第42話「再襲来」
皆さん、大変お待たせいたしました。第42話目になります。こちらの第二部の方も後数話で終了予定ですので、お付き合い頂けると嬉しく思います。お待たせしまって申し訳ありませんでした。
第42話「再襲来」
「あらあら、二人ともいつの間にそんな仲良くなったの?」
その声に俺と咲姫はビクンとなってしまう。だって、今聞こえた声は確実に咲姫の母であって、俺の義母にあたる夏美さんの声だったからだ。
まずいと思いながら、俺は完全に固まてしまう。顔からは冷や汗がダラダラと流れている感じがする。
目の前にいる咲姫も固まっている。
俺は油の切れたブリキ人形のように、ギギギと首を後ろに向けるとそこには案の定、満面の笑みを浮かべた夏美さんがいた。
「えっと、どこから見ておられたんですか?」
俺は恐る恐る夏美さんに問いかけた。そして、夏美さんは笑顔で言ったのだ。
「最初から」
ああ、終わった。完全に終わった。
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現在、俺はリビングに正座をさせられていた。そして、目の前には生徒会の仕事を終えて帰宅していた梨衣の姿があった。その後ろでテーブルに座ってお酒を飲んでいる夏美さんの姿も見える。
「成未く~ん、どういうことなのか説明してくれるかな?」
夏美さんが俺たちのことを笑っている時に梨衣が帰って来てしまい、瞬く間に俺と咲姫が何をやっていたのか、梨衣の知ることになったのだ。
「えっと、あれはあれですよ」
ちなみに咲姫はと言うと、小説を書きたいからってことで部屋に残っていた。でもそれって、梨衣のことを俺に押し付けたってことだよね! せめて弁解だけはしてほしかった! だって、どんどん梨衣の見る目が冷たくなってきているんだもの!
「それで、自分の妹に手を出そうとした気分はどうなのかな?」
「本当に誤解なんです! 許してください!」
「何が誤解よ。妹の部屋に押しかけて、押し倒しておいて良く言うわ!」
「そこだけ聞くと、ものすごい誤解が生まれそうだな! そうじゃなくて、だから誤解なんだよ!」
「私にだってそんなことをしてくれたことがないのに!」
「論点はそこじゃない! えっ? 何? 梨衣押し倒してほしかったの?」
「ちっ違うわよ! 成未くんのライトノベルバカ!」
だから、そのライトノベルバカって何なんだよ!
「そうよね。成未ったら、梨衣ちゃんがいるのにも関わらず、自分の妹に手を出そうとしているですもんね。最低なクズ男よね!」
「夏美さんは少し黙ってて下さい!」
俺は酒を煽りながら、そんなことを言ってくる夏美さんにそう叫ぶが、夏美はくすくす笑って俺の話を聞く耳を持ってくれはしない。
目の前に立っている梨衣は、ゴミを見るような目でこちらを見ているし。
「あの~ 梨衣さん。お一つよろしいですか?」
「何? 最低なクズ男の成未くん」
さっきのは本当にごめんだけど、そこまで言わないでほしい。俺はそう思いながらも、梨衣に向かって土下座した。まさか、一日で二人に土下座をする羽目になるとは思わなかったぞ。
「本当にごめん」
とにかく謝り倒すしかない。俺が咲姫を押し倒してしまったのは事実ではあるのだから。
「もう成未くん、ちゃんと反省してるの?」
「はい、反省してます!」
俺は頭を上げないままそう言葉にする。
「梨衣ちゃん、騙されちゃ駄目よ。成未はそうやって謝り倒せば良いとしか考えてないから。きっと、次もやるわよ、その男」
だから、夏美さんはどうして誤解を生むようなことしか言わないのだろうか。
「それは本当なの? 成未くん」
ほら梨衣だって信じちゃってるし! 意外と純粋なんだから梨衣は! 夏美さん絶対にこの状況を楽しんでるだろ!
「まったくの偽りです! そんなわけないじゃないですか! 俺は梨衣一筋だって!」
「嘘ついちゃ駄目よ、成未。小さい頃なんて咲姫のこと、僕のお嫁さんにするって言ってたじゃない。あの言葉は嘘だったの!」
俺はがばっと起き上がって夏美さんに反論する。
「勝手に人の過去を捏造しないでください。それに小さい頃っていつの話ですか! 俺が波瀬家に来たのは中一の時の話ですよね⁉」
そうだ。俺が波瀬家に来たのは中学一年生の時なのだ。俺の記憶にはそんな出来事はない。
「あら? そうだったかしら?」
言った張本人は、そんな具合にとぼけているし。
本当にこの人は何がしたいんだ?
「梨衣、今の話は夏美さんの勝手な捏造話だから。信じないでくれよ!」
俺は勝手に捏造で作り上げられた話をないことにするために、梨衣に向き直ったのだが、梨衣の方を見ると何だかドス黒いオーラが梨衣から出ていた。
「えっと、梨衣さん?」
あまりの迫力に俺はたじろいでしまう。対する梨衣は不気味な笑い声を上げて、何やら瞳も虚ろな瞳をしていた。
「ねえ、成未くん」
「はっはい」
俺は慌てて正座をし直した。梨衣から何とも言えない迫力を感じる。梨衣は俺の目の前で膝を着くようにしゃがむと、俺の頬を両手を添えて自身の方に向けた。
「ねえ、私のこと愛してる? 愛しているなら愛してると言って? ほら、言ってよ!」
何だか俺の彼女がヤンデレに目覚めているんですけど! まずい、まずい!
「愛してます! 世界で一番梨衣のことを愛しています!」
こうなったらもうやけだ! やけくそだ! とにかく梨衣を正常の戻さなければいけない。だけど、これってどうにかなるのか?
それと、夏美さん。こそこそ自分だけリビングから出て行かないでください! この状況をどうにかしてください! と言うか誰か助けてください!
俺は心の中で全力で叫んでしまうが、今は目の前の梨衣のことに集中しないといけないと思い直した。
「はい、良く出来ました。それじゃあ、成未くんはこれからどうしたら良いのか分かるよね? どうしなきゃいけないか分かるよね?」
マジで俺の彼女が怖いんですけど! 梨衣ってこんな感じだったか?
「はい! 分かります!」
「それじゃあ、大きな声でどうするか言ってみて。ほら、早く」
ここで選択を間違ったら、俺死ぬんじゃないのか? そんな緊張感の中、俺は必死に考えて答えを見つけ出す。
「これから一生、他の女の子を押し倒したりしません!」
「それだけ? さっき、私のことを愛してるって言ってくれたのに? 私のことをずっと見ていてくれないの? ずっとそばにいてくれないの?」
これかなりやばいヤンデレになってないか? 誰かマジで助けてください!
「ねえ! 成未くんどうなの? 答えてよ! 答えなさいよ!」
まずいな。梨衣の奴完全に理性を失ってやがる。どうしたら良いんだ?
俺がどうやって逃げ出そうか考えていると、梨衣がさらに不気味に笑いだし、いよいよ収集がつかなくなってきた感じがする。
うん、ここは全力で宣言して梨衣を納得させるしかないか。
俺がそう覚悟を決めて、宣言しようとすると「うっ……」と目の前から小さな呻き声が聞こえたかと思っていると、梨衣が俺の方に倒れてきたので、俺は慌てて梨衣の体を受け止めた。そして、その目の前にはフライパンを片手に持った咲姫が立っていた。
「お兄たち何してんの?」
「おっおう、咲姫か。助かったよ」
俺は窮地を救ってくれた咲姫にお礼を告げると、梨衣を抱き上げてソファーに寝かせ、咲姫に今起きていたことを簡潔に伝えた。
「まさか、梨衣先輩にヤンデレ気質があったとは思わなかった」
「俺だってそうだよ。梨衣を怒らすのは避けた方がよさそうだな。じゃなきゃ、俺が死ぬ」
「まったく、お兄はすぐに地雷を踏むんだから」
「あれって俺が悪いの⁉」
いや、まあ悪いんだけど。不可抗力じゃないっすかね。だけど、そんなことを言っても仕方がないので、俺はため息を一つ吐くことでキリを付けることにする。
「お兄は不器用だよね」
「咲姫が少しは弁解してくれてたら、もっと穏便に済んだんだけどな」
「え~、嫌だよ。だって、関わったら大変なことになりそうだったじゃん」
「お前な~、そのせいでこっちは大変だったって言うのに」
「だから、助けてあげたじゃん」
「そういう問題じゃないって」
俺は咲姫のことを軽くはたくと、梨衣を抱き上げた。いつ起きるかも分からないのに、ずっとここに寝かせておくことは出来ない。
「ああ、お兄」
梨衣を抱きかかえて、リビングを出て行こうとすると咲姫に声をかけられる。
「何だよ? 咲姫」
「お兄のクズ男」
ブルータスお前もか。どうして、全員に俺はクズ男と呼ばれないといけないんだ。そして、咲姫の奴はどうしてあんなに笑顔なんだ?
俺はもう一度ため息を吐き出すと、リビングを後にした。
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俺が梨衣を自分の部屋のベッドに寝かしつけて廊下に出ると、壁に寄りかかりながらビールを飲んでいる夏美さんの姿があった。
「どうしたんですか? 夏美さん」
「成未、今日私がここに帰ってきたか分かる?」
唐突過ぎる夏美さんの質問に、俺は戸惑ってしまう。夏美さんは一体何を言いたくて、こんな質問をしてきたのだろうか?
「まったく分からないです」
「まあ、分からなくて当然よね」
「さっきから何が言いたいんですか?」
要領がつかめなかったので、俺は思わずそう聞き返してしまう。
「成未、梨衣ちゃんを家で預かっているのは知っているわよね」
「それはもちろん知ってますけど」
「それじゃあ、私と梨衣ちゃんのご両親が知り合いだったってことは?」
「それも梨衣から聞いてますけど」
本当にそれがどうしたと言うのだろうか? 話の矛先がまったく見えてこない。
「なら話は早いわね。成未に一つそのことで話があるわ」
そのこととはどのことなのだろうか?
俺は首を傾げてしまうが、次の夏美さんの言葉に驚いてしまう。
「成未、実はね梨衣ちゃんのご両親があなたに会いたがっているのよ」
はっ⁉ それってどういうこと?
俺は自分の耳を疑うことしか出来なかった。
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