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魔界の平和は彼らによって  作者: ダイアのナイン
第1章 皇国遠征編
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Chap1 ep13-彩る、紫炎の絨毯

 魔物は絶えずフローセル班を襲う。一体どれだけを討伐したのか、覚えている者などいなかった。矢が底を尽きたサンティアはルアナに付き添い、短剣で応戦している。ジャックは一度大きな負傷を負ったが、ルアナの治癒精霊の力によって戦線復帰を果たしていた。


 丘上での戦いでかなりの魔力を消費したラドエフは、雑に魔術を使うことは控え、いざという時のために温存する選択をとる。よって大鎌のみでの戦闘を強いられた。ほとんどの魔物が頸を弱点としているため、慣れれば簡単に処理することができる。しかし頸が無かったり再生能力が高かったりする魔物も少なくない。そういった類を相手にするのは非常に骨が折れる作業であった。コートは血に塗れ、重みが増して動きづらさを感じる程になっている。


 空を見上げると、月が姿を消し日が出ようとしていた。ラドエフの脳裏に魔物の言葉が過る。


「2回日が落ちたら決行・・・・・・」


 そして、脳内で何度も復唱した言葉を呟いてみる。


「ヒャッキ、ヤコウ」


 今でもその言葉の意味はわからなかった。班長は班員達に呼び掛ける。


「そろそろ交代だな。誰か、次の担当隊員を連れてきてくれないか」


「ああ、俺が行こう」


 相対していた魔物の頭部を一蹴りで粉砕したジャックが答えた。


 あと少し。眼前に迫った休息に思いを馳せ、ラドエフは魔物の首を刈り続けた。



♦皇都臨時会議室


 デルデノットは各地の警備を担当する5人の小隊長を招集し、現状把握の機会を設ける。


「それぞれ、犠牲者の数と戦況の報告を頼む」


 順に殉職者の数と民間人への被害が報告されていく。隊員の犠牲は3名、重軽傷の差はあれど負傷者の数も少なくはなかった。


()の周辺を担当していたのは、シュレン小隊だったか?」


 連隊長の問いに射手の男が答える。


「はい。我々シュレン小隊が調査に当たりました」


 5人の視線が射手に集中した。


「あの湖には船が浮かんでいました。その船に見たこともないような魔物が大量に乗っていたんです」


 すると、南部地域を担当するウォック小隊長が挙手し発言を希望する。


「俺達の南部地域は比較的穏やかでした。少なくとも、レイエスやシュレンが話しているような戦況とはほど遠い」


「証言通りこの一連の騒動の元凶はここみたいだな」


 地図を広げ、目印代わりの駒を置いた連番隊長に異議を唱える者はいなかった。



♦︎ 皇都街道


 無事に後任者への引き継ぎを終えたフローセル班は、宿場への足を急がせていた。積み重なる疲労感は雑談すら許さず、他の2班と共に黙々と進む。


 道中、荷車押しの女とすれ違った。妙な違和感を覚えたラドエフは振り返り、女を引き止める。


「1人なのか? そっちは魔物で溢れ返ってる。護衛をつけた方がいい」


 女は何も発せず立ち尽くす。他の班の者が、余計なことをするな、と言わんばかりに手を仰いだ。それでもラドエフは女から目を離さない。


「大陸共通語がわかるのか」


 返答することもなく歩みを再開する女に、ラドエフも退こうとしたが、見逃さなかった。布で覆われた荷車の不自然な動き。残り僅かとなった魔力を練り上げる班長をジャックが制止する。


「おい、きっと疲労でおかしくなってるんだ。民間人に向けて何を―― いや、ああ。流石だな」


 ジャックは言い終える前に撤回し、制止の手を離した。その場に居合わせた全員の目が、火を纏いその姿を変貌させる荷車押しを捉える。九つの尾を揺らす狐が姿を現した。荷物に扮していた魔物も、布を引き破り3班分隊と対面する。


「やるしか、ないぞ」


 疲弊する隊員を鼓舞するようにジャックが声を振り絞った。多くの者が既に魔力を使い果たしており、魔術師は予備の武器を構える。ジャックが刺し投げた4枚のカードを皮切りに、戦闘が開始された。狐の魔物は纏う炎を9つに分け、射出する。


 突如飛来した炎塊を反射的に避けられた者はそう多くなかった。不規則な軌道を描いていた火砲が魔術師に直撃する。


「あっ」


 一瞬にして炎が体を覆い、苦痛に舞い踊る。そうして断末魔を上げることもなく地に伏せた。班長らしき剣士が仇を討たんと駆け上がる。行手を阻む人頭牛体の魔物は額を貫かれ、崩れた姿勢に追い討ちを掛ける形で斬り捨てられた。


 迫る剣士を前に、狐の魔物は体毛を金色に輝かせ、咳き込むような素振りを見せる。口元に火の粉が散り、剣士は咄嗟に盾を突き出した。狐が大量の空気を取り込み始める。死を悟った剣士は最後の抵抗を見せようと、剣を振り上げた。しかし振り下ろす事は叶わない。後方から街道脇の草原へ突き飛ばされる。


「馬鹿か。1人で突撃なんて無謀が過ぎる」


 どこか心当たりのある自身の発言に少々むず痒さを覚えた大鎌使いは、相対した狐と魔力を交えることに集中し、紛らわせる。口から噴き出る猛火に暴風で対抗した。またも魔力を浪費したか、自責の念が膨らみつつあったが、それよりも悔いるべきは暴風を行使したことである。


 行き場を無くした炎は草原へと逃げ道を見い出した。赤紫色を帯びる炎が緑色の草原へと広がっていく。まだ薄暗い草原が、揺らめく妖しい炎に照らされた。暴風が止めばこの炎を纏うことになる。コートの色は緑色だが、草原と同じ運命を辿るなど笑い事にならない。大鎌使いは、狐の肺活との我慢比べを決意した。


 後ろでは戦闘音が鳴り止まない。剣士と大鎌使いに見向きもされなかった魔物共が憤慨しているのだろう。余計な思考を巡らせるな、と自身を叱咤する。


 とうとう体内の空気を使い切った狐の魔物は息を切らせながら体毛を逆立たせた。大鎌使いも、これ以上魔力を使いたくはない。酷い熱気が立ちこめる戦場に反して、大鎌使いは冷徹な目付きで狐を見下ろす。

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