第44話「遂に完成!」
第44話目になります。そして、この回で第二部が完結になります! みなさまお疲れさまでした。そして、途中中々更新できずに申し訳ありませんでした。この第二部はラブコメ色多めでお送りしましたが、これからもこんな感じでお送りしつつ、シリアスを混ぜていきたいと考えておりますのでよろしくお願いいたします。
第44話「遂に完成!」
学校が終わるとすぐに校舎を飛び出し、一目散に家に向かって歩いていた。梨衣や綾人のおかげでだいぶ方向性が見えてきたため、この感情のままキーボードを叩きたいと思ったのだ。
玄関の扉の鍵穴を挿すことさえももどかしくて、鍵を開けると俺は階段を駆け上がり自分の部屋に駆け込んだ。
ベッドの上にぺったんこの鞄を投げるとすぐにノートパソコンを起動させる。起動する時間までもがもどかしく、長く感じる。
起動すると俺はすぐさまワープロソフトを立ち上げて激情のままに、文章を打ち込んでいく。
そうだ。俺はずっと迷っていた。この主人公と妹が迎える結末に。果たしてこの二人はこの結末でハッピーエンドを迎えるのか。果たしてこの作品は俺の作品だと言えるのだろうか?
俺は兄妹ラブコメのリクエストをもらった時、家にあった兄妹ラブコメを題材にしたライトノベルを読んで、それになぞるような形でストーリーの構成を考えていき、そこからオリジナル作品に出来るようにあれやこれやとやっていた。しかし、そこが間違いだったのだ。
そんなことをしてしまったら、その作品はすでに俺の作品とは呼べないからだ。あくまでもそれは、その作品をリスペクトした作品になってしまう。良く言うパロディーとかそんな感じの作品になってしまうのだ。
それを梨衣が覚まさせてくれた。だからこそ、俺は結末に迷い、スランプに陥りかけていたのだと。
そして、今回完成させた作品はネットには上げないつもりだ。何故なら、この作品は沢山の読者のために書いているのではなく、あくまでも俺の妹である咲姫に向けて書いているためだ。
最初はHimeさんに向けて書いていた。しかし、その正体が咲姫だと知った時から、俺は見ず知らずの相手ではなく、今ではお互いのことが分かり始めてきた妹に対して書いているのだ。今まさに咲姫だけの世界でたった一冊の小説を作り出そうとしている。だからこそ、俺はこの作品をネットには上げるつもりがないのだ。咲姫だけの小説だから。
俺はそう考えながら、キーボードを次から次へと打鍵していく。
もしかしたら、咲姫は俺の作った兄妹ラブコメの形に納得してくれないかもしれない。だけど、俺はこの作品にある一つのメッセージを込めたいと思っている。
普段はツンツンしていた妹ではあったが、俺のことを気にかけてくれていた優しい妹。俺にそんな優しさを教えてくれた彼女に、俺が伝えたいことは家族愛だった。この家族愛は、俺が昔の家にいたままだったら、絶対に感じることが出来なかった感情だと思っている。
もちろん、咲姫だけじゃなく、夏美さんや孝喜さんだって俺に家族愛を教えてくれた。だけど、一番教えてくれたのはやっぱり、咲姫だと俺は思ってる。
だから、だから、俺はそんな彼女に伝えたかった。家族愛の大切さ、そして感謝を。それにこんな俺を好きになってありがとうって。
キーボードを叩いている間、色々な咲姫のことが浮かんでくる。口元には自然に笑みが零れていた。
本当に咲姫にはお世話になりっぱなしだったんだな。ぶっちゃけ、咲姫がいなければ、今の俺はないんじゃないかってぐらいに、俺にとって咲姫の存在は大きかったのだ。
激情のままに書いていると、いつの間にか原稿用紙の最新の行には『終』と書かれていて、物語は終りを告げていた。
完成……したんだよな?
無意識に終りの文字を書いていたため、俺は不安に見舞われてしまうが、何度も読み返して確認したところ、確かに物語は完結を迎えていた。ちゃんと短編のレベルで収まる文字数で、話も割と綺麗にまとめることが出来たんじゃないだろうか?
それに、咲姫に伝えたかったメッセージもこの作品に込められたと俺は思っている。
これで咲姫の奴が納得してくれるかは分からない。だけどこれは俺しか――Naru しか書けない作品だと思っている。梨衣にだって、綾人にだって咲姫にだって書き出すことが出来ない小説だ。
俺は一度溜まっていた息を吐き出すと、見直し作業を始め、改稿作業も同時で進めていく。
激情のまま書いていた作品なので、誤字や脱字が意外とあり本当に勢いのまま書いていたんだなっと感じてしまう。だけど、そのおかげでかなり良い作品に仕上がっていると俺は自負していた。
かなりの時間集中していたのか、俺が現実に引き戻されたのは咲姫が俺の肩を揺さぶってくれたおかげだった。
「お兄、ご飯だよって梨衣先輩が」
「ああ、もうそんな時間なのか?」
時計を確認すると、すでに夜の八時を回っていた。かなりの時間集中していたようだ。
「そうだよ。お兄、何度呼んでも来ないわ、返事はしないわで大変だったんだから」
ぷくりと頬を膨らませる咲姫に、俺はごめん、ごめんと謝る。
「そうそう、咲姫。待たせてごめんな。やっと完成したぞ」
俺の言葉に、咲姫は一瞬驚いた表情を見せるが、それはすぐにわくわくと言った表情に変わっていく。
「すぐにサイトで見てみるね!」
「いや、この小説はネットには上げてないし、上げないつもりでいるんだよ」
スマホを取り出して見ようとしている咲姫を、俺はそう制した。
「? どうして?」
「この作品は、あくまでも咲姫一人の為に書いた作品だからさ。だから、ネットに上げて大勢の人に読んでもらうものでもないって俺は思ったんだよ。正真正銘、咲姫だけの小説だ。だからさ」
俺はスマホを取り出すと軽く操作する。すると、目の前の咲姫スマホがすぐさま震え出した。
「完成した小説を咲姫に送っておいたから後でゆっくり読んでくれ」
「うん!」
咲姫は嬉しそうに、自身のスマホを胸に抱き寄せていた。
***********************
それから、俺は下に降りて梨衣が作ってくれたご飯を食べて順番にお風呂に入り、後は各々の時間を過ごしていた。
梨衣は自室で自分のい作品を改稿していることだろう。締め切りが近いって言ってたっけ。そして、咲姫は咲姫できっと俺が渡した完成したばかりの小説を読んでいることだろう。
俺は俺で何とか作品を完成させた安心感から、ベッドの上でくたーとしていた。
何か新作を書きたいと思っていても、やはり一つの作品を完成させた後はどうしてもこうなってしまうものだ。
でも、咲姫が喜んでくれているみたいで良かったな。
あの後、ご飯を食べている時も咲姫は終始ご機嫌で、見ているこっちも嬉しくなったものだ。
ああなるんだったら、もっと早く完成させてあげれば良かったなっと、俺は思わず後悔してしまうが、でも逆に、ここまで悩んでいなかったらあの作品は完成しなかっただろうと言う思いもあった。
何か久しぶりにラノベでも読むかな。
俺はそう思いよっこらせと立ち上がり、本棚に向かおうとすると勢いよく部屋の扉が開け放たれた。そこかた咲姫が入って来て、その勢いのまま俺に抱き着いてきた。
突然のことに俺は反応できず、咲姫を受け止められずそのまま咲姫と一緒にベッドに倒れ込んでしまう。俺が下になる形で咲姫が上に乗っていた。
「いっっ……おい、咲姫?」
俺はいきなり抱き着いてきた妹を怒るべく、体を起こし咲姫の方に視線を向けるのだが、そこで言葉に詰まってしまう。何故なら、咲姫は両目を真っ赤にして静かに泣いていたのだ。
「おい咲姫?」
「ずるい」
突然の妹の行動に俺は戸惑い、そう声をかけるが、咲姫は咲姫でそう小さく答えるだけだった。
ずるいとは何のことなのだろう?
俺は咲姫が言いたいことが見えてこないでいた。その間にも咲姫は「ずるい、ずるい」と言葉を繰り返していた。
「咲姫」
そんな俺は、咲姫の名を呼ぶことしか出来なかった。しばらく待っていると、咲姫は落ち着きを取り戻したのか、いつしか涙は止まっていた。しかし、静かに泣いていたとはいえ、咲姫の両目は真っ赤になっていた。
「やっぱり、ずるいよお兄は」
「だから、ずるいってさっきから何のことなんだ?」
咲姫はさっきから、まるで駄々っ子の様にずるい、ずるいとしか言ってくれないので、咲姫がどうしてそうなっているのか本当に分からないのだ。
俺がそう聞くと、咲姫は無言でスマホを差し出してくる。そのスマホにはある一つの画面が表示されていた。
「これって、俺が書き上げた小説だよな」
画面に映っていたのは、先ほど俺が咲姫に送ってやったリクエスト作品の小説「義兄と義妹~二人の物語~」だった。これが一体全体何の関係があると言うのだろうか?
この話は両親を不慮の事故で亡くした主人公が、父親の方の妹夫婦に引き取られるところから始まり、そこで出会った妹になるヒロインとのラブコメだった。
俺はその考えを主幹に置きながら、舵を大きく切っていた。序盤から中盤に関して言えば、最初はお互い惹かれ合っていた二人が結ばれることになるのだが、最終的には恋人ではなく家族に戻ると言う話になっている。そして、最後の引きがヒロインのセリフ『今は元の家族に戻ります。だけど、いつか彩を本当の家族にしてくださいね』となっている。
これは咲姫が告白してきてくれた時のことを思い出して書いたセリフでもあった。実際、俺は咲姫の告白を断っている。梨衣がいたからって言うのもあったが、俺と咲姫は家族としての繋がりの方が強いと思ってしまうのだ。
「これがどうしたって言うんだよ?」
まさか感動したってことか? いやでもそれでずるいはおかしいか。駄目だ、咲姫がこうなっている理由がさっぱり分からん。
俺がお手上げ状態になっていると、咲姫が顔を上げたかと思っていると、そのまま自身の唇を俺の唇に重ねてくる。
妹の突然の行為に俺は明らかに戸惑ってしまう。数秒後にその魅惑の果実は離れていったが、俺にはその数秒が永遠にも思えるぐらい長いものだった。
「お兄、やっぱり咲姫はお兄のことを諦めたくない」
俺の膝の上に座ったまま、咲姫がポツリとそう溢した。
「諦めたくないって?」
んなこと言われてもな。俺にはすでに梨衣がいる。それに、俺たちは兄妹なのだ。義兄妹ではあるが、俺は本当の兄妹だと思っているし。
「だって! だって! 咲姫はどうしようもないぐらいにお兄のことが好きなんだもん! それに、咲姫の気持ちを知っててこの小説を読ませるなんてお兄はずるいよ!」
「いやいや、兄妹ラブコメをリクエストしたのはお前だからね!」
確かに咲姫と仮の恋人同士として一週間過ごした体験や遊園地で起きたことを、この作品に生かしたけども!
「そうじゃない! そうじゃないんだよ! せっかく、お兄のことが好きって気持ちに折り合いがつけられそうだったのに。これじゃあ、ますますお兄のことが諦められないよ」
つまり、俺は咲姫の気持ちに再び火を点けてしまったということなのか。
「咲姫、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだよ。俺はただ家族でもある愛情は同じだよってことを伝えたかっただけなんだ。それに俺に家族愛を教えてくれたのは咲姫だ。だから、それも咲姫に伝えたかった。ただそれだけだったんだ」
「分かってる。分かってるよ。そんなこと。読んでて分かったもん。お兄はきっと咲姫にそれを伝えたくてこの作品を書き上げたんだって。分かってた。分かってたんだよ。だけど、咲姫はお兄が好き、大好き! だから、だから、咲姫はあえてお兄言うわ!」
咲姫はそこで言葉を切ると、一度深呼吸をした。
「今は元の家族に戻ります。だけど、いつか咲姫を本当の家族にしてくださいね」
それは、俺が小説の締めの言葉として選んだセリフだった。そして、それは咲姫の決意の表れでもあった。
「咲姫は絶対に成未を諦めない。だから、覚悟してよね成未!」
咲姫はそう言うと悪戯そうにウィンクしてくる。
「おい……それってまさか?」
「うん! 咲姫は何が何でもお兄の成未のお嫁さんになるよ! だから、今の間だけは梨衣先輩に成未の隣を譲っといてあげるの」
咲姫はそう言って微笑むのだった。
俺はその微笑みを見て、ああ妹には敵わないと思ってしまうのだった。そして、これから先も大変な目に合うのかと嘆くしかなかった。そして、咲姫はその微笑みを悪戯そうな笑みに変えて呟いたのだった。
「成未のライトノベルバカ!」
面白いと思って頂けましたら、ブックマークや評価のほどをよろしくお願いいたします。
第二部はこれにて完結になります。本当にお疲れさまでした。第三部の方ですが、内容を少し詰めたいと考えておりますので、しばらく更新はお休みになりますが、これからもいお付き合いよろしくお願いいたします。




