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魔界の平和は彼らによって  作者: ダイアのナイン
第1章 皇国遠征編
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Chap1 ep11-地と面、真紅に染まる

 三日月がその姿を現してから暫く経った頃、ラドエフの部屋の戸が叩かれる。


「なんだ? 待ってくれ、今開ける」


 戸の向こうに立っていたのはレイエス班の大盾使い、ジーケルであった。


「どうしたジーケル、ってああ。交代か」


 ジーケルは無言で頷く。マリーズで会った時ですら1人だけ頗る元気そうだった大男が、疲労を全面に出して呆然と直立しているのだ。


「いいか。この任務はお前らが思っているよりきついぞ」


 とても説得力のある言葉だった。


「ああ。そうみたい、だな。俺達が到着するまで離れられないんだったか」


「その通りだ。俺を含め3人掛かりで次の担当隊員を訪ね回ってる」


 何とも非効率的な態勢であったが、安全が保障されている宿と言えばこの皇都の宿場ぐらいであることもまた事実だ。


「フローセル班は俺が回ろう。先に休んでくれ」


「俺だけ抜け駆けってのは申し訳ねえ。今も警備に当たってるあいつらにな」


「そうか。とは言え俺も手伝わない訳にはいかない」


 2人は手分けして他の担当隊員の部屋を回っていった。警備区域への先導までを任されていたジーケル達は、最後まで役割を全うする。道中で先導者らによって齎された情報は実に有益であった。フローセル班が担当区域に着くと、前任の班と魔物の戦闘が目に映る。


「うわ、なんだありゃ」


 今まで見たことがない魔物に、ジャックが声を漏らした。


「あれが例のウグィス特有の魔物ね」


 目の前の戦闘は前任者側の勝利で無事に終結した。魔物の鮮血を浴びた槍使いがフローセル班に気付き、振り返る。


「ははっ。あとは任せたぜ」


 脱力した腕と共に槍が垂れ下がった。


「よく戦ったな。ゆっくり休んでくれ」


 ラドエフの返答に安心した槍使いは班員を引き連れ、皇都へ向かっていく。警備任務を引き継がれたフローセル班は、仕事を見つけるのに困らなかった。頃合いを見計らっていた魔物がラドエフを襲撃する。


「わっ、なんだこいつ!?」


 牛の体に人の顔をもつ魔物の突進を辛うじて回避したラドエフは大鎌を構え、次の手を窺う。同じく周りで機会を窺っていた複数の魔物が班員との交戦を始めた。一瞬の余所見をしてしまったラドエフに生まれた隙を見逃す相手ではない。再び突進で向かってきている。


「それしか芸がないのか!」


 風魔術により加速力を得たラドエフは、頸に狙いを定め、すれ違うように駆け抜けた。すれ違い様の僅かな引っ掛かりと、大鎌にこびりついた鮮血から勝利を確信する。しかし厄介なことに、頭を失い牛の体のみとなっても尚、戦意は喪失していなかった。とは言え、有頭時のような鋭い突進は不可能になっており、不安定に駆け回ることしかできていない。


「はぁ。今楽にしてやる」


 魔力を練り上げ、動き回る魔物を風の刃で制止させた。今度こそ地に伏せた牛体を見届け、次の標的を探す。辺りを見渡せば、班員達が激闘を繰り広げていた。


 ルアナは守護精霊を召喚し、サンティアは弦を引く。器用にナイフを使い、他は格闘術で補うジャックは、1人で3体の相手をしている。若干押され気味のジャックを援護するべく、ラドエフが駆け寄ろうとしたが、突然何者かに足元を奪われた。


 血だまりだと思い踏み込んだ地面から、泥状の人間の上半身が現れ、ラドエフの脚に纏わり付く。耳を澄ますと不気味な呻き声が聞こえてきた。脚が段々と締め付けられていることを感じ、危機感が募る。


「折られるっ」


 大鎌を振ろうにも、ここまで密着されると分が悪い。武器の性質上、極端な近接戦を不得手としていたラドエフは、風魔術によりその状況を避けてきたが、今回ばかりは完全に油断していた。危機的状況ではあるものの、深刻に捉える程ではない。風魔術の超加速を応用すればいとも簡単に抜けることができた。


 脚に密着していた腕は弾け飛び、根源たる泥だまりも飛散する。この手の魔物は大抵、高い再生能力を持ってラドエフは直ぐに警戒に移った。しかし、それは無駄に終わる。


 気が付けばジャックは3体の死骸を作り出し、次の獲物と交戦を始めていた。戦場を俯瞰していたラドエフの下にも、魔物が寄ってくる。


 最初に挑みかかったのは、緑の皮膚と嘴を持ち頭に皿を乗せた魔物であった。水かき付きの手で飛びかかるが、振り上げられた大鎌が右腕を食い千切る。残る左腕で必死の抵抗を試みるも、傷1つ負わせることなく頭蓋を貫かれた。


 背後を奪い不意打ちに成功した魔物は、大鎌使いの怒りを買ってしまう。長く伸びた舌を掴まれ、柄を短く持った大鎌で刈り取られた。死を覚悟した魔物を待っていたのは風の斬撃。無数の刃により無惨な姿を残した。


 巨大な生首の魔物を捉え、ラドエフは早速交戦しようとしたが、その前に後方からの矢が綺麗に魔物の眼球を貫く。振り返ると、サンティアがガッツポーズをしていた。優秀な弓手に手を挙げて返礼する。


「お見事」


 順調に進む任務にラドエフが安堵しようとしたその時、小山の上から戦場を眺める者が目に映った。距離が遠く人間であるかすらわからない。とは言え、人間であったとしても眼下で繰り広げられている戦闘を俯瞰するその姿に、どこか違和感を持ったラドエフは対象に接近する。風魔術が齎す軽快な移動性能は多少の登山にも問題なく活用できた。


 対象との距離が縮まるにつれ、全貌が明らかになっていく。


 人型だが間違いなく人間ではない。長い白髪に、顔面は赤く染まり、異様に長い鼻、そして手に握られた大きい葉。ラドエフの気配は直ぐに感じ取られてしまった。いつもなら魔力を練り上げ最初の行動の検討に入る状況であるにも関わらず、そうもいかない。ラドエフは久しい恐怖心を覚える。


「ほう。私に気づいたか」


 言葉を発するはずのないものが語り掛けてきたのだ。それも、ラドエフが知る大陸共通語で。

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