13:3人組…魔王城に到達す。
ここの主人は、もういない・・・。
それが分かっていたとて、サリヤが眼前にそびえ立つ漆黒の城・・・『魔王城』に足を踏み入れるのには、かなりの勇気を必要とした。
元勇者ジンから目的地を告げられ5日ほど・・・野営を繰り返しつつ歩きに歩いて辿り着いたその場所には、今はもう・・・戦いの痕跡など見られない。
格の低い大抵の魔物は、絶命と同時に砂状になり、あっという間に風にさらわれる。
勇者が魔王を討伐した頃から1月ほど経過していることを考えれば、そんなものが外に残っているはずは無かった。
「でも・・・それでも・・・緊張するわね」
「何だ?お前来たこと無かったのか?」
「私は学生よ!来れるわけ無いでしょ!って言うか、今日までの会話の流れで分かってくれてると思ってたけど・・・」」
「そういやそうだな・・・。甘ちゃんの学生をこんな所に行くこと許したら、それこそ何個命があっても足りねえし」
「アンタ・・・私に頼み事してる分際だって事・・・忘れたわけじゃ無いでしょうね?」
「別にぃ。でも俺があれだけ誠意を見せても意味なかったじゃねえか?それって裏を返せば、お前が頼みを引き受けてくれるかどうかに、俺の態度って関係無いってことじゃん?だからもう良いかなって!」
「アンタの、その開き直った態度は本当に腹が立つわね・・・」
そんな軽口を叩きながら城門を潜り、いよいよ入場する・・・その直前。
「おい・・・サリヤ。こっから先・・・キツかったら目を伏せるなりしてろ」
珍しくジンの方からサリヤに対し、心配が故の忠告が入った。
「え・・・何でよ?」
「うーん。一応聞いておくけど、お前・・・ぶっちゃけ魔物、倒したことある?」
「それは・・・無いけど」
「なら・・・多分、ここから先の光景は、きっとキツいものになる」
「・・・?どういうこと・・・ってまさか、まだ魔物がいる可能性があるの!?」
サリヤの腕は、咄嗟に腰に佩いた杖に向かう。
だが、そんな心配は杞憂だと言わんばかりに、ジンは手を振って否定した。
「いや・・・キツいって言うのはそういうことじゃない。言ったろ・・・この先の『光景』がキツいって」
「え・・・」
「えーっと・・・お前はきっと知識だけはあるんだろうから聞くけどさ・・・低位の魔物は倒すと砂状になるよな。だけど・・・ある程度高位の、即ち強い魔物はどうなるか知ってるか?」
そう問われたサリヤは、自らの記憶を探り答えを見つける。
「そりゃ・・・生き物と同じじゃ無いの?」
「そうだ・・・つまり、死体は死体として、そこに残り続ける。誰かが片付けようとしない限りな?そして、この魔王城・・・その内部に入ったのは、敵方・・・即ち人間では俺一人。そして俺は掃除した覚えは無い・・・この意味分かるか?」
「・・・・・・・・・え」
サリヤの脳内に浮かんだ城内の光景・・・。
それは筆舌に尽くしがたいものだった。
紅い血痕がそこかしこを染め上げ、その中に沈む魔物達の亡骸は、きっと腐敗が進んでいるに違いない。
サリヤはここに来るまでに見た城全体の外観を想起し、換気するための窓等がそこまで多くなかったことを思い出して・・・恐怖した。
「なら・・・今、この中は・・・」
「うーん。多分、普通の人間が入ったら、病気になるんじゃないか?心身あらゆる意味で・・・」
そう聞かされて、曲がりなりにも普通の人間であるサリヤは、いよいよ入る気が失せた。
颯爽と爪先を返し、元来た道へ戻ろうとする彼女だったが、それを見過ごす元勇者では無い!
「はっ・・・離してよっ!?幾ら頼まれたからって、私こんな理由で病気になりたくないわよ!」
サリヤ・・・半泣きである。
「落ち着け。大丈夫だ。お前にはちゃんと『加護』やっから。流石に俺もそこまで鬼じゃねえよ」
「え・・・何、『加護』って?」
聞き馴染みの無い言葉に問い返すサリヤ。
そこで、あからさまに「あっ・・・余計なこと言った」といわんばかりの表情をしたジンは、露骨に話をはぐらかそうと試みる。
「ああ・・・っと、まあ・・・それは追々説明する。ともかく、お前を病気にはさせたりしねえよ。その点は安心しろ。だけど、それは『病』の類いからお前を守ってやれるってだけで、お前の『精神』を保護してやれるって訳じゃ無い。この中に入って、お前の目に映るモノ・・・嗅ぐ匂い・・・それにお前は耐えられないかもしれない。目を伏せてろってのはそういうことだ」
サリヤは、ジンが明らかに話を逸らしたことは勿論分かりつつ、とりあえず今は突っ込まないでやることにした。
「もし、どうしても耐えられなくなったら、俺の手でも服でも・・・何ならエン爺でも良いから掴んで、目瞑ってろ。足だけ動かしてくれれば連れてける」
「っ!そうよ!そもそもこんな所に誰がいるって言うのよ!?もしかして私を欺してるの!?新手の嫌がらせ!?」
「自意識過剰すぎだっての・・・。ちゃんといるよ。」
「・・・もしいなかったら、化けて出るからね!」
「・・・別に命の危険は無えよ。で、どうする?手ぇ繋ぐ?」
ジンから差し出された手。
サリヤは少し迷った後、とりあえず『行き』は頼ろうかと、その手を取る。
「・・・悪戯だったら許さないから。本当に化けて出るからっ!!!」
「・・・何で、欺されると死ぬこと前提なんだか・・・。まあ良い、じゃあ行くぞ!」
そう言うと・・・ジンは城の玄関である大扉に何故か手をかざす。
「なっ・・・何をして・・・」
るの?と言おうとした直前・・・目前の扉に異変が生じる。
ガガガガガガガガッ・・・!
「・・・!!!」
平然とする元勇者や鍛冶士エンゾーとは打って変わって、大層驚いた少女サリヤ・・・その3人の目の前で、扉は誰からの力も受けず、独りでに開いていくl
「よし・・・行くぞ!」
元勇者に手を引かれながら、下を向きつつ歩を進め始めた少女サリヤ。
しかし、曲がりなりにも手を繋ぎあう・・・時と場所さえ考えなければ、それこそ男女の逢瀬の様なワンシーンであるにも係わらず、少女の頭の中は、たった今生まれた疑問で一杯になっていた。
(「元勇者・・・あなた、一体何者なの?」)
ここまで読んでいただきありがとうございます!
これからも、鋭意作成し続けたいと思いますので、応援の程、宜しくお願いいたします!




