第43話「完成間近⁉」
第43話目になります。残り後に2話か1話で第二部は完結になりますが、よろしくお願いいたします。
第43話「完成間近⁉」
俺――優祐が父親の妹夫婦に引き取られて早一ヶ月が経とうとしていた。俺は未だに両親の死から抜け出せず、今の両親に与えられた部屋に引きこもっていた。
だって、朝会ってそのまま帰らぬ人になりましたなんて、どうしてそのまま信じられるなんて言うのだろうか?
俺がベッドに寝っ転がっていると、部屋の扉が控えめにノックされた。誰だろう? と思っていると、外からこれまた小さな声が聞こえてくる。
「えっと、優祐さん。ご飯が出来ましたけど食べますか?」
その声は俺に突如出来た妹の彩だろう。
斉見彩。父親の妹夫婦の一人娘で、俺とは二歳下だった。彩は、ここに俺が来てからすぐに、彩は何かと俺のことを気にかけてくれていた。どうして、俺のことをそんなに、俺のことを気にかけてくれているのか俺にはさっぱり分からなかった。それに、俺はそんな彼女とどうやって接して良いか分からず、彩とはまともに会話が出来ず、顔もまともに合わせられないでいた。
だから、俺はこうして話しかけられても言葉を返すことが出来ないでいた。だから、俺は今日も聞こえないふりをしてしまうのだ。
彩に対して申し訳ない気持ちはもちろんあった。だけど、それ以上に顔を合わせるのが辛かったのだ。きっと向こうだって突然出来てしまった兄に動揺しているはずだ。その考えも相まって、彩と顔を合わせられないでいたのだ。
俺がそんなことを考えていると、扉のドアがもう一度叩かれた。しかし、それも無視を俺は決め込んだ。毎回、彩は必ず二度はノックをする。そして、それでも俺が返事をしないようであれば、諦めそこから立ち去っていたのだが、今回はそうはいかなかった。しばらく経って、さらに再び扉がノックされる。
彩からの三度目のノックなど、今までなかったことだ。それが今回はあったのだ。俺はベッドに寝っ転がっていた体をむくりと起き上がらせた。
何だ? あの子今日はしつこいな。
俺がそんなことを考えていると、またノックの音が部屋に響く。
「優祐さん、ご飯ですよ。妹が作った美味しいご飯ですよ。一緒に食べましょ」
あれ? 何だか外にいる彩の様子おかしくないか?
文面だけを見るなら、普通のことを言っているのだが、何だか彩の言い方の所為なのか狂気じみた何かを感じたのだ。
「ねえ、私のことを見てください! 私だけを見てください! それとも私が私しか見れないように優祐さんを調教します!」
俺はその言葉を聞いて、慌てて扉を開けたのだ。
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俺はパソコンの画面を眺めながら、違うなっと唸ってしまう。
何故にヒロインである彩がヤンデレ化しているのか? 俺に疑問しか思い浮かばなかったが、原因は分かっていた。
きっと先日の梨衣のヤンデレ化事件が関係しているのだろう。あれはまさに俺には衝撃的な事件だった。だって、あの梨衣がまさかヤンデレ気質を兼ね備えていましたなんて、誰が思うのだろうか? きっと、学校中の全生徒に聞いても、そんなことを思う奴はいないだろう。それぐらいに、俺はあの事件に衝撃を受けていたのだから。
そして、その強烈すぎる梨衣のヤンデレが今でも俺の心にその存在を残していた。むしろ、今までどうしてアレが出てこなかったのか不思議なぐらいに、キャラが濃いヤンデレであった。そのことが頭から離れず、作品に影響を与えてしまったのだろう。
とりあえず、ここまでの流れはボツだな。さすがにこんなんじゃ咲姫も納得しないだろうし。何よりも作者である俺が納得できない。やはり、一つの作品を書くからには最高の作品に仕上げたいし。
俺はそう考えながら、今まで書いた文章を削除していく。そして、もう一つ夏美さんから話されたことを思い出していた。
『成未、実はね梨衣ちゃんのご両親があなたに会いたがっているのよ』
俺は夏美さんが言ったことをすぐには飲み込むことが出来なかった。
『でもね、すぐに会いたいと言っているわけじゃないわ。だから、成未の頭の片隅にも入れておいてくれればと思ってね』
夏美さんの言葉を聞いて、俺は安堵のため息を吐いた。夏美さんはそんな俺の様子を見てクスクスと笑うと、『まっ、そんなに硬くならなくても大丈夫よ。とってもユニークな人たちだから。それに、まだ会いたいって言ってるだけで、会うとは決まっていないのよ。だから、今からそんなに固まっててどうすのよ』と言われたが、俺は苦笑いしか返せなかった。
だってそうだろう。親にもあいさつをしてないうちから、何だか婚約者同士みたいな約束を梨衣としてしまっているのだ。いざ、梨衣の両親に会った時に何てあいさつをしたらいいのかが分からないのだ。
『まっ、頑張りたまえよ若者よ』
夏美さんはもう一度笑うと、その場を後にしたのだった。
あの時の会話を思い出すと、今でも胃がキリキリと痛むのを感じる。もし仮に、梨衣のご両親と会うことになったなら、開幕土下座をするしかないのかな? 何だか最近、誰かに土下座をすることが増えている気がするのは気のせいだろうか? 多分、気のせいではないのだろうな。うん、ほぼ俺に原因があるようなもんだし。
俺はもう一度ため息を吐き出すと、両頬をパチンと叩いた。
とにかく今は執筆に集中だ。早くこれを完成させて咲姫に読ませてやりたいし。
俺は気合を入れ直すと、キーボードを叩いていくのだった。最高の作品を完成させるために。
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「成未、何だか眠そうだな」
翌朝、学校に行くと席に着くなり綾人にそう声をかけられた。
あの後は、何かと乗ってしまい気が付いたらすでに深夜の二時を回ってしまっていて、そこから慌てて寝たので少し寝不足なのだ。もちろん、朝は梨衣が優しく起こしてくれました、はい。
「寝不足なんだよ、小説書いててさ」
「あ~あ、あのリクエストもらった作品ね。でも、そのリクエストもらったのって、一週間以上前の話じゃなかったか? まだ出来てないの?」
「簡単に言うなよ。今回は内容が内容だけに簡単に話の方向性がまとめられなかったんだよ。それに、リクエストした奴が奴だしな」
最後の方は小声になってしまう。さすがにリクエストをしてきたのが、俺の妹でしたなんて言えない。
「でも、成未の場合簡単に書けると思うけどな」
「その心は?」
「だって、成未には可愛い妹がいるんだから楽勝っしょ!」
だから、綾人の奴はどうしてそんなことばかり言ってくるのだろうか? 妹がいるからと言って妹小説が書けるとは限らないのだ。
「それで成果はどうなのよ?」
「まあ、良い感じかな。分量的には後もう少しなんだよ。だけど、最後のクライマックスがどうしても納得できない感じなんだよね」
「短編小説をまとめるのって結構難しいよな」
「そういう綾人は簡単そうに短編書いてるじゃないか」
「別に簡単って訳じゃないんだけど、成未が苦手過ぎるだけじゃね?」
綾人に図星を刺されて、俺は思わずうめいてしまう。確かに苦手ではあるけれど。
「でもまあ、完成しそうで良かったじゃん。成未、一時期はマジで書けなくなって心配してたし」
綾人の言う通り、俺は一時期スランプに陥っていた。書いても書いても中々良いシーンが生み出せず、またパソコン画面をぼぉーと見ているだけで、キーボードを打つことさえ出来ていなかった。しかし、昨日は久しぶりに乗れて一気に書けなかったシーンを書き上げることが出来たので良かったと感じていた。
「それでラストシーンは考えてあんの?」
綾人の問いかけに、俺は「一応」と答えておく。
「ふ~ん、なら案外ラストシーンを書くのは簡単かもな」
綾人のその言葉に、俺は首を振るのだった。
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気が付いたら、午前中の授業が終了していて俺は梨衣の待つ生徒会室に足を運んでいた。
「成未くん、どうしたの?」
どうやら俺は席に着いた時からぼぉーとしていたらしく、梨衣が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「いやいや、何でもない!」
俺は咄嗟に誤魔化してしまう。先日の梨衣のヤンデレ化を今でも忘れられないからだ。
「本当に?」
探るような梨衣の瞳に、俺は一瞬たじろいでしまうが何とか持ちこたえた。
「ああ、本当だ」
「それじゃあ、私といるのはつまらない? ここ最近、成未くんずっと心ここにあらずって感じだから」
やっぱ、梨衣には敵わないな。完全に俺のことを見抜かれてる。そもそも梨衣に隠し事をすること事態無理があるのかもしれない。だから、俺は早々と白旗を上げることにした。これ以上隠してもきっと無意味な気がしたからだ。
「梨衣、実は俺悩んでることがあるんだ」
俺がそう口に出すと、梨衣は優しく目を細めて微笑んだ。
俺が小説のことで悩んでいると素直に打ち明けると、梨衣は少し考えた後何故だか俺の頭を撫でてくれる。
「まったく、成未くんらしい悩みね。でも、それなら早く言ってくれれば良かったのに」
「まあ、それはそうなんだけど。やっぱり、ここは自分で考えないといけないかなって思ってさ」
「別に気にしなくても良いと私は思うけどなぁ~。それで、成未くんが短編が書くのが苦手で、さらに終わらせ方に迷ってるってことで良いのよね?」
「そうなんだ。どうしても話をコンパクトにまとめられないんだよな」
俺がそう話すと、梨衣はいきなりデコピンをしてきた。
「っ⁉ いきなりどうしたんだよ?」
「成未くんは難しく考え過ぎなのよ。私は長編でも短編でも成未くんらしい作品を書けば良いと思うけどな。それに物語を書く時って絶対に書いてる最中に、こういう終わらせ方にしたいなって浮かんでこない? だから、そのままそれを形にすれば自然とラストを迎えられると思うな」
俺らしい作品を書けば良いか。確かに俺は短編ということで、そのことに固執し過ぎていたのかもしれない。
それにラストシーンは思い浮かんでいるんだ。後はそれを文字にして形にするだけだ。
「ありがとう、梨衣。梨衣のおかげで大切なことを思い出したよ」
そうだ。俺はいつも思いを爆発させて書いていくのが主流だった。だから、今回もやり方は変わらない。俺らしい作品を書き上げてみせる!
「成未くんのお役に立てたなら良かったな。彼女冥利に尽きるし。それじゃあ、ご飯を食べよっか。お腹空いたよね?」
「ああ、実はペコペコなんだよ」
俺の言葉に梨衣は嬉しそうに笑うと、机の上にお弁当を広げ始めた。
俺がそんな梨衣の様子を眺めていると、横から声が響く。
「それでイチャイチャタイムは終わったのかしら?」
声の視線を向けると、そこにはスマホをこちらに向けている松井先輩の姿があった。まさか、今の様子を撮っていたのか? まさかな? いや松井先輩ならやりかねないな!
俺がその事実に気付き声を上げるよりも先に、梨衣が松井先輩に向かって怒っていた。
「茉依! 今の動画で撮ったでしょ?」
「こんな所でイチャついている梨衣が悪い!」
対する松井先輩は完全に開き直っていた。
数秒後、梨衣の雷が落ちたのは言うまでもないだろう。
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