第34話「成未のライトノベルバカ!」
第34話目になります。今回も楽しんで頂ければ幸いです。
第34話「成未のライトノベルバカ!」
「ねぇ、成未。成未にだったら咲姫の初めてをあげていいよ」
俺は自分の耳を疑った。こいつは今何を言ったんだ。
「成未にだったら、咲姫の初めてをあげてもいい」
咲姫はもう一度、同じ言葉を繰り返した。
「まっ、待ってくれ! 咲姫、お前自分が何を言ってるのか分かってるのか?」
俺は背中に引っ付いて離れない咲姫に向けて、そう問いかける。本当にこの少女は自分がどんな言葉を口にしているのかを理解しているのだろうか。もし、軽はずみで言っているのであれば、それはすぐさまに正してやらないといけない。兄貴として。
「分かってるよ、もちろん」
咲姫はそう呟くと、ぎゅっとさらに抱きしめてくる。その際に、押し付けられていた2つの双丘がふにゅりと形を変えさらに押し付けられ俺の理性を掻き乱していく。
くそ、咲姫の奴、いつの間にこんなに育っていたんだ!
俺はこんな時にでもそんなことを考えてしまう自分の頭を呪ってしまう。
とにかく、咲姫をどうにかして説得しないと! とは思うものの後ろの天国とも思える感触の所為で、上手く思考が働かないでいた。
頭が痺れたかのように、考えることを放棄している感じがする。
「多分、成未は咲姫が軽はずみでこんなことをしていると思ってると思う」
ああ、ばっちり思ってたよ! じゃなきゃ、こんな状況に説明がつかないだろ!
俺の心情を知ってか知らずか、咲姫は言葉を続けていく。
「最初に言っておくけど、咲姫のこの行動は軽はずみなんかでの行動なんかじゃないから。咲姫は成未だから、初めてをあげても良いと思えたの。だから、だから、成未には咲姫の初めてをもらってほしい」
そこまで話し終えると、咲姫は俺の背中に額をくっつけた。
「咲姫……」
咲姫とそういうことをする。俺は思わず想像してしまい、慌ててその想像を振り払った。
「咲姫、気持ちは嬉しいけどその気持ちは受け取れない」
しばらく、俺らの間には沈黙が降りていた。が、俺はその沈黙を破りそう言葉を発した。
「どうして? 咲姫は成未にシて欲しいんだよ!」
俺はため息を一つ吐くと、バカなことを言う妹に向けてデコピンをお見舞いした。
「いきなり、何するのよ!」
「お前がバカなことを言うからだろが!」
「バカって何よ! 咲姫は本気で……」
「それがバカだって言ってんだよ!」
俺は咲姫の言葉を遮るようにして、言葉を重ねた。
「確かに、咲姫みたいな女の子とエッチなことをしたいって思う男子は大勢いるだろうよ! それにどちらかと言えば、俺だってシたいか、シたくないかと聞かれればシたい方を取るのかも……しれない。だけど、問題はそこじゃないんだよ。そう、そこじゃない。俺は咲姫を傷つけたくないんだ。咲姫はきっと勘違いをしてるんだって。だって、お前昔っからモテるじゃん! 中学の頃から頻繁に告白を受けていたこと、俺は知ってる」
そうだ、咲姫はモテる。なのに、どうして咲姫は俺とそんな関係をもとうと思ったのだろうか。
「だから、咲姫。俺と関係をもとうなんて思うなよ。だって、絶対に咲姫にはピッタリな男がいると思うんだ」
そうだ、咲姫には絶対に俺なんかよりもお似合いな相手がいるはずだ。咲姫が彼氏を作って連れて来た時は、それはそれで寂しいと思うが、だけど、俺なんかよりも絶対に良いはずだ。だからこそ、今咲姫が抱いている感覚は錯覚なのだ。俺を好きだと言う錯覚。だって、咲姫は一度も俺に向かって『好き』と言ってきてない。
俺は振り返ると、真っ直ぐ咲姫の瞳を正面から見据えた。咲姫も瞳に涙は溜めているが、こちらをジッと見返してくる。
「お兄のライトノベルバカ」
やがて、咲姫がそう口に出した。
「何だよ、ライトノベルバカって。初めてそんな罵倒聞いたぞ」
マジで何だよ、ライトノベルバカって? 俺の人生の中でもそんな罵倒のされ方はさすがに初めてだぞ。
「何でもライトノベル基準で物事を考えてることがあること」
ぐっ……それは否定できないぞ。
「ぐっ、確かにそういう時もあるかもしれない」
「しれないじゃなくて、あるよ。お兄は」
そう言った咲姫はやっと笑ってくれた。それを見て、俺はようやく一安心することが出来た。しかし、その安心も束の間だった。
「成未くーん、タオル忘れてたよ」
梨衣の声がした。俺の体から血の気が引くような感覚に陥る。もちろん、錯覚ではあるのだが。
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。
俺の頭はどうしたら良いのかって考えるが、時すでに遅しの状態だった。
「あれ? どうしてこんな所に、咲姫ちゃんの下着が? まっまさか!」
梨衣は驚きの声を上げたと同時に、風呂場の扉を開けた。
ああ、終わった。俺の人生が終わった。
「成未くんの……成未くんの……」
「えっと、梨衣……」
梨衣の怒声が響き渡ったのは、ここに書くまでもないだろう。
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はぁ~、疲れた。ものすごく疲れた。1年分は疲れたのではないだろうか?
あれから、梨衣をなだめるのに結構な時間を使ってしまった。それに輪をかけて咲姫が改めて梨衣に向かって宣戦布告をするものだから、そのせいもあって事態はさらにこじれややこしくなり、鎮火するのに相当な体力や気力を使った。
残りは6日か。長いな。
俺はそう感じながら、自身のノートパソコンを起動させる。とりあえず、こういう時は小説を書くことにかぎる。幸い今日一日のやり取りで、リクエストされていた作品の方向性は固まりつつはあった。しかし、問題はもう一つあって、それを長編にするか短編にするかで迷っていた。
事実、俺は長編の方が得意であり、短編を書こうとするとどうしても話が変な形で終わってしまうのだ。
かといって、今回書く作品を長編にすると思うとそこまで書こうとは思っておらず、やはり一話完結出来る短編が良いのではないかと俺は考えていた。
「とりあえずは、書いてみるしかねぇってことだよな」
俺はそう考えつつ、ワープロソフトを起動しそこに、考えていたあらすじを書いていく。
今回の題材は兄妹ラブコメ小説だ。普通に考えて血のつながった兄妹どうして、そういうことをするのは、俺には少し抵抗があるので、ここはやはり義妹にしておこう。それに、義妹であればモデルに咲姫を使えるし。
今まさに兄妹ラブコメを主題にしているライトノベルのようなことをしている、自分のことを棚に上げて俺は話の構成を練っていく。
問題はこれをどのようにして、短編小説の中に収めるかだ。短編を連続で投稿していき一つのストーリーを作っていく連作短編小説と言うのもあるにはあるのだが、どうせならスパって終わらせたい。
って、うだうだ考えていてもしょうがねぇか。だったら、俺の速筆を生かしてどんどん書いていくしかない。
俺は両手で頬をパチンと叩き、気合を入れ直すとキーボードを一心不乱に叩き続けていくのだった。
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咲姫は咲姫で、あの後梨衣からさすがにあれはやり過ぎだと、説教をたっぷりと受けた後、自室に籠り作品作りに勤しんでいた。昨日から成未と一緒に過ごしていたので、執筆業がまったく進んでいなかったのだ。咲姫としても成未と過ごしたい気持ちはある反面、ネット小説家としての活動が楽しくてしょうがなかったため、こうしてキーボードを叩いている。
絶対に成未を取り戻すんだ。咲姫の成未を。
咲姫は決して梨衣のことを毛嫌いしているわけではなかった。むしろ、成未の母親騒動の一件で、咲姫の中で梨衣の評価はかなり上がっていた。しかし、成未が絡めばその話はまた別だ。
成未が梨衣と付き合うと聞いた時は、心臓が止まるかと言うぐらいに驚いた。だって、成未には梨衣と付き合う素振りがまったくと言っていいほどに見られなかったからだ。だから、咲姫は油断していたのだ。成未が決して恋人を作るはずがないと。しかし、成未は梨衣と付き合ってしまった。それは咲姫としてはかなりの誤算だった。
小学六年の時から、成未のそばにずっといると咲姫は自分に誓っていた。
だからこそ、咲姫はネット小説という道を歩みだしたのだ。咲姫自身、成未が小説を書く姿を見て面白そうだと思ったことは事実だ。しかし、もう一つの理由は成未との話題を作りたい、成未と同じ時間をもっと共有したいという思いで作品を作って来たのだ。
だから、絶対に成未を取り戻すのだ。
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梨衣は久しぶりに、波瀬家で梨衣用に与えられた部屋にいた。
そこで梨衣もまたノートパソコンに向かっていた。
ここの所、成未と過ごすごとが楽しくて執筆作業を疎かにしていたため、そろそろ少しは進めておかないと、担当のお怒りを買ってしまうのだ。
しかし、梨衣がこうしてキーボードに向かっているのは、自分が安易に咲姫との取材での恋人ということを許してしまった後悔のためだった。
咲姫が成未のことを好いているのは、以前から梨衣は分かっていた。しかし、それはあくまでも兄妹同士に生まれる感情のソレだと思っていたのだが、どうやら梨衣の考えは甘くそれ以上の感情を抱いていたようだ。しかも、それも梨衣や成未の想像をはるかに上回る感情の大きさで。
成未くんは私のなんだから。
こうして、夜は更けていく。それぞれの悩みを抱えたまま。
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