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魔界の平和は彼らによって  作者: ダイアのナイン
第1章 皇国遠征編
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Chap1 ep16-真相、仮面の下に

「うっ・・・・・・」


 シュレン小隊長が受け入れ難い眼前の光景に声を漏らした。湖に浮かぶ漆黒の船。湖の周りの大量の魔物が舞り、甲板の上では宴が開かれている。生捕りにされた人間や動物を惨殺し、その血を浴び肉を食らう。阿鼻叫喚が耳に響いた。レイエス小隊長は反射的に魔力を構築する。


「ふざけやがって」


「レイエス小隊長、下がれ」


 これ以上の接近は危険だと判断した連隊長が撤退を促した。レイエス小隊長に納得の様子はない。


「しかし・・・・・・」


「撤、退、だ。と言っている。3人であれを一掃できるとでも? お前は小隊長だ。」


 我儘を言う兄を叱る父親のように両肩に手を乗せ告げた。尤も、その目には父親のような優しさはなく、淡々とした口調からは憤りすら汲み取れる。


「失礼しました」


 冷静さを取り戻した小隊長は指示通り退いた。もう一方の小隊長は、酷く悪化していた光景が目に焼き付き、苦しみに悩まされる。



♦︎皇都宿場・病室


 文字通り何もできぬラドエフは退屈の悪魔に苦しめられた。そこに、治癒士と同伴したルアナが部屋を訪れる。


「ここ、が、ふろせるさんの、びょう、しつです」


「生きてたのね・・・・・・」


 心無しかその声は僅かに震えているようだった。ラドエフはどんな表情を見せれば良いのかわからず、戸惑いを隠すように苦笑する。


「ジャックとサンティアは――」


「2人とも寝てる。班長が生きてたって言うのに」


 微笑みながら、食い気味に返答が来た。


「そうか、頑張ってくれたんだな。ところで、俺はどれくらい気を失っていたんだ?」


「ええと、大体1日くらいかしら」


「そんなにか。迷惑を掛けたな、すまない」


 丁度良いリスニング教材を見つけた治癒士は、隣で2人の会話を頷きながら聞いている。ラドエフは勉強熱心な彼女に感心していた。


「あの狐を殺せたのか? 容易い敵ではなかったはずだが」


「ええ。討伐したわ。デルデノットさんが」


「連隊長が? 誰かが助けを呼んだのか」


「いや、偶然通りかかったみたい」


「とんだ幸運だな」


 今思えば、かなり運が良かった。3人で戦闘を始めていれば、今頃フローセル班は名簿から消えていただろう。


「そういえば、山の上で戦った魔物がいただろ?」


「ええ。下からはあまり見えなかったけど」


「そいつ、喋ったんだ。しかも大陸共通語」


 勉強熱心な語学生の顔が曇ったことに、2人は気付かなかった。何事もなく会話は続く。


「へえ、なんて言ってたの?」


「確か、2回日が・・・・・・ん? つまり今日の夜ってことか」


「え? 何の話よ」


「ヒャッキ、ヤコウ? ってのを――」


 ラドエフは言い切る前に、治癒士が何かに怯えるように震えていることに気付いた。


「ふろせるさん、ヒャッキヤコウ、と、いっていた、ですか?」


 まだ慣れぬ大陸共通語でどうにか言葉が紡がれていた。ルアナは治癒士の背中を摩り、落ち着かせる。


「はい。確かにヒャッキヤコウと」


「すこ、し、まって、いて、ください」


 そう告げると、治癒士は退室した。暫く沈黙が続いた後、ルアナが口を開く。


「倒れた後にね、すごい風が吹いたの。これが限界放出か、って。もう死んじゃうのかと思って」


「全く記憶に無いな。それにあの時は魔力を余らせてた」


「まあ、生きていて良かったよ」


「後任は任せた。もし俺が死んだらフローセル班はウィール班に改名だ。はは」


 10割冗談のつもりであったが、ルアナの表情が一瞬暗くなった。その表情は悲しみだったのかもしれない。すぐに口角を上げてみせたものの、何かを隠すように背を向け、立ち上がった。そして特に飾り気のない質素な病室を眺めるように歩き回る。表情を一切見せぬ不自然な動きであった。


 戸が叩かれ、治癒士に加えて2名が入室する。どちらも見たことがある顔だった。入港時に連隊長と挨拶を交わした老将と通訳の青年。


「それじゃ、また。早く良くなってね!」


 まるであの一瞬の表情が嘘だったかのように、振り返り様に見せた表情は明るかった。


「フローセルさん、言葉を操る魔物を見たというのは本当ですか?」


「ああ。赤い顔に長い鼻、葉のような魔術具を持ってた」


 魔物の特徴が老将に伝えられる。


『うむ、間違いないな』


「その魔物がヒャッキヤコウ、と?」


「ああ。2回日が落ちた時、つまり今日だ」


『百鬼夜行はやはり今日です』


 老将はラドエフに頭を下げ、足早に退室した。


「フローセルさんのおかげで対策を練ることができます。ありがとう」


 青年も老将に追いつくように走り去っていく。結局、何を意味する言葉なのかは知ることができなかった。


 辛うじて上体を起こせるまでに成ったラドエフは、窓の外にに目をやる。この日が落ちた時、一体何が起こると言うのか。しかし、その時が来ても重度の負傷者には天井の木目を眺めることしかできないだろう。唐突に自身の非力さを突きつけられてしまう。



♦︎皇国南部・ウォック小隊警備区域


 ウォック小隊が担当する南部地域は、元から魔物が少なく、穏やかな地域であった。とは言え、今ウォック小隊長の前に広がっているような、魔物が何一つ存在しない光景はあり得ない。


「小隊長。向こうも、0です」


 南部地域からは、完全に魔物が消え失せていた。すると、小隊長にのみ配布された通信機が呻る。


「全隊員に告ぐ! 今すぐ皇都へ帰還したまえ!」


「――!? こちらウォック小隊、了解」


 やはり何か異常が生じている。南部地域の各班、加えて道中の別小隊の班も引き連れ、皇都への足を急がせた。夕暮れ時の陽光が、ウォック小隊長率いる小集団を照らす。


 皇都へ到着したウォック小隊長は、真っ先に臨時会議室へ向かった。狭い室内を皇国軍やパトローラーが行き交う。連隊長と3人の小隊長も集結していたが、シュレン小隊長のみ見当たらない。


「やっと来たか、ウォック小隊長」


「シュレンはどうした」


「シュレン小隊は万物秘澱(元凶の湖)を囲ってる。百鬼夜行に備えてな」


 頭上に疑問符が浮かべるウォックであったが、詳細は語られない。事態が良い方向に進んでいないことだけは確かであった。

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