第40話「観覧車の中で」
第40話目になります。今回も楽しんで頂ければ幸いです。
第40話「観覧車の中で」
様々なアトラクションを乗り倒し、残すは後一つとなっていた。
「まさか、本当にすべて乗り倒すことになるとは思わなかったな」
「だから、遊園地ゴッドのオレに任せておけって言っただろ!」
綾人がやかましいので、無視することにするとして、隣を歩いていた咲姫が裾をくいくいと引っ張てくるので、俺はそちらに視線をやった。
「残り一つのアトラクションだね」
咲姫はそう言って笑いかけていくる。その笑顔にドキリとしてしまったことは、俺だけの秘密だ。
「それで最後のアトラクションって、何なんだ?」
「それはもちろん観覧車だよ!」
咲姫はその場で回ると、目の前にそびえ立つ観覧車を指さした。
「観覧車ね。確かに遊園地で最後に乗るのって定番よね」
「梨衣の言う通り、結構、ラノベやマンガとかでも最後の方に乗ってるシーン多いもんな。夜景が綺麗だなとかってシーンよく見るもんな」
ちょうど太陽は沈み街はライトアップしているので、観覧車からは綺麗な夜景が見れるだろう。
乗り場まで行くと待ち時間なしですぐに乗れそうだったので、俺と咲姫、綾人と梨衣で観覧車に乗ることになった。
「おい綾人、梨衣に変なことをするなよ」
「お前、オレを何だと思ってるんだよ?」
「う~ん、ただの変態クソメガネ」
「お前、親友に対して容赦なさすぎないか?」
「良いんじゃね、綾人だし」
「この野郎」
綾人は笑いながら、俺のことを小突いてくる。けど、本当に綾人は俺にとっては大切な友人だよ。綾人がいなければ学校生活でさへ、しっかりと送れていたかも分からないし。
俺は綾人に心の中でお礼を言いながら、咲姫と一緒にゴンドラへと乗り込んだ。
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ゆっくりと観覧車のゴンドラが上がっていく。
ゴンドラの中からはゆっくりとだが、ライトアップされた街並みを見ることが出来る。こうして、生で観覧車の中から夜の街並みの風景を見ることは初めてだったが、とても綺麗なものだと俺は感じていた。
正面に座る妹・咲姫をチラリと盗み見ると、彼女もまたこの風景に見入っているのか、じっと窓の外に広がる街並みを眺めていた。
しばらくの間、俺と咲姫は無言でその街並みを眺めていた。
「お兄」
すると、唐突に咲姫が俺のことを呼んだので、俺は咲姫の方へ視線を向けた。視線を向けると、咲姫もこっちをじっと見ていた。
「どうしたんだよ? 咲姫」
「お兄、今日は楽しかった?」
「あっああ。途中は大変な目に合ったりしたけど楽しかったよ。遊園地ってこんなに楽しい場所だったんだな」
俺は嘘偽りのない本心からの言葉を口にした。初めてこういうレジャー施設に来たけど、こんなに楽しいとは思っていなかったっし、一つ一つが新鮮で見ていて飽きなかった。
「そっか。なら良かった」
咲姫は俺の答えに安心したように笑っている。
「何だか、咲姫に気を使わせちまったか。なら、ごめんな」
「ううん、今日はお兄に名一杯楽しんでもらおうと思ってたから、良かったなって思っただけ」
「咲姫、ほんとにありがとな」
俺と咲姫は笑い合い、また無言になってしまう。その空気は少しの間続いたが、その沈黙を破ったのも咲姫の方だった。
「明日で一週間だね」
言葉は少なかったが、何となく咲姫が何を言いたいかは俺に伝わっていた。
「そう……だな。明日で一週間か。何だか長いようで早かったな」
「そうだね。……お兄はどうだった? 咲姫と疑似だけど恋人になって?」
咲姫と恋人になってか。確かに大変なことの方が大きかったような気がしないでもないが、この一週間、騒がしくも慌ただしくて俺としてはものすごく楽しかったと思える日々だったと思う。
「楽しかったよ」
だから、俺は咲姫のことを真っ直ぐと見てはっきりとそう告げた。
「咲姫と過ごしたこの一週間、俺は本当に楽しいと思った。何だか今まで知らなかった新たな家族というものの一面を知れた感じがして。俺に家族の温もりを教えてくれたのは間違いなく咲姫だよ」
俺の言葉に、咲姫は優しく微笑みかけてくる。そんな咲姫の表情に、俺はまたドキッとなってしまう。
「お兄。それじゃあ、改めて聞くね。咲姫と本当の恋人にならない? 咲姫はお兄に本当の家族を教えてあげたい。小さい頃、お兄がどんな目に合っていたか咲姫は知ってる。知っていたからこそ、咲姫がお兄に本当の家族がどうなのかを教えてあげたいの。だって! だって! 咲姫はお兄のことが好きだから!」
咲姫の精一杯の告白に、俺は最初何て答えたら良いのか分からなかった。だって、数年間一緒に暮らして来て、やっと本当の兄妹になれていたのかなって思っていたら、その妹に本気の告白をされたのだから、言葉に詰まってしまうのは当然だと思う。
咲姫は顔を真っ赤に染めて、瞳に涙を溜めながらそう叫んでいた。その姿を見て、俺は妹がどれだけ俺のことを想ってくれていたのかを知る。
「咲姫、ごめん」
俺は咲姫に断りを入れると、二歳年下の彼女のことを抱きしめた。俺の突然の行為に咲姫は最初は驚いていたが、しばらくすると俺の胸に顔を埋めてきた。俺はそんな彼女の頭を優しく撫でてやる。
「咲姫、ありがとな。こんな俺のことをこんなに想ってくれて。俺はずっと不安だったんだ。咲姫の兄として上手くやれているんだろうかって。あの時、咲姫が俺と打ち解けようとしてくれたから、俺と咲姫の今の関係があるんだと思う。だから、俺は咲姫の兄貴として、ちゃんと兄貴らしくやりたいと思ってた。だから、咲姫がそう言ってくれて本当に嬉しかった。出来ることなら咲姫の気持ちに応えたいとも思う。けど……」
俺はそこで言葉を一度切り、深呼吸をした。これから言うことは彼女を深く傷つけるだろう。だけど、しっかりと伝えないといけないんだ。この優しい少女に。
「俺は咲姫のことが好きだ。大切な存在だと思ってるよ。だけど、ごめんな。俺には梨衣がいる。梨衣を幸せにしたいと思ってるんだ。梨衣は俺の話を聞いて、自分のことのように泣いてくれた。そんな梨衣を俺は心から幸せにしたいと思ったんだ。だから、咲姫の気持ちには応えられない。本当にごめんな、咲姫」
俺はそう言うと、彼女のことをギュッと抱きしめた。本当にごめん。そして、ありがとうと言う気持ちを込めて。
咲姫は胸の所の服をぎゅっと握ると、俺の胸の中でわんわん泣いていた。
俺は落ち着くまで咲姫の頭を撫で続けた。
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いつの間にか観覧車は回り終わっていて、俺は未だに泣いている咲姫の手を引いて近くのベンチまで誘導した。梨衣には家族で大事な話があるから、少し待っててくれとメッセージを入れておく。
俺は咲姫をそこに座らせると少し待つように言って、俺は咲姫に飲み物を買ってくるとそれを渡した。
「少しは落ち着いたか?」
俺の言葉に咲姫は首を弱々しく縦に振った。
「本当は分かってたんだ。お兄が梨衣先輩のことしか見えてないこと。だけど、少しでも咲姫のことを見てほしかった。少しでもお兄に振り向いてほしかった」
咲姫は俺が買ってきたジュースを飲みながら、ぽつり、ぽつりと語りだす。
「だって、咲姫は本気でお兄のことが好きだったから」
「ごめん」
俺は咲姫に謝ることしか出来なかった。謝ってどうこうなる問題でもないのは分かっているのだが、俺にはそうすることしか出来なかった。
「お兄は謝らなくて良いんだよ。だって、お兄は悪くないもん」
「そうかもしれないけど、ごめん」
俺はただひたすらに咲姫に向かって謝った。こんな時、どうしたら良いかが分からないのだ。
本当に俺は不器用な人間だよな。妹さへ慰められないんだから。
俺が軽く自己嫌悪に陥っていると、隣でため息を吐く音が聞こえる。
「まったく、お兄っていつもそうだよね。お兄は悪くないのに悪いって思い込んで、自己嫌悪に陥るの。そこの所は昔と全然変わってない」
「これって、もしかしなくても呆れられてるのか?」
「呆れるも何も、お兄ってやっぱり不器用だなって思っただけ。けど、そんなお兄がどうしようもなく好きなんだ」
「ぐっ……」
そう言う不意打ちはずるいと思うのですよ。
今度こそ、俺は何も言えなくなってしまう。俺が黙っていると、咲姫が「お兄」と呼んでくる。
「どうした?」
「一つだけお願いがあるの。聞いてくれる?」
そう言って首を傾げる咲姫はあざとかわいかった。
俺は「俺が出来る範囲で」と前置きをして、それを了承した。
「それじゃあ、目をつぶってほしいの」
「目を?」
俺は疑問に思いながらも、両目を閉じた。
「これで良いか?」
「うん、大丈夫。開けていいよって言うまで開けちゃダメだからね」
「あっああ」
何だか、咲姫の声が気持ち上擦ってないか?
俺はそう感じながら、咲姫の言葉を待っていたのだが、そんなことは唇にやって来た感触によって吹き飛んでしまう。
咲姫にキスされたと、脳が理解するまでにかなりの時間を要してしまう。
しばらくしてから、その感触は離れていき、咲姫から開けていいと言われたので、俺は目を開けた。すると、熟したリンゴの様に顔を真っ赤に染めた咲姫の姿がそこにはあった。
「咲姫のファーストキスなんだから、有り難く受け取りなさいよね!」
んな、ツンデレキャラみたいなノリで言われても!
こっちまで恥ずかしくなってしまい、どう言葉を返したら良いかがますます分からなくなってしまう。
「あ~あ、これで咲姫の初恋も終わりかぁ~」
えっ⁉ これって咲姫の初恋だったのか⁉
驚きの事実に俺はものすごく驚いてしまう。
そんな俺の反応を見て、咲姫は面白かったのかクスクスと笑っている。
「ふふふ、お兄って本当に良いリアクションをするよね」
「それは褒め言葉として受け取っておくよ」
何はともあれ、咲姫に元気が戻ったみたいで一安心だな。
「さてと、梨衣たちを待たせてるしそろそろ戻ろうか」
俺はベンチから立ち上がると、梨衣たちの所に戻るために歩き出した。すると、咲姫がいきなり走り出して、俺を追い抜いたかと思うと、その場で立ち止まりくるっと回って俺の方に振り向き言い放った。
「お兄! もし咲姫を振って申し訳ないと思うのであれば、リクエストした作品絶対に面白い作品にしてよね!」
リクエストした作品? それって何のことなんだ?
俺は咲姫が言った意味が分からず、頭が混乱してしまう。
「咲姫、それってどういう意味なんだ? 咲姫からリクエストをもらった覚え何てないんだけど?」
俺がそう言うと、咲姫は不敵に笑って言ったのだった。
「だから、リクエスト。Naruの全力の兄妹ラブコメが読みたいわ!」
俺は大いに両目を見開くことになるのだった。そんな俺を見て、咲姫は悪戯が成功したときみたいに笑うのだった。
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