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舞風学園演劇部3 舞台の継承  作者: 舞風堂
第二章 それぞれの表現
9/10

第九幕 演技研究チームと市民劇団

 ひのり、七海、まひる、美春の人形劇チームは美春の自宅の桐沢玩具店で人形製作に。

 紗里、りんか、アリス、風花は市民スポーツセンターでスポーツに打ち込み。


 そして唯香、みこ、音羽、綾音の演技研究チームはこの日、小規模な市民劇団の短編演劇を鑑賞し、体験会に参加する所だった。


 公民館の小さなホール。

 劇団員達が体験参加者向けのミニ公演を行なっていた。

 劇の内容は探偵が展示会で盗難事件の犯人を探すというシンプルなものであり、その場にいた人それぞれが食い違った証言で誰が犯人か読めない展開だった。


「ダイヤを盗んだ犯人はこの中にいる。私の推理に基づくと」


 探偵役の若い女性が静かに言った。


 ホールの空気が張り詰める。


 展示会場を再現した舞台。


 容疑者は三人。


 展示会の主催者。

 警備員。

 そして宝石鑑定士。


 全員に動機があり、全員にアリバイがあった。


 探偵はゆっくりと三人を見回した。


「まず警備員さん」


 指摘された男性が顔を上げる。


「あなたは事件当時、巡回中だったと言いましたね」


「ええ」


「ですが、別の証言では十分ほど姿が見えなかった」


 会場の空気が少し揺れる。


「それは……」


「ですが」


 探偵は続ける。


「あなたは犯人ではありません」


 観客席の何人かが息を呑む。


 探偵は次に主催者へ視線を向けた。


「あなたにも動機はある」


「展示会の経営は苦しく、多額の保険金も入る」


 主催者役の中年男性が苦笑した。


「疑われても仕方ありませんね」


「ですがあなたも違う」


 探偵は首を横に振った。


「犯人は」


 最後に残った宝石鑑定士へ向き直る。


「あなたです」


 場内が静まり返る。


「馬鹿な」


 鑑定士は首を振る。


「私はずっと会場にいた」


「ええ」


 探偵は頷く。


「だからこそ気づかなかった」


 そして展示ケースを指差した。


「ダイヤは盗まれていないんです」


 一瞬の沈黙に観客席の綾音も思わず目を見開いた。


「え……?」


 探偵は続ける。


「盗まれたように見せかけて、本物と偽物を入れ替えた」


「そして本物は、最初からあなたのポケットの中にある」


 鑑定士役の男が観念したように笑った。


「……参ったな」


 その瞬間。


 会場から小さなどよめきが起きる。


 派手なアクションもなく、特別な演出もない。

 それなのに綾音達は気づけば舞台に引き込まれていた。


 舞台の照明が落ちると小さなホールに拍手が響いた。

 四人は拍手しながら、まだ少し舞台を見ていた。


「……すごかったです」


 音羽が頷く。


「声だけで空気が変わってた」


 みこも静かに言う。


「見せ方が上手かった」


 唯香は微笑む。


「派手じゃないのに、ちゃんと引き込まれたわね」


 綾音は小さく息を吐く。


「……演技って、奥深いんですね」


 その言葉に、唯香が頷いた。


「ええ。だから面白いのよ」


 すると、舞台袖から劇団員たちが姿を見せた。


「ご観劇ありがとうございました」


 探偵役だった若い女性が笑顔で頭を下げる。

 さっきまでの鋭い探偵とはまるで別人だった。


「私は高橋真理です」


「今日は探偵役をやっていました」


 綾音は思わず言った。


「同じ人に見えませんでした」


 真理は少し照れたように笑う。


「それ、役者としては褒め言葉かな」


 続いて、中年の男性が前に出る。


「劇団代表の旗上隆一です」


 穏やかな笑顔。


「さっきは展示会の主催者をやっていました」


「よろしくお願いします」


 その隣で、宝石鑑定士役だった若い男性が軽く手を挙げた。


「黒川直人です。普段はシステムエンジニアをやってます」


 みこが少し驚く。


「会社員なんですね」


「昼は会社員、夜は役者」


 黒川は肩をすくめた。


「そんな感じかな」


 警備員役だった年配の男性も前へ出る。


「森田修司です。元教師です」


 穏やかな口調だった。


「定年後に演劇を始めましてね」


 音羽が少し目を丸くする。


「定年後から……」


「人生、始めるのに遅いってことはないですよ」


 森田は笑った。

 そして最後に、一人の若い女性がぺこりと頭を下げた。


「岡崎結衣です!」


 明るい声だった。


「大学二年生です」


「今日は受付と、途中の案内係をやってました」


 綾音は思い出す。


 開演前に案内してくれた女性だった。


「よろしくお願いします!」


 人懐っこい笑顔に、その場の空気が少し和らぐと旗上が手を叩いた。


「それじゃあ、せっかく来てもらったし、ここからは実際にやってみましょうか」


 綾音たち四人は顔を見合わせる。

 いよいよ体験会が始まるらしい。


「最初は簡単なワークショップからです」


 高橋真理が笑顔で言った。


「その前に、お互い自己紹介をしましょう」


 劇団員たちが椅子を円形に並べる。

 綾音たちもその輪に加わった。


 旗上が頷く。


「じゃあ、そちらからお願いできますか?」


 唯香が立ち上がった。


「宝唯香です。元子役で舞風学園の三年です」


 落ち着いた口調で一礼する。


「今日はよろしくお願いします」


 続いて綾音が少し緊張しながら立つ。


「波島綾音です」


「舞風学園の一年です」


「演劇はまだ始めたばかりなんですけど……」


 少しだけ笑う。


「いろんな役を演じられるようになりたいです」


 音羽が続く。


「白石音羽です」


「舞風学園の二年です」


「声で表現することが好きです」


「今日は色々勉強させてください」


 最後にみこが立ち上がる。


「城名みこです」


「舞風学園の三年です」


 一瞬考えてから言う。


「演じることも好きですが、舞台全体を見るのも好きです」


「よろしくお願いします」



「はい、じゃあ次は発声やってみましょう」


 高橋真理の声に合わせて、一同が輪になる。


「せーの」


「あー」


 ホールに声が響く。

 その後、軽い柔軟。

 床に座って前屈しながら、結衣が唯香の方を見た。


「あの」


「はい?」


「宝さんって、もしかして宝秋哉監督と元トップスターの赤山真知子の娘さんでしたよね?」


 唯香の動きが少しだけ止まる。


「……知ってるんですか」


「そりゃ有名ですし!」


 結衣が慌てて言う。


「私、映画好きなんです!」


 その声に、旗上も苦笑した。


「私も名前は知ってるよ」


「昔から映画を見てる人間ならね」


 黒川も頷く。


「親子で芸能関係だとは聞いてたけど」


「まさか本人が来るとは思わなかったな」


 唯香は少し困ったように笑う。


「私はそんな大した人間じゃないですよ」


「いやいや」


 森田が穏やかに言う。


「それでも立派な経験だ。ここにはいないタイプの人だからね」


 綾音は少しだけ意外そうだった。

 普段の唯香からは想像しにくい。

 けれど、映画監督の父に女優の母。

 そして元子役。


 演劇部の中で一番特殊な経歴かもしれない。


「でも」


 結衣が笑う。


「今は普通に先輩って感じですよね」


「それは褒めてるのかしら」


 唯香が少し笑うと周囲もつられて笑った。



発声と柔軟が一段落した頃。


 旗上が手を叩いた。


「じゃあ最後は少し芝居をやってみようか」


 綾音たちの表情が少し引き締まる。


 旗上は唯香を見る。


「宝さんは経験者だったね」


「はい」


「どんな芝居が多かった?」


「ドラマ系が多かったです」


 旗上は頷いた。


「なら今回はドラマにしよう」


「お題は十年ぶりの再会。会いたかった相手かもしれないし、会いたくなかった相手かもしれない」


 唯香が小さく頷く。


「感情が出しやすそうですね」


「そういうこと」


 旗上は四人を見渡した。


「正解はない」


「どう感じるかを大事にしてみて」


「じゃあ最初は宝さんと城名さんで」


 旗上の言葉に、唯香とみこが前へ出る。

 唯香が静かに口を開く。


「……久しぶり」


 自然な演技だった。

 相手を見つめる目にも感情がある。


 しかし。


「なんで今さら来たの」


 みこの声が響く。

 いつもの穏やかな雰囲気はない。


「私はずっと待ってたのに」


 怒りと寂しさが混ざった声。

 綾音は思わず目を丸くした。

 みこが感情をぶつける演技をしている。


「……ごめん」


 唯香が返す。


「謝ってほしかったんじゃない。会いたかっただけ」


 静寂。


「はい、そこまで」


 旗上が手を叩いた。


「宝さんは安定感があるね」


 そして、みこを見る。


「城名さんは感情の出し方が良かった」


 綾音は思わず呟く。


「みこ先輩、すごい……」


 みこは少し照れくさそうに笑った。


「次は白石さんと波島さん」


 旗上に呼ばれ、音羽と綾音が前へ出る。


 同じく「十年ぶりの再会」。


 先に口を開いたのは音羽だった。


「……久しぶり」


 大きな声ではない。


 けれど、その一言だけで空気が変わる。


 綾音は思わず圧倒される。


 いつもの音羽の声なのに、どこか違う。


 懐かしさと戸惑いが混ざっていた。


「元気……だった?」


 続く言葉も自然だった。


 旗上が小さく頷く。


 一方の綾音。


「ひ、久しぶり……」


 少し硬い。


 言葉を意識しすぎているのが分かる。


「その後、どうしてたの?」


 台詞は間違っていない。


 けれど少しぎこちない。


 綾音自身もそれを感じていた。


 音羽が優しく返す。


「色々あったよ」


 その言葉を受けて、綾音は少しだけ表情を緩めた。


「……そっか」


 今度は自然だった。


「はい、そこまで」


 旗上が手を叩く。


「白石さんは声が強いね」


 音羽が首を傾げる。


「声?」


「感情が声に乗ってる」


 旗上は頷いた。


「それだけで相手に伝わる」


 そして綾音を見る。


「波島さんは少し緊張してたかな」


 綾音は苦笑した。


「バレましたか」


「でも後半は良かった。考えるより、相手を見る方が向いてるかもしれないね」


 綾音は少しだけ驚いた顔をした。


「はい、そこまで」


 旗上が手を叩く。


 綾音と音羽が戻る。


「二人とも良かったですよ」


 最初に声をかけたのは高橋真理だった。


「特に白石さん」


「感情を声に乗せるのが上手いですね」


 音羽が少し驚く。


「そうですか?」


「ええ。無理に作ってないのが良かったです」


 続いて黒川が腕を組む。


「波島さんは逆に考えすぎかな」


 綾音が苦笑する。


「やっぱりですか」


「でも悪いことじゃないよ」


 黒川は笑った。


「真面目な人ほど最初はそうなる」


 森田も頷く。


「私も始めた頃は台詞を間違えないことばかり考えていたからね」


 綾音は少し安心した。


 すると結衣が前に出る。


「でも後半、自然になりましたよ!」


「え?」


「『そっか』って言ったところ」


「あそこ、普通に会話してる感じでした」


 綾音は少し照れる。


「ありがとうございます」


 旗上が最後にまとめる。


「白石さんは声が武器」


「波島さんは相手を見る力がある」

「どっちも伸ばせるよ」


旗上が手を叩く。


「じゃあ次は少し方向を変えてみよう」


 一同が顔を上げる。


「今度はキャラクターを演じる」


 一拍。


「波島さんと城名さん」


 綾音とみこが前へ出た。


「お題は、お嬢様と執事」


 綾音が目を丸くする。


「お嬢様ですか?」


「そう」


 旗上が笑う。


「自由にやってみて」


 みこは静かに頷く。


「執事ですね」


「お願いします、お嬢様」


 みこの自然な返しに、綾音が少し慌てる。


「え、えっと……」


 周囲から小さな笑いが漏れる。


 綾音は一度深呼吸した。


 そして姿勢を正す。


「おはようございます」


 少しだけ上品な口調。


 ぎこちない。


 けれど、さっきより楽しそうだった。


 みこもすぐに応じる。


「おはようございます、お嬢様」


「本日のご予定はいかがなさいますか」


 綾音は考える。


 そして少しだけ笑った。


「まずは……紅茶をお願いします」


「かしこまりました」


 みこが一礼する。


 そのやり取りに、劇団員たちも思わず笑みを浮かべた。


 綾音も段々と役に入っていく。


「今日は庭を散歩したい気分です」


「では準備いたします」


 さっきまでの緊張した綾音はいなかった。


 旗上は腕を組みながら頷く。


 そして芝居が終わる。


「はい、そこまで」


 結衣が真っ先に言った。


「波島さん、さっきより楽しそうでした!」


 綾音は少し照れながら笑う。


「自分じゃない役の方がやりやすかったです」


 旗上も頷く。


「それは大きな発見だね」


「波島さんは、自分を演じるより、別人になる方が向いているかもしれない」


 綾音は少し驚きながらも、どこか嬉しそうだった。


 旗上が少し考えてから言った。


「じゃあ次は宝さんと波島さん」


 二人が前へ出る。


「お題は不良ドラマ」


 綾音が思わず笑う。


「不良ですか?」


「演技だからね」


 旗上も笑った。


「宝さんが女番長」


「波島さんが反発する後輩」


 唯香が少しだけ肩をすくめる。


「やったことはないわね」


「私もです」


 綾音も苦笑した。


「だからやる価値がある」


 旗上が言う。


「はい、スタート」


 唯香がゆっくり前に出る。


 さっきまでの穏やかな表情はない。


「おい」


 低い声。


「最近好き勝手やってるらしいじゃねえか」


 綾音が思わず目を瞬く。


 怖い。


 いつもの唯香ではなかった。


「……だから何ですか」


 綾音も応じる。


「先輩には関係ないでしょ」


「関係あるんだよ」


 唯香が一歩近づく。


「この学校のことだからな」


 綾音も負けじと前へ出る。


「勝手に仕切らないでくださいよ!」


 少し声が大きくなる。


「私は私です!」


 唯香が鼻で笑う。


「威勢だけはいいな」


「何ですかそれ!」


 綾音も段々と役に入り始める。


「先輩に言われたくありません!」


 ホールの空気が少し熱を帯びる。


 唯香も応戦する。


「じゃあ見せてみろよ」


「口だけじゃねえってところをな」


 綾音は睨み返した。


「言われなくてもやります!」


 一瞬の沈黙。


「はい、そこまで」


 旗上が手を叩く。


 唯香はすぐにいつもの表情へ戻る。


 綾音はまだ少し興奮した顔をしていた。


「面白いね」


 旗上が笑う。


「波島さん、さっきよりずっと声が出てた」


 結衣も頷く。


「後輩不良、似合ってました!」


「似合ってたのかな……」


 綾音は複雑そうだった。

 その横で唯香が小さく笑う。


「でも、ちゃんと反発してきてたわよ」


 綾音は少し照れながら笑った。

 一通りの体験が終わる頃には、表情も最初よりずっと柔らかくなっていた。


「いやあ、良かったですよ」


 高橋真理が笑う。


「最初は緊張してたのに、どんどん良くなっていった」


 黒川も頷く。


「吸収が早いね」


「後半はちゃんと相手を見て芝居してた」


 森田も穏やかに笑う。


「演技を楽しめる人は伸びるよ」


 結衣も元気よく言った。


「お嬢様の役も、不良の後輩も似合ってました!」


 綾音は照れたように頭をかく。


「ありがとうございます……」


 唯香も微笑んだ。


「最初よりずっと良かったわ」


「自分で思ってるより、できてる」


 その言葉に綾音は少し嬉しそうな顔をする。

 すると。


「あの」


 綾音がおずおずと手を挙げた。


 全員の視線が集まる。


「もう一つだけ」


「やってみたい芝居があります」


 旗上が面白そうに笑った。


「ほう」


「自分から言うのはいいね」


「どんな芝居?」


 綾音は少し考えてから答える。


「好きなアニメのキャラクターの演説シーンです」


 結衣が目を輝かせる。


「おお!」


 旗上も頷いた。


「じゃあやってみようか」


 綾音は一歩前へ出る。


 さっきまでの綾音ではない。


 背筋を伸ばす。


 視線を上げる。


 そして。


 ゆっくりと口を開いた。


「聞いてください!」


 突然の大声。


 ホールの空気が変わる。


 劇団員たちの表情が少し変わった。


 綾音は続ける。


「失敗したっていい!」

「笑われたっていい!」

「それでも前に進まなきゃ、何も変わらないんです!」


 声に迷いがない。


 感情が乗っている。


 まるで本当に大勢の人へ語りかけているようだった。


 綾音自身が、そのキャラクターになっていた。


「だから私は」

「自分の信じた道を進みます!」


 言い切る。

 数秒の沈黙が流れた。


 そして。


 パチパチパチ。


 最初に拍手したのは結衣だった。


「すごい!」


 真理も驚いた顔で笑う。


「全然雰囲気違った」


 黒川が感心したように言う。


「さっきまでの綾音さんじゃなかったな」


 森田も頷いた。


「役に入り込んでいたね」


 旗上は腕を組んだまま笑う。


「なるほど」


「波島さんは」

「誰かになることを楽しめる人だ」


 でも、その顔はどこか晴れやかだった。

 演技が楽しい、その気持ちを、今ははっきりと感じていた。

 唯香はそんな綾音を見て、静かに微笑んだ。


「良かったじゃない」


「自分の武器、見つかったみたいね」


 綾音は少し照れながらも、大きく頷いた。


「……はい!」


 綾音は少し息を切らしながら立っていた。

 すると旗上が笑った。


「いやあ」


「今日は波島さんの日だったね」


 綾音が目を丸くする。


「え?」


 結衣も大きく頷く。


「うんうん!」


「今日の主役でした!」


 真理も笑う。


「最初と最後で全然違ったもの」


 森田も穏やかに頷いた。


「良いものを見せてもらったよ」


 綾音は一気に顔が赤くなる。


「そ、そんな……」


「褒めすぎです」


 唯香が小さく笑った。


「照れてる」


「照れますよ!」


 ホールに笑いが広がった。


 こうして演技研究チームの体験会は終了した。


 公民館を出る頃には、外はすっかり夕方になっていた。


 四人は並んで駅への道を歩く。


「楽しかったね」


 みこが静かに言う。


 音羽も頷く。


「演劇部とはまた違った」


「うん」


 綾音も答えた。


「同じ演劇なのに、全然違いました」


 唯香が少し空を見上げる。


「外の人たちとやると、新しい発見があるのよ」


「価値観も経験も違うから」


 音羽が思い出したように言う。


「会社員の人もいた」


「元教師の人も」


 みこも頷いた。


「年齢もバラバラだった」


 綾音は少し考える。


「でも、みんな楽しそうでした」


「ええ」


 唯香が微笑む。


「演劇が好きなんでしょうね」


みこも頷いた。


「なんだか一年生の頃を思い出したな」


「城戸洋子先生の時?」


 唯香が少し笑う。


「懐かしいわね」


 綾音が首を傾げる。


「誰ですか?」


「元白百合歌劇団のトップスター」


 音羽が少し驚く。


「そんな人に教わったんですか」


「プロの指導すごく厳しかったよ」


 みこが苦笑する。


「ひのりちゃんなんて発声で泣いてたし」


「えっ!?」


 綾音が目を丸くする。


 唯香も笑った。


「悔しくて泣いてたわね」


「みこ先輩は?」


「……私も泣いた」


「えっ」


「緊張して」


 四人の間に小さな笑いが広がる。


「でも」


 唯香が前を向く。


「あの先生も、今日の劇団の人たちも、みんな演劇が好きだった」


「形は違ってもね」


 綾音は今日のことを思い返す。

 劇団員たちの芝居。

 体験会。

 自分が演じた役。

 そして最後の拍手。


「……来て良かったです」


 その言葉に、三人も小さく頷いた。

 演劇には、まだ知らない世界がたくさんある。


 そんなことを感じた一日だった。


 四人は夕暮れの道を歩きながら、それぞれ新しい目標を胸に帰路についた。


 続く。

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