オイルタンカー 第十四話 反旗の結末
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けっきょく、真壁には、カメラ付きの送信装置を妨害して、上甲板の各所に設置された大量の爆弾を無効化する方法は見付けられなかった。
真壁はしかたなく、いったん船橋にもどることにする。
真壁は衛星電話を使って、ヒロにこの件について連絡を入れる。仕掛けてある爆弾はこんな種類のものだった、だから処理にはこんな装備がいる、と説明しながら、真壁は船橋の出入口のドアをくぐる。
そのとき、ブリッジがある船橋の上の階からここまで伝わってきた、幾重もの自動小銃の発射音を耳にする。
自動小銃は、くりかえし、際限なく、発射されている。きっと室内で発射しているのだろう。小銃の発射音は、こもって反響してきこえる。
立ちどまると思わず上を見上げる真壁にむかって、衛星電話の端末のむこうからヒロが驚いた様子で問いかける。
「ねえ。背後できこえているのは、もしかしてライフルの音じゃないの? そっちじゃいま、なにが起きているのよ?」
「海賊たちの仲間割れらしい。いやもしかすると、首謀者が処刑や粛清を始めたのかも」
真壁は船橋の出入口のあたりで。これからブリッジにあがってなにが起きたのかを調べてみるか、それとも下でもう少し様子をみるべきか。どちらにするべきか、真剣に悩む。
そのとき、低空飛行するヘリコプターのプロペラの音だ、とわかる轟音が頭上を通過していくのをきいて、真壁はあわてて船橋から出ると空を見上げる。
タンカーを飛び越えていったのは沿岸警備隊所属らしいヘリコプターだった。
一機だけではない。あわせて三機のヘリコプターがタンカーの周囲を旋回している。
ヘリコプターはもどってくると、今度はスピーカーを使って、いますぐにテロ行為を中止してこちらの指示に従うように、とブリッジにむかって訴え始める。
真壁は、包囲した連中がいったい何を始めたのかに気付く。
飛行中のヘリコプターの轟音のせいで、ボートでタンカーに接近して乗り移ってくる部隊がいたとしても、すぐにはそれに気付けない。
つまりは、上を飛んでいる連中は、その機会に乗じて、タンカーを奪還する作戦を始めるつもりなのだ。
真壁は耳を押さえて、タンカーの周囲を旋回している三機のヘリコプターを見ながら、自身にこう言いきかせる。
「予想がはずれたな。夜闇にまぎれて、こっそりと奪還部隊が乗り込んでくる隠密作戦をやるのかと思っていたけど、そうじゃない。明るいうちから大部隊が物量で押してくる方法で、一気に海賊たちを制圧するつもりだ。
ヒロ、どこの国の部隊がこの作戦をやっているんだ? なんで教えてくれなかった。そっちで作戦が開始されるのを察知できなかったのか?」
「もう一度、言ってよっ! なにを質問されたのか、うるさくてきこえないっ!」
頭上を行き来するヘリの轟音のせいで、これ以上のやりとりは困難だった。
真壁はヒロとの連絡をあきらめて、衛星電話の通信を中止すると。端末をポケットに突っ込んで、ヘリコプターが次になにをするのか。その動向をうかがう。
武器を手に不意打ちを仕掛けた海賊たち30余名と、メイリンを含めた、ブリッジにいた7名との戦闘は、十数分間あまりで決着がついた。
ブリッジにいたメイリン以外の6名は、海賊たちが襲撃してきた場合には、各員の判断で銃撃して撃退していい、と命令されていた。
メイリンたちは、遅かれ早かれ海賊たちが自分たちに反旗をひるがえすだろう、と予想していた。その場合はどうするべきか、あらかじめ全員で話し合っていたのだった。
だからそのときが訪れても、自動小銃をかまえた6名の射撃手はそれぞれの役目をためらわずにまっとうできた。おかげで、混乱なくスムーズに、戦いを決着させることができた。
銃撃がやむと、ブリッジにつながる廊下の壁は発射された小銃弾の弾痕だらけとなり、床には薬莢が大量に散乱した。
そこにはまた、戦おうと立ち向かい、あるいは逃げようとして撃ち倒された、海賊たちの遺骸が折り重なって倒れていた。
射撃手の一人は、腰のベルトのポーチから小銃弾が詰めてある新しい弾倉を左手で取り出すと。そのまま左手の親指と人差し指だけで、撃ちつくしてカラになった弾倉をはずし。かわりに新しい弾倉を先端のリップ部分から挿し込んで回転させるようにカチッとはめ込む。
カラの弾倉をポーチにしまう前に、カラの弾倉をつかんでいる左手でチャージングハンドルを引いて、小銃の薬室に次弾を装填し、いつでも射撃を再開できる状態にする。
ちなみに右手は、小銃のグリップを握り、小銃を肩付けでかまえた姿勢を保ち続けて、そこから動いていない。
射撃手は自動小銃をかまえたままで、折り重なって倒れている海賊たちの死骸をまたぐと、そのむこうにいる海賊たちの生き残りへと近づく。
脚を撃たれて壁にもたれかかり、そこから動けずにいた海賊の男は、持っていたナイフを捨てると、両手をあげて、わかった、おれたちの負けだ、あんたたちに従う、言う通りにする、と近づいてきた射撃手に訴える。
自動小銃をかまえた射撃手は、脚を撃たれた海賊の前に立つと、銃を下ろしてうなずいてかえす。それから相手にこう言いきかせる。
「感心したよ。立派な心がけだ。じつに素晴らしい。戦って自分たちの故郷や同胞を守ろうという姿勢は、なにものにも変え難く、尊いものだ。
だがね。我々も仲間のために、自分たちの国のためにやっているんだ。そういうことだから、これもしかたがない、とわかってもらいたい」
そう言いきかせると、腰だめにした自動小銃の引き金を続けて引き絞って、二度の単射で目の前の問題に決着をつける。
射撃手はそれから、タンカーに乗り込んで以来、人前では常につけていたマスクを脱ぐと。すでに覆面をはずして素顔をさらしているメイリンのもとに戻る。
メイリンが浮かない顔をしているのに気付いた射撃手は、どうしたのか、と呼びかける。
「なにか気にかかることがあるのか? 計画に問題が生じたのか?」
「いいえ。ここまですべて、当初に立てた計画通りに、ちゃんとうまくいっているわ。
タンカーの乗っ取りと、海峡封鎖のテロを。政治的目的で行動を起こした海賊たちの犯行だ、と各国の港湾局に信じさせることに成功した。
自動小銃もそれに使用した小銃弾も、フィリピンで密造された製品を取り寄せて使ったから、射殺された海賊たちの死骸から弾頭が回収されても、海賊同士の仲間割れだ、と判断されるはずよ。
使用した自動小銃をここに破棄していくのを忘れないでね。持ち帰ったりしてはダメよ。
私が気にしているのは、もっと別のことよ。
計画を立てた私自身が、海賊たちを犯人役に使うつもりで連れてきたのに。これでよかったのか、って気持ちになってしまってね……」
射殺されて倒れている海賊たちの死骸は、メイリンの仲間たちが手分けをして、ブリッジの出入口から廊下の奥へとひきずって移動させていた。
メイリンにはとてもできない真似だったが、仲間たちはこういう作業には馴れていて。死骸の腕や足をつかんでズルズルと運んでいくと、手足をつかんで二人がかりで持ち上げて、土嚢かなにかのように廊下の奥に放り投げる。
廊下にはひきずった血の跡がついて。積み上げた死骸の山から流れる大量の血が、廊下に血だまりをつくっている。それを見てメイリンは、顔をそむける。
メイリンのその様子に気づいた射撃手の男が、いたわるようにメイリンにいいきかせる。
「お前は、顔をそむけていればいい。汚れ仕事はおれたちが引き受ける。ここまですべて、お前の計画通りに進めたんだ。だから、このあとも自分を信じて続けるんだ。
どんな問題が起きても、おれはお前を助けるからな。きっとなんとかしてやる。お前は、俺たち家族や親戚のなかでも、いちばん優秀なんだからな。我が家の誇りだ」
そうはげまされて元気付けられたメイリンは、親しい間柄同士でかわす笑みをみせると、相手にこうかえす。
「それは解放軍海軍で、重要な役目をまかせられるまでになった兄さんにこそ、ふさわしい褒め言葉だわ。
今回の計画も、兄さんの協力と、政治委員をやっている伯父さんの後押しがなければ、とても認可されなかった。
それに、たとえ党が私の計画を認めてくれても、兄さんが実行役として私をバックアップしてくれなければ、途中でつまずいていた。兄さんの力があったからこそ、うまくいったんだわ。ありがとう、兄さん」
「いや。お前の力だよ。メイリン」
そう言って、二人は、おたがいの肩を抱くと。惜しみない愛情を込めて、相手に感謝の気持ちを伝える。
二人の様子を見ていたほかの仲間たちが、なにか冷やかすようなことを言い、それにメイリンの兄が言い返すと、ドッと笑いが起きる。
いくつもの死骸が転がり、足もとに血だまりができている状況で。親愛の情に満ちたやりとりがかわされるのは、ただ異様でしかなかった。
メイリンは死骸や血に馴れていなかったが。残りの連中は、銃撃も殺人もその処理も、まるで日常の出来事のようにこなしていた。
彼らの行動は、普段からの訓練の賜物だったけれど。事情を知らない者からすれば、異常な行動としか受け取れないものだった。
そのなごやかな雰囲気も、轟音をあげながらヘリコプターが船橋をかすめるように通過していったせいで、消え失せてしまう。
ヘリコプターは上空を通過した後に、そのまま立ち去ることなく、タンカーのまわりを旋回し続ける。そして上空から、スピーカーを通じて警告を始める。
メイリンたちを含めた7名は、死骸を移動させるのを中止すると、ブリッジにもどってそれぞれの配置について、次に何が起きるのか、と緊張した面持ちで、事態を注視する。




