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魔界の平和は彼らによって  作者: ダイアのナイン
第1章 皇国遠征編
11/22

Chap1 ep7-誕生、名誉ある二つ名

 計14隻の小型船がマリーズから出港した。各船にはパトローラー、船員に加えてマリーズ兵も配備されており、道中の戦闘には申し分ない万全な態勢である。フローセル班の船は14号と呼ばれる右翼最後尾の船だった。出港して間もなく、船員がパトローラーに向けて呼び掛ける。


「戦闘は俺たちに任せてくれ。あんたらは大人しく座ってればいい」


 どうやらパトローラーに出る幕はないらしい。これもデルデノット隊長の暗躍の成果である。反応はそれぞれ様々であったが、既に深海の鎧(ディアマンタ)との交戦を経験したラドエフは安堵に胸を撫で下ろしていた。未だに腕の痛みは残存しており、殴りつけた拳には微かに生臭さが染み付いている。あんな魔物との戦闘など、増して船上での再会など考えたくもない事案であった。


「なあ、知ってるか? ウグィスに出る魔物」


 ジャックは記憶の化石を掘り出し、更なる誇張を加えて語り始める。


「ウグィスには傘に化けた魔物がいるんだ。外見で見分けることはまずできない。そうして人が近づいてきたところを食っちまう!」


「道端に傘が落ちてるのか。そんな怪しい傘に近づく奴はいないだろ」


 ラドエフが呟いた。隣で聞いていたサンティアはクスクスと笑い出す。


「おいおい、それはないだろぉ。空気読んでくれって」


 詰めの甘さが浮き彫りになってしまったジャックは不満そうに反論した。


「はっはっ。そりゃ悪かった。他にはないのか?」


 空気の読めない風魔術師は軽く謝罪し、続きを求めた。ジャックが先程の反省点を活かし、より完璧な創作を考えていたその時、共に乗り合わせていた四番連隊員が近づいてくる。


「もしかして、お前が【風を操る孤高の死神】か?」


 その視線はラドエフに向けられていたが、心当たりのない呼び名に、困惑するしかない。


「はっ? 何のことだ」


「風魔術、使えるだろ? それにその大鎌。間違いねえな」


 絶好の機会だと言わんばかりにジャックが追撃する。


「ああそうだ。確かにこいつは”孤高”だな。昨日も1人で深海の鎧(ディアマンタ)を討伐したんだぜ」


 ルアナとサンティアは驚きの表情を見せる。


深海の鎧(ディアマンタ)ってあれだよね?」


 確認するようにサンティアと顔を見合わせながら呟いた。海洋屋敷で見た悍ましい容姿は、2人の目に焼き付いている。


「あれを、たった1人で倒したんですか?」


 ラドエフは認めざるを得ない状況にまで追い込まれてしまった。


「こりゃすげえや。まさかこんな有名人と知り合いになれるとはな」


 男は馴れ馴れしく肩を寄せ合い、背中を叩く。


「頼もしいぜ、これで沈没の心配はなくなった」


 男の猛烈なアプローチに若干の戸惑いを見せつつもラドエフは笑みを零す。


「俺は孤高なんかじゃない。それに船上では戦わないぞ」


「ウグィスでの活躍に期待してるぜ」


 そう言い放つと、男は仲間の方へ戻っていった。


「まさかうちの班長が有名人になっていたとは」


 誇らしげなジャックをラドエフは睨みつける。


「はぁ、一体誰の悪戯だ」


「でも、かっこいいから良いじゃないですか」


 呆れるラドエフをフォローしようとサンティアが言った。


「かっ、かっこ、いいしな」


 ジャックは笑いを堪えるのに必死である。


「ねえねえ、それで、さっきの続きは?」


 ルアナはウグィスの魔物に興味を持っていた。


「ああ。そうだなぁ、海の巨人の話をしよう」


 話の再開に、皆耳を傾ける。


「ウグィス皇国近海には巨人が現れる。真っ黒な巨体をしているが顔には2つの目があるだけ。群れで出ることもあるらしい。夜な夜な漁船を破壊して回るんだ」


 近くで話を聞いていた船員が話に介入する。


「おいおい、縁起でもないこと言うんじゃねえ」


「まだウグィスには着かないだろ? それに、夜にならないと出てこ―――」


 ジャックが言い切ろうとしたその時、船が大きく揺れた。14号船だけではない。左前方を進んでいた船も突然の衝撃に揺れる。


「まさか・・・・・・」


 サンティアが呟くが、船員はそれを否定する。


「恐らく海蜥蜴(メンフーク)の群れだな。俺たちを脅かして楽しんでやがるんだ」


 海蜥蜴(メンフーク)は水棲種の中でも高い知能を持つ魔物であった。船底に体当たりし、船を揺らす。5~10匹程の集団で行動しており、船乗りからは忌み嫌われる存在である。勿論この場にいる船員達も例外ではない。


「さっきも言ったが、手出し無用だ。大人しくしていてくれ」


 そう言って船員の男は船縁へと向かった。他の船員達も装備を整えている。


「来るぞおぉっ!」


 マリーズ兵が声を上げた。そして間もなく、1匹の海蜥蜴(メンフーク)が宙に姿を現す。水中から勢い良く飛び上がった海蜥蜴(メンフーク)であったが、船上に着地することは叶わなかった。落下速度が最速に達する前に槍が頭を貫く。一撃で仕留めた兵士は、そのまま槍を振り払い突き刺さった死骸を海に放り捨てた。


 短い四足をフル回転させ、這い上がるように続々と乗船する海蜥蜴(メンフーク)の死に様は多種多様で、船上は殺戮の見本市と化している。


 1匹、フローセル班への接近を試みた個体は、背後から突き入れられた銛によって機動力を封じられ、頭部が長靴の下敷きとなった。またある個体は船員に飛び付くことに成功したが、僅かに生まれた隙間から短剣を捻じ込まれ、抉られた内蔵を外気に晒すに終わった。そうして、船には8つの死骸が転がる。損害0で全滅させたのだ。船員達は余韻に浸ることもなく海への投棄を始める。この一連の作業は洗練されており、無駄な動きなど一切なかった。

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