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魔界の平和は彼らによって  作者: ダイアのナイン
第1章 皇国遠征編
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Chap1 ep10-上がる奇声、交わる刀剣

 大小に関わらず、皇都中の宿場が280名のために空けられた。


 四番連隊長は各地の証言を元に作られた被害状況を見せられ、息を呑む。西部の群島地域と皇都を除いて、皇国全土に渡って魔物が蔓延しつつあったのだ。


「一体何が原因でこうなっているのですか」


 通訳士を介して伝えられたデルデノットの言葉に、老将ミヤモトは顔を曇らせる。


『未だ確かな情報は得られておりません。ですが、とある荷馬車乗りの話では、この湖が怪しいと・・・・・・』


 北西部の湖に、皺が多く畳まれた指が置かれた。


「他に候補が無いのならここに偵察を向かわせましょう」


 ミヤモトはデルデノットの提案に頭を下げる。


『よろしくお願い致します』


 小会議を終えたデルデノットは四番連隊を召集し、各小隊の担当地域を割り振っていった。魔界パトローラー独自の部隊単位では、基本的に1個連隊は5小隊によって構成されている。メンバーが固定化されている班とは異なり、小隊は現場で編成されるため任務毎にメンバーが変わっていく。小隊まで固定化している連隊もあるが、少なくとも四番連隊はその中に含まれない。


「以上の通り、分担とする。時間帯の割り振りは各々好きにやってくれ」


 相変わらずいい加減な四番連隊長は用件だけを告げ、すぐに解散させる。今回の任務は皇国全土に渡っての警戒となるため、皇都を拠点として各小隊で担当地域を、輪番制によって警備する方法が採られた。フローセル班の所属は皇都周辺を担当するレイエス小隊である。不運にも拠点から最も遠い南部地域の担当となった隊員からは絶望の声が漏れ出ていた。対してレイエス小隊は、顔合わせを兼ねて分担のための小隊会議を始める。


「小隊長のフリア・レイエスだ。よろしく。幸いにも我々レイエス小隊は拠点に最も近い区域を任された。しかし言い換えれば我々の区域の喪失は、皇都陥落に直結する」


 初めて小隊長を務めるとは思えない程自身に満ち溢れた態度に皆感心していた。フローセル班を含め、小隊員達は頷く。分担も円滑に進められた。日を3分割し、それぞれ3班ずつ任務に当たる。広大な区域を限られた人員で警備するとなると、この態勢が限界に近い。


 夜間を担当するフローセル班は時間を持て余していた。そんなラドエフに小隊長が声を掛ける。


「マリーズでは助かった。それに、お前らは四番連隊の中でも上位に入る精鋭だ。活躍に期待している」


 すると、答えようとしたラドエフを前にジャックが口を開く。


「まさか小隊長直々にお言葉を頂けるとは。お任せ下さい。我らが誇る、風を操る孤高の――」


「ああ、国営ホテルは気に入ったか。それなら良かった。互いに頑張ろうじゃないか」


  ラドエフはジャックの言葉を遮るように抑え、返答した。レイエスは頭に疑問符を浮かべているが、他の隊員に呼ばれる。


「もう少し雑談に興じたいところだが、そうもいかない。またな」


 立ち去るレイエスの背中を見送った後、ジャックは不満そうに抗議の音を上げる。


「おいおい、なんで妨害したんだ」


「当たり前だろ。あんなの広められたら困る」


「【風を操る孤高の死神】・・・・・・ 響きは悪くないわね」


 とうとうルアナまで乗り始めた。ラドエフは船上で会ったあの男を、心の底から恨む。


「私たちの担当は夜間の警備ですから、かなり時間がありますね。どうしますか?」


 サンティアが問うた。班長は少し悩んだ後、答える。


「休息としよう」


 普段とは比較にならない程長い任務が予想されるため、十分に休んでおく必要があった。宿場は2人1部屋でも何部屋か余る程の数用意されている。フローセル班は1人1部屋使うことが許されていたため、遠慮なく各々別の部屋へ向かっていった。



♦レイエス小隊担当区域


 レイエス小隊長兼班長が率いるレイエス班は、早速魔物と対峙する。


「なんだこいつは」


「ウグィス特有の魔物だろう。迂闊に手を出すことはできないな」


 レイエスの呟きに剣士の班員が答えた。烏の頭を持ち、修行僧の衣を纏う人型の魔物は辺りを見回している。山杖代わりの大枝をついて徘徊する姿は、何とも不穏だ。


「撃つぞ」


 レイエスは魔力を丁寧に練り込み始めた。そして烏頭の魔物が射程圏内に入った瞬間、解き放つ。上位金等級の水属性魔術使いが放った、凄まじい水圧が魔物を襲う。烏頭は耳を塞ぎたくなる程の不快な奇声を上げ、翼によって飛翔した。


「仕留め切れなかったか。飛んでくるぞ、警戒しろ」


 レイエスが言うまでもなく、班員は臨戦態勢に入る。剣や盾が構えられ、杖が掲げられた。再び奇声が鳴り響き、段々と接近しているのが感じられる。


「ウェンス!」


 最初の標的に選ばれたのは杖を持った魔術師であった。接近戦を苦手とする専業魔術師から狙うことから、知性の高さが窺える。


「被害は気にするな。火を使え!」


 班長の助言に従い、ウェンスは杖を振り上げた。同時に炎が展開され、専業魔術師を覆う。魔物は焼かれまいと退いたが、透かさず剣士が追撃に移った。剣の振り下ろしを大枝で受け止められ、更に押し返されてしまった剣士は防御姿勢をとる。魔物は大枝を捨て、刀を抜いた。


「いいぜ。かかってこいよ」


 翼を用いた加速により、即座に間合いが詰められる。水平に振るわれた刀を屈むように避け、その姿勢のまま前方へ剣を突き上げた。胸元を捉えた剣先は背中へと貫通する。しかし眼前には魔物の高下駄が迫っていた。


 顔面を蹴り上げられた剣士は即座に姿勢を整える。隙を見せてしまったものの、烏頭も傷を負っていた。互いに睨み合い辺りをうろつく。先に仕掛けたのは剣士の方であった。


 金属同士の衝突によって不規則に拍子が打たれ、鍔迫り合いとなる。剣の腕は拮抗しており、中々決着しない。


「・・・・・・っぬ!」


 開かれた嘴を前に、剣士は声を漏らした。剣士の予感通り、鼓膜が奇声に襲われる。しかし、剣士は地面の揺らぎを感じ逃さなかった。剣を離さず、烏頭と睨み合い続ける。そして満を持して右側へ倒れた。


「ふん」


 烏頭の視線が、笑みを零しながら倒れた剣士へと送られる。目の前にまで迫った大盾に気づかない程、烏頭は剣士に集中していた。十分な助走と共に繰り出される大盾の衝撃に耐えきれる訳もなく、後方に押し飛ばされる。


 止まない耳鳴りに耐えながら、漸く上体を起こした剣士の目には、灼熱に焼かれ、大盾による殴打を何度も受ける烏頭が映った。


「ウェンス、ジーケル、その辺にしておけ。もう死んでいる」


 レイエス班長の制止から数秒後に猛撃は止み、そこには羽毛が黒く焼け焦げ、頭は原型を留めていない凄惨な姿の魔物が横たわる。ウェンスの【煉獄】により浄化された魔物は、その姿を消した。鼻血を流す剣士は治療を受け、再び戦場へ復帰する。


「ほら、周りを見てみろ。命知らずが寄ってきた」


 レイエスが周りを見渡して呟いた。周囲には烏頭との戦闘音につられた魔物が、ぎらぎらと目を光らせている。

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