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魔界の平和は彼らによって  作者: ダイアのナイン
第1章 皇国遠征編
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Chap1 ep12-山上、吹き荒れる暴風

 ラドエフはこれまで、魔物に対する恐怖を感じたことがなかった。始めて魔物を見た時ですら恐怖が湧くことはなかったのだ。それが今目の前に聳える魔物は別だった。


「なんだ。私が怖いか?」


 魔力を練り上げようにも意識が定まらない。平原に溢れかえる有象無象とは別格の存在であることは明らかである。鼓動の高鳴りは止まず、動揺する心身を制御するのに必死にならざるを得なかった。


「討ち滅ぼしに来たのではないのか?」


 動揺を見透かしたように、淡々と言葉を放ち問い詰めるが、大鎌使いは無言を貫いている。


「ふふふ、ははは。あと2回だ」


 ラドエフは目を離さず、思考を巡らせた。すると魔物は沈黙を言及と受け取り、続ける。


「2回日が落ちた時、我々は――を決行する」


 最も重要な部分が聞き取れなかった。正確には大陸共通語ではない言葉だったのである。耳に入った通りに脳内で復唱するものの、何度繰り返したとて理解には及ばない。


「つまらん奴だな。もういい、見逃してやろう。さっさと行け」


 控えめな身振りで不機嫌そうに左手を仰いだ。勿論鵜呑みにする程ラドエフは愚鈍者ではない。この魔物は興味を失ってなどいなかった。右手に滾らせた膨大な魔力を隠し切れていない。


「はっ。正面対決じゃ勝ち目がないからか?」


 突如開かれた口から出たのは、不意打ちで仕留める謀略を見透かした挑発であった。


「小僧、あまり驕るなよ」


 表情は変わらずとも、その感情は確かに怒りであった。どうやら聞き取ることもできるらしい。かなりの知能を持った魔物であることが再認識される。状況に慣れたラドエフは、いつものように魔力を練り上げ始めた。魔物も大振りの葉を振り上げる。


 瞬間、互いの暴風が吹き荒れ押し合い出した。奇遇にも相手は同属性の魔術を心得ており、互いに運命的な親近感を沸かせる。魔力の解放はほとんど両者同時であったが、予め丁寧に練り込み、更に術具による強化を得た魔物の一撃の方に傾く。拮抗も一瞬で終わりを告げ、大鎌使いは耐え難い風圧を一身に受けた。


 平原で善戦を続ける班員達の意識も、巻き起こされた暴風へと向けられる。状況が中々掴めない。小高く盛り上がった丘の上で繰り広げられている戦闘には、援護するのは難しい。矢を射ろうにも射線が切られており、そもそも暴風に阻害されてしまうことが予想される。大人しく平原の魔物を仕留めていくことを強いられた。


 圧倒的な魔力差を突き付けられた大鎌使いにとっては、腕の隙間から僅かに見える風景が命綱となっている。しかし、いつ奇襲を仕掛けてくるかわからない状況下で、不運にも魔物を見失ってしまった。


「おい赤面ァ。やはり図星だったか! 不意打ちしか能がないってわけだ」


 叫びに応じるように暴風はその勢力を急激に弱める。大鎌使いは背後を奪われていた。即座に振り返り大鎌で弧を描く。寸前で後退した魔物は再び魔術具の葉を振り上げた。この完璧な間合いを崩すわけにはいかない。魔術具が振り下ろされる前に加速し、地面を這わせた大鎌を振り上げる。


 金属音が響き、仕留め損ねたことを悟った。左手に逆手で握られた刀が刃の進行を妨げている。振り払うように薙がれた魔術具から暴風が生まれ、大きく距離が開いた。後方へ押し飛ばされると共に姿勢を崩した大鎌使いに、刀を携えた魔物が迫る。


 乱れた姿勢のまま、魔力を練り上げ放出した。本来であれば牽制の用途を出ない風属性の直線放射。大鎌使いは膨大な魔力を費やすことで拡散させ、更に連射を見せる。風の刃の散弾は魔物に無数の損傷を与えた。それでも抑止力になることはなく、魔物は止まらず突き進む。消費魔力量に対して効果は薄かった。


 魔術による迎撃を諦め、大鎌の柄を短く握る。峰で刀を受け止め、滑るように沿わせた。標的を見失った刀が虚空を進む。魔物の左脚に刃先がめり込み、半ばまで進んだ辺りで刃先は推進力を失った。手前に引くと鮮血が飛び散る。今回ばかりは衣服が汚れることなど気にしてはいられなかった。


 左脚を抉られた魔物は重心を右へ移す。彷徨う刀身を呼び戻し、直ちに大鎌使いへ向かわせた。左肩を捉えたが、大鎌の回転により柄が刀を弾く。空を舞う刀に気を取られた一瞬の隙に、腹部へ膝が衝突した。魔術具による反撃を試みるものの、迫る大鎌が胸部を貫く。


「言い残すことはあるか?」


 問いに答えることもなく魔術具を振るった。大鎌使いを遠ざけることに成功する。それと同時に胸部を貫く傷が右側へ広がった。


「さああ”ぁ”ぁぁ”、来い。私はまだ舞うぞ」


 未だ目立った外傷がない大鎌使いにも、疲労が襲う。魔力を半端に使ったことを心から後悔した。それでも、左腕に魔力を纏わせ詠唱を始める。周辺を微弱な風が渦巻いていた。


 魔物も大鎌使いの計らいに乗じる。魔術具を右後方に掲げ、拾い上げた刀を左手で握り、突き出す構えをとった。右半身から溢れ出た鮮血が地面を彩る。


 再び同時に発動された風魔術が衝突し、鬩ぎ合った。そして互いに生み出した風の中を駆ける。両者が交わった時、戦いは決着した。魔物は腹部を境に胴を両断され、跪くように動きを止めた下半部、魔術具

と刀を握りしめた上半部を残して息絶えた。


 余韻に浸ることもなくラドエフが平原に目をやると、班員が魔物と奮闘しているのが目に映る。まだまだ交代の時間ではない。呼吸を整えたラドエフは、すぐに下山した。

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