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勇者をクビになりましたので、遠慮なく本懐を遂げさせて頂きます!  作者: えみお


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5:サリヤ…義父から運命を託される。

 義父ドワールが恐れる最悪のシナリオ・・・。

 それは魔王と勇者が共闘し、世界を転覆させるという・・・なんとも突飛なものであった。

 ・・・事情を知らない者達に、仮にこんな話をしたとて、きっと一笑に付されるだけだろう。

 魔王は滅び、勇者は聖剣没収の後に追放されてしまっているのだから・・・。

 だが、その前提が覆ってしまうことがあれば・・・


「た、大変じゃないですか!?」


 恐るべき事態を想像し動揺した娘サリヤの反応は、日頃から冷静さを欠くことの無い彼女の反応としては珍しいものだった。


「そうだ・・・大変なのだ」


「なら・・・お義父様。直ぐにでもこのことを陛下に進言申し上げ、直ぐさま軍を動かして貰わなければ・・・!」


「・・・落ち着けサリヤよ。そんなことが出来るはずが無いではないか。今の話も大半が私の推測によるもの。確たる証拠は何処にも無い。仮に今すぐ私が陛下の目前でこの話をしたとて、相手にされるわけが無い」


「そんな・・・証拠ならあるじゃ無いですか!『聖剣』が!」


 それが紛い物だということを王に伝えれば、義父の言葉も一考してもらえる・・・。

 そう思っての発言だったのだが、サリヤの案を聞いたドワールの顔が晴れることはない。


「サリヤよ・・・お前はまだ若い。故に分からぬのも無理は無い。しかし、断言しても良いが、陛下は例えどれだけ多くの証拠を並び立てたとて、絶対に『聖剣』が偽物であるなど認めることは無い!」


 そうハッキリ言い切るドワール。

 しかし、若い娘にその理屈を瞬時に理解するのは無理があるというもの・・・。

 サリヤは反発した。


「そ、そんなことありません!聡明な陛下のことです。懇切丁寧に説明すればきっと分かってもらえます!」


「・・・聡明かどうかはこの際、置いておくとしてだ。陛下がお認めにならない理由は、そんな能力云々の話では無い」


「・・・?では、一体何が理由で王がお認めにならないと思われるのです?」




「それはな・・・陛下の心の弱さだ」




「は?心の・・・弱さ?」


 いつもは理知的且つ合理的な父。

 そんな男の口から出た・・・謂わば精神論にサリヤの眼鏡がズリ落ちる。

 決してそんなタイミングではないのだが、「これは一種の冗談か?」と思った彼女は、鼻先に辛うじて引っかかっている眼鏡を元の位置に戻し、改めて義父の顔を窺う。

 しかし、自身の予想と反し、彼の表情から真剣さが失われた形跡は無かった。


「な、なんですか?心の弱さって?お義父様らしくない・・・」


「・・・そうだな。しかし事実なのだ、サリヤよ。それが陛下の・・・いや、私も含めた大多数の大人が持つ欠点なのだ」


「大人の・・・欠点・・・?」


「・・・子供は大人に間違いを指摘されればソレを直そうとするだろう。時にはお前みたいな頑固者もいようが・・・」


 ドワールの脳裏に思い浮かぶ幼きサリヤの姿。

 小難しい本を両腕に抱え、付け焼き刃な知識で父に反論する姿が、まるで昨日のことのように思い浮かぶと、彼の口角が少し上がった。

 それを元に戻すと話を続ける。


「大人の中にも、そういう善良な者はいる。そう言う者達は欠点を指摘されたとき、きっと内心は腹を立てていようが、決して表には出さない。改善すべく努力する」


「・・・・・・・・・」


「だが・・・子どもの頃に出来たはずのソレが出来ない大人は多い・・・余りにもな・・・」


「・・・陛下が・・・そうだと?」


「陛下より心の弱い人間はおらんよ」


「な、何故?」


「陛下は今は勿論、幼少時すら蝶よ花よと育てられ、何不自由なく過ごされてきたお方だ。怒られることが無いのは勿論・・・陛下と他者がなにがしかで衝突すれば、否応無く相手が引く・・・そんな世界を生きてこられた方なのだ。そんな人間に『自らの過ちを認める』などということが可能だと?無理だ・・・絶対に不可能だ」


「・・・・・・・・・」


 納得しかねる表情のサリヤにドワールは微笑みかける。


「良いのだ・・・理解できなくて当然。お前は若い。多少頭でっかちではあるが・・・」


「あ、頭でっかちとは何です!?元はといえば、私がこんなになったのも、我が家には暇を潰すものが本くらいしか無く、お義父様も構ってくれなかったからではありませんか?」


「そうだな・・・そのとおりだ」


「なのに頭でっかちって・・・年頃の娘に言う言葉じゃ無いですよ」


「そうだな・・・すまん」


「・・・こんなお義父様だって謝れるのに、陛下にはそれが出来ないとおっしゃるんですね?」


「・・・そこを突かれると痛いところだが、陛下には出来んよ。王は特別なのだ・・・良くも悪くもな。しかも、この過ちを認めるということは、自身だけでなく先祖代々の顔に泥を塗る行為にも等しい。それが王家にとって・・・治世にとって良くないということくらいは分かっておられる筈・・・。そういう理由からも陛下が『聖剣』をまがい物だと認めることは無い」


「・・・その理由なら、まだ納得できます。で、話を戻しますが、元勇者に帯同するとして、一体私は何をすれば・・・」


「具体的な指示はあえて出さん・・・。状況に応じ自らが最善と思う行動を採ってくれ」


「それは・・・ある意味一番難しいことを・・・」


「言いたいことは分かる。しかし、元勇者が善なる者か否か分からぬ、とりあえずはそこの所をお前の目で見極めて欲しい。その後の判断は委ねる」


「分かりました・・・」


 この国の・・・下手したら世界の運命をその肩に背負うことになった少女サリヤ。

 その後、義父からそれなりの金銭を渡された後、結界を解いた部屋から出て行く間際・・・ 娘は閉じる寸前の扉の向こう側に立つドワールの姿を目に焼き付けた。

 国が滅びれば・・・その後会えるかどうかは分からない。

 今日・・・この日が、今生の別れにならないことを祈るばかりであった・・・。



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