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第20話:2周目の盤面支配と天井に突き刺さる氷のミノムシ

帝都の地下深く。


ひんやりとした不気味な冷気と、カビの匂いに包まれた地下神殿。


私たちは今日二度目となるこの絶望の舞台へと足を踏み入れた。


「ようこそ愛しの妹たち。そして裏切り者の泥ネズミども」


神殿の最奥。


祭壇の玉座にふんぞり返るワルモンドが、昨日(1周目)と全く同じ、酷薄な笑みを浮かべて私たちを見下ろしていた。


だが今日の私たちの陣形は昨日とは違う。


私の隣には、昨日はいなかったリピートお兄様とシスタネお姉様が最初から堂々と並び立っている。


「ワルモンドお兄様……。あなたの悪ふざけも、ここまでよ」


私が冷たく言い放つと、ワルモンドは鼻で笑った。


「降伏、だと? はっ、無能なハズレ皇女が第1・3派閥を巻き込んだ程度で随分と偉そうに――」


「ストップ。その長ったらしい三流悪役の台詞、昨日も聞いたからもういいわ」


「……は?」


ワルモンドの顔が引き攣る。


私はダボダボのローブの袖をまくり上げ、極悪な笑みを浮かべて一歩前へ出た。


「あなたが自身の命と帝都の市民5万人をリンクさせていることも、ネクロノお兄様の孤児院の子供たちを人質にしていることも全部知っているわ。……だから今日は防衛戦なんてしてあげない」


今朝私はストックを【1】消費して『エルドラを確実に激怒させておびき寄せる最高に効果的な挑発』を事前に検索しておいた。


私はワルモンドの背後へ視線を移し、さらに口角を歪める。


「エルドラ。いつまでワルモンドの影で震えているの? あなたがワルモンドに報告した『忠義のメイド』っていう嘘がバレて、またあの泥水みたいな生活に逆戻りするのがそんなに怖いの?」


「なっ……!? なぜそれを……!」


図星を突かれたエルドラの顔が驚愕から真っ赤な怒りへと染まる。


「ふざけないでよ泥船皇女! あんたは大人しく私の輝かしい人生の踏み台に――!」


ワルモンドの背後に隠れていたエルドラが、昨日と同じように血走った目で私を睨みつけ猛スピードで突撃してきた。


「はいそこまでよ」


私がピシャリと扇子で指し示すと、突っ込んできたエルドラの足元がツルッと不自然に滑った。


ミドが事前に床へ撒いておいた、超強力な魔界スライムの粘液である。


「えっ……きゃああああっ!?」


エルドラは勢いよくすっ転び、顔面から石畳に激しくスライディングした。


そのままズザーッと滑っていき……神殿の隅にある魔力ランプの鉄柱にゴンッと激突して白目を剥いた。


「ざまあみなさい。リズを背後から突き飛ばした痛みの何百分の一だけどね」


「ええ。私たちの命に代えても二度と殿下には指一本触れさせません」


ミドが冷ややかに見下ろしスイも静かな怒りを込めて言い放つ。昨日の惨劇の記憶を持つ二人の瞳には確かな報復の達成感が宿っていた。


「あらごきげんようエルドラ。あなたの浅ましい行動パターンなんてとっくに検索済み(サーチずみ)なのよ。……そこで一生寝ていなさい」


私が冷たく見下ろすとワルモンドは舌打ちをした。


「チッ……小賢しい真似を。だが、俺を攻撃できないことに変わりはない! ネクロノ、やれ!」


ワルモンドの命令でネクロノお兄様が重い腕を上げる。

魔法やギフトを無効化する『深淵の闇』が展開されようとした、まさにその瞬間。


「ネクロノお兄様! 安心してください、あなたの『孤児院の子供たち』は一時間前にリピートお兄様の近衛騎士団が全員無事に保護しましたわ!」


「……えっ?」


ネクロノお兄様の動きがピタリと止まった。


「嘘だと思うなら、これを見てちょうだい!」


私は無音設定のウィンドウを呼び出し、本日のストックを一つ消費した。


(『教えて、インフォメーション!』 ネクロノお兄様の孤児院の子供たちの現在の安全な様子を画像で!)


ピカッ!


『該当いたしました! 消費ストック【1】でご案内します!(本日の残りストック:0)』


これで今日のストック【3】はすべて使い切った。


完璧な計算通りだ。


私の視界に浮かんだウィンドウを、ミドが即座に幻影魔法で空中に巨大なスクリーンとして投影する。


そこにはリピートお兄様の騎士たちに保護され、温かいスープを飲んで笑顔を見せる子供たちの姿が鮮明に映し出されていた。


「あぁ……っ! アナ、トミー……みんな、無事、だったのか……ッ」


ネクロノお兄様の目からボロボロと大粒の涙が溢れ出した。


そして彼は向けていた腕をだらりと下げ、その場に泣き崩れたのだ。


「なっ……貴様ら、いつの間にスラムへ……!? ええい、ネクロノ! 契約違反だぞ!」


焦るワルモンドを無視し、私は扇子をパチンと閉じてクスリと笑った。


「これであなたの絶対の盾だった魔法無効化は消えたわ。……シスタネお姉様! 闇の邪魔が入らない今ならいけるわね!」


「ええ。任せてちょうだい、プリーズ」


純白のドレスを揺らし、シスタネお姉様が静かに前に出た。


彼女の手には、私が以前渡した『裏帳簿』と、今朝ストックを【1】消費して検索で隠し場所を割り出し、回収させておいた『絶対契約の書面(原本)』が握られている。私は事前にその書面から契約の『抜け道』を読み解き、お姉様に伝授しておいたのだ。


「神よ。数多の命を盾にし、私欲のために国を売ったこの愚かな兄を……私は『罪人』と認定します。……『神の断罪』!!」


シスタネお姉様が祈りを捧げた瞬間、彼女から放たれた神々しい光がワルモンドの体を包み込んだ。


……いや、狙ったのはワルモンド自身ではない。


彼の心臓に巻き付いていたおぞましい『絶対契約』の鎖だけをピンポイントで捉え、光の塵へと浄化させ消滅させたのだ。


「が、あああああっ!? お、俺の契約が……俺の、無敵の盾がぁぁっ!?」


ワルモンドが胸を押さえて絶叫する。


これで市民5万人とのダメージリンクも孤児たちへの呪縛も、すべて完全に消え去った。


盤面は完全にひっくり返った。


あとは仕上げの『お掃除』だけだ。


「さあ、ネネードお姉様」


私は後ろでウズウズと待機していた狂皇女を振り返り、極悪な笑みを深めた。


「お待たせいたしました。……ワルモンドお兄様に日頃のストレスを存分にぶつける物理教育を許可します。ただし死なない程度の一撃でね」


「しゃらぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! 待ってましたァァ!!」


ドゴォォォォンッ!!


ネネードお姉様が神殿の石畳を粉砕する勢いで踏み込んだ。


「ひぃっ!?」と悲鳴を上げる間もなく、彼女の巨大な戦斧の『究極に手加減した峰打ち』がワルモンドの顎をカチ上げる。


「テメェがコソコソ裏工作なんかするせいで、私がどれだけ面倒な事後処理の書類を書かされたと思ってんだァァッ!! 私のストレス、全部テメェで受け止めやがれェェ!!」


「ごぼふぁっ!?」


ワルモンドの体はまるでボールのように美しい放物線を描いて宙を舞い、神殿の高い天井にズボッ! と逆さまに突き刺さった。


「あー、スッキリしたぜ! 妹よ、もう一発殴っていいか!?」


「駄目よお姉様。それ以上やったら彼、壊れちゃうから」


天井からダラリと垂れ下がり、完全に気絶しているワルモンド。


「ミド、スイ。彼が落ちて怪我をしない様にお願いね」


「了解。とびきり頑丈な茨でぐるぐる巻きにしてあげるわ」


「完璧な氷のオブジェにして差し上げます」


ミドのツル植物が天井のワルモンドをミノムシのように縛り上げ、そこへスイの冷気が直撃する。


わずか数秒で地下神殿の天井には、かつて私を陥れた第5皇子が「哀れな気絶顔をした氷漬けミノムシ」となって吊るし上げられていた。


「……すごいな。本当に、あのどうしようもなかった盤面を、こうも鮮やかに、そして一切の流血もなく(?)ひっくり返してしまうとは」


私の隣でリピートお兄様が氷漬けの兄を見上げながら、深い感嘆の溜め息を漏らす。


「言ったでしょう? 私にかかれば、こんなものよ」


私は優雅に扇子を広げ、口元を隠してクスクスと笑った。


私が生き延びるための最高の盤面支配。


これにて1周目の絶望の清算は、完璧な形であっさりと完了したのだった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


更新の大きな励みになりますので、もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると大変嬉しいです。


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