11:翁…少女の説得を試みる。
「フゲッ!?」
ジン=グラム・・・つい先日まで勇者と呼ばれ、もてはやされた彼の姿はもう無い。
元勇者は今、そろそろ天国からお迎えが来てもおかしくない・・・そんな好々爺の椅子と成り果てていたのであった。
彼の尻に敷かれ、思わず呻き声を上げるジン。
しかし、腰を下ろした当人に、椅子を気遣う様子は一切見られない。
彼・・・エンゾーは何食わぬ顔をして前方の少女。サリヤと話し始めるのだった。
「サリヤ嬢・・・まずはすまんかったのお。この馬鹿が変なことを言ったから、さぞかし不安になったじゃろうて」
エンゾーはそう言うと、まず頭を下げた。
「い、いえ・・・あの・・・下の方は大丈夫ですか?」
「なあに・・・このくらいで死ぬほど柔な身体はしとらんよ。曲がりなりにも勇者やっとんたんじゃからのお。何ならサリヤ嬢も座ってみるかの?ほれ!丁度背中にもう1人分スペースが・・・」
「フゴーッ!!フゴッ!フゴオ・・・」
「あの・・・下の方、口を塞がれたのか、まともに言葉も発せられなさそうですが、本当に大丈夫なんですか?」
「サリヤ嬢・・・人間にはのぅ、呼吸するための穴が3つ付いとるんじゃ。鼻に2つ、口に1つとな。その内どれか1つでも機能しとれば人は死なんよ」
「そう・・・ですか・・・」
「・・・・・・・・・フグゥ・・・」
「・・・あの・・・本当に大丈夫ですか?私には酸欠寸前に見えるのですが?3穴全てが奇跡的に塞がれてしまっているように見えるんですが?」
「なあに・・・コイツが戦った魔のモノ達の中には、自身の周囲に常に致死性のガスを纏っているものがいたと聞いた。ソイツを倒すために無呼吸での戦闘を強いられ、結果10分以上は無呼吸で戦える身体になったそうじゃ。そんなヤツがこの程度で死ぬわけなかろうて?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あの・・・ついには何も言わなくなっちゃいましたけど大丈夫ですか?もしかして・・・この旅・・・ここで終了とかになっちゃいませんか?」
「大丈夫じゃ・・・大丈夫じゃ・・・大丈夫じゃ?」
「疑問形になった!?」
「まあ、ソレはともかくサリヤ嬢」
「は・・・はい」
「コイツの頼み方は全くなっておらんかった。だから、改めてワシからも頼みたい。コレから引き合わせることになる1人の少女・・・その子のことをどうか気遣ってやってもらえんか?」
ジン(椅子)に続き、エンゾーから改めてお願いされるサリヤ。
そんな彼女は、その頼みに回答する前に、今の発言で引っかかった点に付いて問う。
「え・・・?少女?女の子なんですか・・・これから会うのは?」
「そうじゃ」
「意外です・・・。エンゾーさんはともかく、そこの椅子が・・・それこそ足手まといになる人間をこの旅に同行させるなんて・・・」
「まあ・・・事情が事情じゃからのう。ジンとしても苦渋の決断じゃったろうが、そこは曲がりなりにも元勇者として、最低限の矜持があったのじゃろう」
「矜持?エンゾーさん。一体どんな女の子なんですか?」
自らが受け持ちをお願いされている子供のことだ。
依頼を引き受けるか否かを決めるために、その子が持つ事情を聞いておきたい・・・そうサリヤが思うのは当然である。
しかし、エンゾーは彼女の問いに対し・・・首を横に振った後、こう答えた。
「それは、サリヤ嬢自身が直接会った上で判断して欲しい。ここでワシらが与えた情報で変に先入観を持って欲しくないのじゃ」
「・・・言いたいことは分かりますけど、その言い方はもう、何かとんでもない秘密だとか事情があるって言っているようなモノでは?しかもそれは話せない・・・けど、面倒は見て欲しいって・・・無茶苦茶です」
「・・・そうじゃの。全くもって返す言葉も無い」
そう言ったきり、黙りこむエンゾー。
サリヤは何となく気になったことを聞いてみた。
「あの・・・私にそんなことを頼むのは何でですか?ただ面倒臭いからですか?正直仕方なく子供の面倒を見ることになった・・・けど、いざやってみると大変だった。だから偶然同行することになった私に、その雑事を一切合切押しつけてしまおう・・・そういうことですか?」
「ふむ・・・仮にもしそうだとしたら、サリヤ嬢はどう思うかの?」
好々爺からのその問いに、サリヤはハッキリこう告げる。
「軽蔑します・・・そして、何より残念です」
「ほう・・・軽蔑は分かるが、残念とは一体どういうことかの?」
「そこの椅子・・・改めジンがやったこと・・・それは数多くの国民を・・・ひいては世界を救いました。今日・・・初めて会って話してみて、自身が抱いていた勇者像・・・みたいなモノは木っ端微塵に砕け散りましたし、正直がっかりしました」
「ホホウ・・・ちなみにコイツのこと、以前まではどんな風に思っておったのじゃ?」
「それはそのう・・・世間一般の方が思っているようなことを、私も思っていましたよ?」
サリヤはどこかモジモジとしながら、歯切れ悪くそう答える。
「ホホウ・・・世間一般の方が思っているようなこと・・・とは「強くて寡黙で容姿端麗な剣士」
だとか「今・・・結婚したい男性ランキング第1位!」だとか、そんな感じのことかの?」
「なっ・・・!私はそこまで思っていません!そこまでとは言わずとも、普通に良い人なのだろうな・・・くらいには思っていました。あくまでその程度です!」
サリヤ、必死の否定。
しばしニマニマしたエンゾーは、若い娘をいじるのもそこそこにして、話を進める。
「ということは、今はそう思ってないと、そういうことかの?」
「はいっ!そうですっ!だって、全然前評判と違いますもん!強いかどうかは別として・・・寡黙じゃ無いし、容姿だってよく見れば、良いとこ中の上ですもん!」
曲がりなりにも本人の目の前で、言いたい放題のサリヤである。
「ホッホッ!それで?」
「それで・・・ええと何の話だったっけ?ああ、ともかくコイツの功績は認めていますし、少なからず感謝もしてるんです。救ってもらった1人の人間としてね。でも・・・もしその勇者が、自分が一旦世話すると・・・面倒見ると決めた子供をほったらかして、自身の夢を追うような人間なんだとしたら私は彼を軽蔑する・・・言いたいのはそういうことです」
「なるほどのう・・・」
エンゾーは何度も頷きながら、サリヤの言葉を咀嚼する。
そして、しばしの間の後に、こう話し始めたのだった。
「サリヤ嬢・・・ワシらがお主に頼みたいと思ったのは、お主なら、きっとあの子の『母親』代わりになってくれるんじゃないかと期待したからなんじゃよ」
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