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魔界の平和は彼らによって  作者: ダイアのナイン
第1章 皇国遠征編
12/22

Chap1 ep8-上陸、海洋国家ウグィス

 途中乗船を希望する哀れな来客達の始末も終わり、14号船には再び平穏が訪れた。戦闘に応じた船員やマリーズ兵も持ち場に着き直し始める。


「あのクソ蜥蜴共め、懲りずに何度何度も」


 中老を迎えた船員が愚痴を吐いた。歴が長い者だからこそ、苦々しい思い出も蘇るのだろう。


 やがて平穏は退屈へと姿を変え、フローセル班を襲う。とは言え今回は他班の存在があった。マリーズでの旅話や、地獄のハイキングの思い出話に花を咲かせ、どうにか場を繋いでいく。内容は相反する2つであったが、長い時間を潰すには最適他ならない。


「大市場と海洋屋敷に行ったの!」


「国営ホテルのベッド、ありゃ柔らか過ぎだ」


「傭兵部隊だと勘違いされたよな」


「あの時は命懸けだったぜ・・・・・・」


 平和的で明るいマリーズ観光談に比べて、徒歩を強いられた他班の者達の話は殺伐としており、過酷な



 今まで、任務などを含めてもフローセル班との関わりが少ない面々であったものの、思い出話を交わしたことによる効果は大きく、互いに十分な程親交を深めることができていた。皮肉なことに、ラドエフに二つ名を授けた男のおかげで良好な関係を築けたと言っても過言ではなかったが。


「おい、あれを見ろ。ついに・・・・・・」


 話を盛り上げていた男が突然目を逸らし、思わず声を漏らした。漸く、海一面の景色に変化が訪れたのだ。白い靄によって薄められた島の輪郭。大陸西方に浮かぶ海洋国家、ウグィス皇国がその姿を現した。

前方を進む船も、騒がしく盛り上がっている。船団は入港に備え、左翼と右翼を折り畳むように縦列陣形へと変化させていた。


 異国からの救援者の到来を心待ちにしていた皇国の人々は来たる船団に胸を躍らせる。最低限の警戒態勢を整えていたが、多くの者はその船団が大陸から遥々やってきた友好的な救世主の集団であると疑わなかった。周りを広大な海に囲まれ、早期に周辺の群島地域を統一したウグィス皇国は建国以来、他国との揉め事など経験したことがなく、外交関係が無いに等しいような国だ。時々、大海原に点在する孤島のいくつかを領する覇権国家から、大陸の物品が齎される程度であった。


 貝殻製の笛や、太鼓の演奏による歓迎を受け、デルデノット隊長率いる第1号船が無事に入港を果たすと、それに続いて次々と皇国の地に足を着ける。最後尾の14号船も入港・上陸を終え、随時整列を始めた。中には慣れぬ航海に気を狂わせた者や、吐瀉物塗れとなった者もいたが、死傷者は出ていない。


 総勢280名の隊員が簡易的な港付きの海岸を埋め尽くし、代表者であるデルデノット隊長が足を進める。皇国側からは独特な鎧を身に纏った老将が歩み出た。両者が顔を合わせると、多種多彩な楽器による演奏が静まる。


 老将の脇には補佐役らしき青年が付き添っていた。笑みを浮かべる老将を前に、隊長が話し始める。


「魔界パトローラー第四番連隊、デルデノット魔物討伐隊です。救援要請を受け、派遣されました」


 敬語を話すデルデノットは非常に珍しく、四番連隊員は皆注目していた。老将は不自然に頷きつつも、笑顔は決して崩さない。青年が老将に耳打ちすると、漸く口を開く。しかし、ラドエフにはその言葉を理解できなかった。正確にはラドエフだけでない。突如として発せられた異国の言葉に、隊員達は動揺した。老将が言い終えると、青年が声を上げる。


「皆様の来訪を歓迎すると共に、心より感謝いたします」


 補佐役と思わしき青年は、ウグィス語と大陸共通語の双方を操る翻訳者だったのである。


 魔界大陸には数十を超える国家があり、それぞれの地域で用いられる言語も多種多様であった。それ故に言語の壁が生じてしまう。時に利点として輝いたが、それは戦乱の時代に限られる。一定の秩序が保たれている現代において、言語の壁など不要だ。そこで発明された言語が大陸共通語である。誕生から間もなく凄まじい普及を見せ、初対面の相手には大陸共通語を使いなさい、と教えられる程にまで広がった。


 とは言えあくまで”大陸“共通語であって、大陸内のコミュニケーションを助けるに過ぎない。増して他国との関わりが無いに等しいようなウグィス皇国において、大陸共通語が伝わるわけがなかった。


 大陸語を心得ている青年を介して、挨拶は円滑に進められていく。一通り話し終え、280名は皇都へと案内された。


 独自の文化を発展させてきた皇国には、大陸では見られないような街並みが広がるが、街道には商店が立ち並び、大陸に負けず劣らず賑わっている。


「すげぇ。資料にあった通りの風景だ」


「1日中図書館に籠ってたんだろ? 何かないのか」


「ジャックさんって、勤勉ですよね」


 フローセル班は隊列を崩さぬよう雑談を始めた。ルアナが路地を指差し、言葉を詰まらせる。


「うっ、あれって・・・・・・」


 壁と地面を繋ぐかのように赤い染みができていた。ここで魔物に襲われたことが容易に想像できてしまう。


「こんなに素敵な街なのに・・・・・・」


「魔物による襲撃は理不尽だが平等だ」


 声を震わせるサンティアにラドエフは応えた。賑やかな街道も、目を凝らせばあちらこちらに魔物による襲撃に苦しめられたであろう痕跡が残っている。隊員達の多くがそれに気づき、派遣された理由を強く認識し直した。

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