17:サリヤ…ユイの正体を知る。
目の前にいるのは魔王の娘・・・。
ジンは自身がそう発言した時、実は目前のサリヤに対し多大な警戒を行っていた。
理由は言わずもがな・・・彼女がユイを殺そうと行動する可能性を危惧したからである。
また、それはジンの隣で朗らかな顔をしているエンゾーも同じ。
彼もまた・・・密かに『影』の発動準備を整え、何時でも出せる手はずを整えていたのだ。
2人ともサリヤには大変申し訳ないと思いつつ、最悪多少の手傷を負わせる覚悟はしていた。
しかし・・・そんな彼等の予想は良い意味で裏切られることになったのだった!
「はぁ・・・そんなことじゃないかと思ったわよ」
「・・・あれ?思ってた反応と違うな?」
「そうじゃのう。もしかして理解が追いついとらんのかもしれん」
「いや・・・ちゃんと聞こえましたよ。ユイちゃんは魔王の子だということは・・・」
なるほど・・・誤認しているわけではなさそうである。
にも係わらず、サリヤには驚いたり動揺を露わにしたりする素振りは勿論・・・戦闘態勢に入る様子も皆無ときた。
故に、彼女の斜め上の反応に、逆に男2人の方が戸惑ってしまう。
「サリヤ・・・正直俺はコレをお前に伝えたら、お前がユイに飛びかかってくるかもしれんと、そこまで思ってたんだが・・・何でお前、やたら冷静なんだ?」
「何でも何も・・・魔王の城に連れて行かれたかと思ったら、玉座とおぼしき場所にあの娘が座ってたのよ?魔王の後継者とか、その類いの何かだって予想するのは当然じゃない?」
「ま、まあ、それはそうかもしれん。けど、俺達はさ・・・「な・・・何ですって!?」とか「ど、どうして魔王の娘がこんな所にいるのよ!?」とかっていう、お約束の展開を想像してたんだよ。だから何て言うか拍子抜けというか・・・期待外れというか・・・」
「き・・・期待外れって、え?私、別に悪いことしてないわよね?むしろ、アンタ達が世界に対してとんでもない情報を秘匿していたにも係わらず、糾弾するわけでもなく、腰を据えて話を聞いてあげようとしてるのよ!そこんところ、少しは感謝すべきところなんじゃないの?」
「ぐっ・・・そう言われると、言い返す言葉が無え・・・」
何故かジンを論破した感じになり、得意げに胸を張ってみせるサリヤであった。
そんな彼女に対し、今度はエンゾーが問う。
「じゃがサリヤ嬢よ・・・。『魔王の娘なる存在がいて、それを勇者が隠蔽していた』という事実は、ワシらが国家転覆を企てている可能性があるということにならんかの?」
エンゾーは「自分達を疑わなくても良いのか?」と問うているのだ。
「そうですね・・・ジンやエンゾーさんと過ごしたこの1週間が無ければ、もしかしたら私はお二人が危惧していたことを実行していたかもしれません」
「・・・ということは、サリヤ嬢はワシらを信用してくれると?」
「うーん、正直、完全に信用しているとは・・・。そもそもお二人とも隠してること多々有りますよね。特にジンなんかは事あるごとに、意味深な能力を使うじゃないですか?何です、『加護』って?私、色々な文献に目を通してますけど、そんな能力聞いたこと無いですよ・・・」
「なら尚のこと、ワシらを疑わんといかんじゃろ?未知の能力を用い、あまつさえ魔王の娘と行動を共にしておるんじゃぞ?」
「そうですね・・・きっと本来ならそうするべきなんでしょう。でも・・・」
「・・・?」
「信用できるかどうかは別として、お二人が理由も無く、無辜の民を傷つけるような人じゃ無いことくらいは分かります。だから、それでいいかなって」
「・・・なんというかサリヤ嬢は、おおよそ財務省勤めだったとは思えんほど、直感で物事を決めるんじゃのぉ・・・」
「いや・・・確かに財務を司る者として、確たるデータや根拠を用いた論理的な考察は大切だと思いますよ。ですけど・・・そんな仕事に就いていたとしても一番頼りにするのは直感です」
「ほうほう・・・」
「・・・こんな仕事に就いていれば、税の支払いを免れようと裏で試行錯誤している貴族や大店の商人と顔付き合わすことが偶にあるんです。で、確たる証拠がまだ無くて取り敢えず本人に対する聞き込みからしようと、取り敢えず呼び出したりすることがあるんですけど・・・クロのヤツは、もうデータとかなくても、本人をひと目見ただけで分かりますもん。「ああ、コイツはやってるな」って・・・」
「・・・つまり、サリヤ嬢はワシらを見て、「コイツらはそんなことしない!」と思ったと?」
「というより、今までのお二人の言動などを見てきて思ったんです。そんな下らないことに割く時間があるなら、自らの夢を追う・・・あなた達はそういう人達だって」
「・・・なるほどのぅ」
「国に報告も勿論大切なんでしょうけど、それはジンの夢とやらの正体が知れてからでも遅くはないでしょう。あ、安心して下さい。もしその時が来たら、国には「元勇者に反逆の意思は皆無!」だと伝えておきますので!」
「・・・サリヤ嬢は存外大物なのかもしれんのぉ」
「・・・?そうですか?」
「そうじゃ。のう・・・ジンよ。そうは思わんか?」
「いや、大物って言うか・・・只のアホなんじゃねえの?」
「アンタ・・・『誠意』って言葉知ってる?」
「あ?それも王都で流行ってるのか?」
「違うわよ!」
ジンとエンゾーの心配は無事杞憂に終わり、サリヤはユイという存在を受け入れてくれた。 しかし、肝心の『母親代わりになる』という目的が果たされるには、まだ時間が掛かりそうである。
事実、こうして3人が話している間中、ユイの関心がこちらに向くことは一切無く・・・
「・・・・・・・・・」
その視線は終始、扉の向こうに向けられていたのであった・・・。
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