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オイルタンカー  作者: げのむ
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オイルタンカー 第十一話 なぜ?

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 マラッカ海峡と、シンガポール海峡。

 この2つの海峡を形成している、シンガポール、マレーシア、インドネシアの3国の関係者たちは。

 海峡に突入してきた暴走タンカーから発せられた、テロ予告の一連の宣言をきくと。それが事実かどうかを確認する作業にとりかかった。

 程なく、有効な情報として。大手の石油会社が出している捜索願いの中に、4日前に南シナ海を航行中にあった30万トン型のタンカーが消息を絶った件が伝えられた。

 そして、この失踪したタンカーの船名や船の大きさや外観が。現場の警備艇が撮影した正体不明のタンカーの写真と合致したことで。問題のタンカーは、この船に間違いない、となった。

 それと前後して、南シナ海を漂流中だった3隻の救命ボートから、タンカーの乗組員らしい23名が救助された件が、3国の関係者たちに知らされた。

 乗組員たちは衰弱していたが生命に別状はなく、彼らの証言から。海賊たちがタンカーを奪い、船員たちを海に放流したと、あきらかになった。

 3国の関係者たちを震撼させたのは、救出された乗組員たちの証言だった。

 タンカーを奪った海賊たちが遠隔操作で爆発させられる強力な爆発物を用意していて、実際にそれを爆発させて脅迫に使用した、というのだ。

 つまりは、奪われたタンカーには、テロの予告通りに大量の原油が積まれていて。しかも、船の外殻を壊して原油を流出させるための爆発物も、船内に用意されているのである。

 となればだ。海賊たちが宣言した。マラッカ海峡への原油流出と、海上火災によって海峡を使用不能にするのも実現できることになる。

 なにがあっても、それだけは回避しなければならなかった。絶対に起こさせてはならなかった。

 3国の政府の人間や、警察や軍の関係者たちは。海賊たちが宣言したテロを実行させないためにはどうしたらいいのか。その対策を話し合った。

 早急に対処しなければならなかった。国をまたぐために、関係者たちはホットラインやテレビ会議で議論を行い、とるべき対策を大急ぎで決めていった。

 間もなく、マラッカ海峡はこの緊急事態にあわせて、一時的に船の通行を中止して封鎖する、と決まった。

 マラッカ海峡、シンガポール海峡を航行中だった各国の船舶は。シンガポールやマレーシアの管制局からの指示のもとで、航行の再開を待って待機していた。

 だが暴走タンカーに爆発物が積まれている、と判明すると。海峡の通過を中止して、シンガポール海峡の東側の出入口から退去しようとした。

 各船が大急ぎで脱出劇を開始するが、そんな大事を容易に実行できるはずもなく、混乱にともなう事故があちこちで起きた。

 シンガポール海峡の東側の出入口は大小さまざまな船舶でごったがえしてしまい。混乱がおさまるまで、数日間がかかった。

 すべての船舶が移動できたわけではなかった。退去の命令は出たものの、命令通りに移動をしたのは運行スケジュールに縛られている商船やコンテナ船ばかりで。実際には、多くの船は海峡に残った。

 

 海賊たちの宣言をきいた、シンガポール、マレーシア、インドネシアの沿岸警備隊。海軍や政府の関係者。海峡を通過していた船舶の乗組員。遅れて事件を知った海峡沿いに暮らす大勢の住人。その他、たくさんの人たちが。当然だが、大がかりなテロを行った海賊たちの目的が、なんであるのかを知りたがった。

 その疑問を当人たちにむかって問うことができたのは。実行犯たちがいるブリッジにいて。すぐに彼らと話せる立場にあった、真壁環だけだった。

 真壁環当人は、ショックを受けていた。彼は、驚きの表情で言葉を失っていた。

 メイリンが船舶無線機を使って、テロの宣言をして。あとで要求を伝える、と告げて装置の受話器を置いたあとも。真壁はうろたえたままでいた。

 ややあって、真壁は。ブリッジにいるメイリンたちに向かって、内心の動揺を隠せない様子で、次のように必死に問いかける。

「おいっ、待てっ。それはおかしいっ! 理屈に合わないっ! 本末転倒じゃないかっ! なんでマラッカ海峡を封鎖するテロなんかをやるんだ? 海峡が使えなくなったら困るだろうに……。

 いや、いや。困るどころの騒ぎじゃないぞ。国家の危機だ。これは国の存亡に関わる一大事だ。そうだよな?」

 真壁は、取り乱した様子で、メイリンにむかって、そう訴える。

 メイリンは、仲間たちに取り押さえられている真壁に近づいて。動揺している彼の顔を見ながら、上から目線で、次のように言いきかせる。

「たしかに真壁さんの国は、大変なことになるでしょうね。海洋貿易をするうえで重要な要衝をふさがれるのだから、経済の面でも深刻なダメージが出る。

 それだけじゃない。火力発電所の燃料である石油が届かなくなるんだから、電気もつくれなくなる。

 もちろん、工場だって動かせなくなるし。車も走れない。いままでのレベルの国民の生活は維持できなくなるでしょうね。

 この件を知ったら、真壁さんの国の政府関係者たちは、軒並み卒倒するんじゃないかしら。

 マスコミ関係者はきっと、上へ下への大騒ぎでこの事態を伝えて、国を挙げての大混乱になる。

 政治家たちがなんて言って事態の沈静化をはかるのか、見ものだわ。ウフフ」

 あわれみを込めてメイリンからそう言い渡された真壁は、ポカンと驚いた顔をしてから。すぐにメイリンにむかって、猛然と言い返す。

「そうじゃない。そっちじゃない。おれは、そんなことをしたら共和国が危機に瀕する、って言っているんだ。

 共和国が石油を輸入するのに使っているルートが、マラッカ海峡を通るルートなのは、君も知っているはずだ。

 おれたちの国にとって、マラッカ海峡を通る海上輸送ルートはたしかに重要だが。君たち共和国にとっても、マラッカ海峡を通るルートは同じように、絶対に封鎖されるわけにはいかない、死守すべき海の道なんだ。

 共和国は中東の産油国で買った原油を、共和国国営のタンカーに積んで、共和国の沿岸にある製油所まで運んでいる。

 おれたちの国が輸入して消費している石油の量は、年間でだいたい2億トンあまり。原発の停止後は消費量は増えているが、それでも2億九百万トンあまりだ。

 それにくらべると、共和国が輸入して消費している石油の量はケタ違いに多い。いまやおれたちの国の消費量を越えて、年間で5億7百万トンになり、世界第2位の石油輸入国となっている。しかも、共和国が輸入する石油の消費量は増加を続けている。

 その輸入する石油の80パーセントが、船でマラッカ海峡を通って運ばれてくるんだ。

 つまりは、共和国にとってマラッカ海峡は。なにがあっても船の通行がさまたげられてはならない、文字通り物流の生命線なんだ!

 だからだ。なにかの事情でここを通過できなくなったら。海峡が使えなくなったら。つまりは共和国が必要とするエネルギーをつくるための燃料が断たれたら。それは、そのまま、国家の危機に直結することになる!

 こう言っちゃなんだが、海峡を封鎖するようなテロをしちまったら。共和国は滅ぶかもしれないんだぞ?

 君たちのスポンサーがそんなことを望むわけがない。だから理屈にあわない、と言っているんだよっ!」

 メイリンはどこか楽しむような態度で、真壁の訴えをきいていたが、真壁がスポンサーという文句を使うのをきいて、眉をひそめる。

 そしてすぐに、なにかを隠すようなきびしい態度と語調で、メイリンは真壁がした話をこのように否定する。

「私たちの目的は、政治的な勝利と、私たちの勇気ある行動に見合うだけの金銭的な対価であり、充分な補償です。私たちはそれを得るまで戦いを続ける。

 もしも成し遂げられないというなら、宣言した通りにマラッカ海峡を使用不能にする。いや私たちの勝利に必要ならば、いますぐにそうしてもいい。私たちはなにをしてでも、この戦いに勝利しなければならない!」

 メイリンは真壁にむかってそう断言すると、ポケットから例のタンカーに仕掛けた爆発物の爆破に使用する小型無線機を取り出して、この通りいつでも実行する覚悟だ、と告げる。

 いかにもワザとらしい誇張した態度に、本気で言っているのか、と真壁は思わず疑いの声をあげようとした。

 だがそれをさえぎるように、メイリンが仲間の一人に、真壁を下に連れて行き、海賊たちに見張らせておくように、と命じる。それからブリッジにいるほかの仲間たちと、今後の行動について話し合いを始める。

 真壁は武器をたずさえた一人につきそわれて、強制的にブリッジから連れ出される。


 共和国は、自国の急激な経済発展を維持するために、石油、石炭、天然ガスといった資源エネルギーを大量に消費する必要があり、足りない分は国外から輸入をしている。

 石炭は、年間で19億トンと、世界全体の石炭消費量の半分にあたる莫大な量を自国で掘り出して。それを消費している。

 石油と天然ガスについては。以前は国産原油でまかなっていたが、それでは足りなくなってしまい。現在ではどちらも他国からの輸入に依存している。

 そしてその消費量は、共和国の経済成長にあわせて、増加を続けている。

 石油の輸入に関しては、主にサウジアラビア、イラン、オマーンといった中東の産油国や、アフリカ諸国にタンカーで出向いて、原油を購入し、それをタンカーに積んで運んでくる方法をとっている。

 海上輸送のルートだが、南シナ海からマラッカ海峡を経由してインド洋に出て、中東の産油国やアフリカ諸国へと向かい。帰りはその逆のルートでもどってくる、というものだ。

 運んできたタンカーの原油は、共和国の沿岸地帯にある製油施設で精製されて、沿岸地帯に発達している工業地帯へと運ばれて大量消費される。さらにそこから大陸内部へも運ばれる。

 つまりは我が国と同様に、タンカーを利用して、マラッカ海峡を通る同様のルートを使って運んでくるわけだ。

 このために我が国と同じく、共和国もまたマラッカ海峡を経由するシーレーン重要性を理解しており、それゆえにシーレーン上での共和国の優位性を高めるための独自の政策を行っている。

 有名なものに、真珠の首飾り、というのがある。

 これはアメリカ国防省が、共和国が実行しているシーレーン戦略のひとつを分析して命名した言葉で、共和国が中東までに利用している航路上にある港湾や空港などに対して投資などの積極的な支援を行い、共和国側の独自の足場として確保する戦略を指す。

 南シナ海、マラッカ海峡、インド洋などにある、共和国側が築いた拠点を結ぶと、まるで首飾りのようになるのが理由らしい。

 共和国はスリランカ南部で、港湾の整備だけではなく、3億ドルの資金を投じて大型船が寄港できる同国最大級の港湾施設の建設を行った。またバングラデッシュやパキスタン等でも、共和国企業が港湾建設を実行している。

 上記のような、パキスタンのグワダール港、スリランカのハンバントタ港、バングラデッシュのチッタゴン湾、ミャンマーのシットウェ港、などがこの真珠の首飾り戦略の実例となる。

 その国が利用しているシーレーン上に点在する港や空港への投資や外交関係の構築なら、我が国もよくやっているので問題視する必要もないのだが、共和国はこうした港や空港を、共和国側の軍事拠点、軍港化しようとする意図がある。それが困るのだ。

 実行されてしまうと、共和国が自国のシーレーンの保護や確保、安全性の向上を名目に、南シナ海、マラッカ海峡、インド洋、ペルシャ湾までの海上の輸送路を共和国の海軍がおさえてしまう可能性がある。そうなれば他国は従来通りに海上輸送ができなくなってしまう。

 共和国がこうした行動に出るのは、南シナ海を含めた共和国の近海を軍事力と経済力で押さえることで、それまで東南アジアの海の保護を続けてきたアメリカ海軍に対抗するためでもある。

 東南アジアのどの国も自国のシーレーンの保護には力を注いでいる。我が国はアメリカとの同盟関係を強めることで維持につとめている。共和国はそれとは逆の方法をとったわけだ。

 ただし、共和国側でも自国のシーレーンの脆弱性と、自国のシーレーンを他国に押さえられてしまう危険性を熟知しており、また違うやりかたで問題解決のために努力している。

 たとえば、ミャンマーのチャウビューから共和国の雲南省昆明まで続く長大なパイプラインを建設して、それを使ってマラッカ海峡を通過せずに、大陸の陸上ルートで原油や天然ガスを確保しようという方法だ。

 ほかにも、カザフスタン経由、シベリア経由のパイプラインを建設して、海上ルートではなく陸上ルートで石油や天然ガスを確保しようと努めている。

 たがパイプラインでは大量移送は難しいようで、うまくいっているとはいえない。けっきょくは、インド洋とマラッカ海峡と南シナ海とを往復する海上ルートに共和国が頼らざる得ないのは、現在も変わっていない。

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