し切りにするし、この書類の清書とハンコ押しは、あなたたち三人にも手伝ってもらうわよ!」


「ああ、もちろんだとも。君の望むものはすべてこの私が保証しよう」


「ええ。神の加護もあなたと共に働くわ!」


「……うん。僕も、頑張るよ」


お兄様たちのどこか企みのありそうな、しかしこの上なく楽しげで頼もしい微笑みを見ながら。


私は今日も、あらゆる秘密を暴き、盤面を支配する準備を整えるのだった。


これにて第1章の継承戦争サバイバル編は終了です!EX数話後の第2章からは、念願のスローライフ……と思いきや、圧倒的な有能さゆえに『終わらない書類仕事と定時退社』を巡る、ドタバタお仕事・内政コメディ編がスタートします! お楽しみに!


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