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舞風学園演劇部3 舞台の継承  作者: 舞風堂
第四章 三年目の文化祭
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15/16

第十五幕 3年目の文化祭

 文化祭当日の朝。

 舞風学園は、普段とは違う賑やかな空気に包まれていた。


 各教室では飲食店やお化け屋敷、展示などの準備が進み、廊下には色とりどりの看板や飾りが並ぶ。校庭では模擬店、体育館ではステージ発表の最終確認が行われていた。


 ひのりたちにとって、これが三度目の文化祭。


 一年目は、同じ一年生の五人だけ。

 二年目には後輩が加わり、二つの学年で迎えた。


 そして今年は、一年生から三年生までが初めて揃う。


 三年前には五人だった演劇部も、今ではすっかり賑やかになっていた。


 三年生のひのりたちは、午後に行われる自主制作映画『青春ジュブナイル』の上映準備や、動画撮影部との打ち合わせを担当することになっていた。


 そのため、午前の多目的室を任されたのは二年生たち。


 一年生の綾音たちにも手伝ってもらいながら、演劇部の体験企画を進めていく。


 そして文化祭が始まり、多目的室にも参加者が集まってきた。


「レディース・アーンド・ジェントルメーン!」


 突然、りんかが両手を大きく広げる。


「ようこそ! 舞風学園演劇部へーっ!」


 まるでアメリカのテレビ番組の司会者のような大げさな身振りに、参加者から笑いが起こる。


「本日は皆さんにも、私たちが普段やっている演劇の基礎を体験していただきまーす!」


 パチパチと拍手が起こると、りんかは満足そうに頷いた。


「いいですねー! その調子でいきましょう!」


「……テンション高すぎない?」


 後ろで音羽が呟く。


「司会は勢いが大事だから!」


「どこで覚えたのよ、それ」


 アリスも呆れたように笑っていた。


 最初は軽いストレッチ。


 りんかたちがお手本となり、参加者も一緒になって身体を伸ばしていく。


 続いて発声練習。


「あー、えー、いー、うー、えー、おー、あー、おー!」


 多目的室いっぱいに声が響く。


 最初は恥ずかしそうにしていた参加者も、二度、三度と繰り返すうちに声が大きくなっていった。


 次は滑舌練習。


 早口言葉に挑戦すると、途中で噛んでしまう人が続出し、そのたびに笑いが起こる。


「大丈夫です! 私もよく噛みます!」


「それフォローになってる?」


 音羽のツッコミに、また笑いが起きた。


 そして最後は簡単な演技体験。


 用意された短い台詞を、「嬉しい」「怒っている」「悲しい」「驚いている」といった感情をつけて演じてもらう。


 アリスがお手本を見せると、同じ一言でも表情や声の調子だけでまるで違って聞こえ、参加者から感心した声が上がった。


 一年生たちも参加者のそばについて、一緒に台詞を読んだり、困っている人を手伝ったりしている。


 そんな多目的室の入口に顧問の音屋先生と、副顧問の晴山先生が立っていた。


 二人は中には入らず、廊下からしばらく様子を眺めている。


 中央では、りんかが次の参加者を呼び込み、音羽やまひる、アリスがそれぞれ自分の役割をこなしている。


 その周りでは、一年生たちも当たり前のように動いていた。


「ちゃんとやってるじゃない」


 晴山先生が小さく笑う。


「ええ。りんかちゃん達も演劇部を引き継げるわ」


 音屋先生も頷いた。


 そこに、三年生の姿はない。


 けれど、多目的室はいつもと変わらず賑やかだった。


一方、その頃。


 ひのりたち三年生は、午後の上映会に向けた準備を進めていた。


 上映会場では動画撮影部の部員たちがプロジェクターやスピーカーを確認し、ひのりたちは椅子を並べたり、入口にポスターを貼ったりしている。


「これで全部?」


 七海が並べ終えた椅子を確認する。


「たぶん!」


「たぶんじゃ困るでしょ」


「大丈夫! 足りなくなったら増やそう!」


「相変わらず適当ね……」


 その横では、唯香が動画撮影部の部員と上映の流れを確認していた。


「本編が終わったら照明を戻して、そのまま舞台挨拶でいい?」


「うん。それでお願い」


 撮影では監督を務めたこともあり、唯香はすっかり慣れた様子で話を進めている。


 紗里とみこは入口の案内を準備していた。


「『青春ジュブナイル、本日午後上映!』っと」


「目立つところに置こう」


「これなら絶対分かるね!」


 五人がそれぞれ準備を進めていく。


 多目的室では後輩たちが演劇部の企画を担当し、こちらでは三年生が映画上映の準備をする。


 三年前には、何をするにも五人一緒だった。


 今ではそれぞれが別の場所で動いていても、演劇部の文化祭は進んでいた。


  そして午後。


 午前の演劇体験企画を終えたりんかたちも合流し、演劇部十二人が上映会場に集まっていた。


 スクリーンには、映画『青春ジュブナイル』のタイトル画面が映し出されている。


 動画撮影部の部員たちは、プロジェクターや音響の最終確認を進めていた。


「いよいよだね!」


 ひのりがスクリーンを見上げる。


「撮ってる時はどうなるかと思ったけど、ちゃんと映画になったんだね〜」


「当たり前でしょ。何のためにあれだけ撮影したと思ってるの」


 七海が呆れたように返す。


「でも、こうして文化祭で上映するとなると、撮影の時とはまた違う感じがするね」


 紗里が客席を見る。


 すでに生徒や保護者が少しずつ入り始め、前の方から席が埋まっていた。


「結構来てる……」


 綾音が落ち着かない様子で客席を覗く。


「緊張してきた?」


 唯香が尋ねる。


「しますよ! 自分があんな大きなスクリーンに映るんですよ!?」


「今さら?」


「撮ってる時とは違います!」


 その横で風花と美春も顔を見合わせる。


「私も自分の演技見るのちょっと怖いかも」


「私なんて撮り直したところ覚えてるから……」


「大丈夫だって!」


 りんかが三人の肩を叩く。


「私なんて『遅かったね』って言うだけで、何回撮ったと思ってんの!」


「それ自慢することじゃないから」


 音羽がすぐに突っ込む。


「でも楽しかったよね」


 まひるが笑う。


「廃校を一日中使って、みんなで映画撮って」


「ええ。完成したものを観客に見てもらって、ようやく作品として完成するとも言えるわ」


 アリスもスクリーンへ目を向ける。


「監督としてはどう?」


 七海が唯香を見る。


「そうね……」


 唯香は少しだけ客席を見渡した。


「撮影して、編集して、ここまで来たんだから。あとは観てもらうだけ」


「監督っぽい!」


「監督なんだけど」


 ひのりの一言に、周囲から笑いが起こる。


 やがて動画撮影部から、上映準備が整ったことを知らされる。


 客席の照明が少しずつ落ちていく。


「始まる……」


 綾音が小さく呟く。


 十二人もそれぞれ席についた。


 そして会場が暗くなる。


 スクリーンに最初の映像が映し出された。


『青春ジュブナイル』


 夏休み。


 ユナ、レイ、ミオの三人は、ユナが見つけた一枚の古い写真を手がかりに、町外れの廃校を訪れていた。


 写真には校舎が写っているだけで、学校名も撮影された日付も分からない。


 木々の向こうに、その写真と同じ校舎が姿を現す。


ユナ(綾音)

「やっぱり、ここだ!」


レイ(風花)

「本当に来るとは思わなかった……」


ミオ(美春)

「私は最初から反対だったからね」


 校門を抜け、三人は誰もいない校舎へ入っていく。


 古い掲示物、並んだ机や椅子。時間だけが止まったような校内を進んでいると、教室から声が聞こえてきた。


 そこには一人の少女がいる。


 ナツ(りんか)。


ナツ

「遅かったね」


ユナ

「私たちを待ってたの?」


ナツ

「ここに来る人って久しぶりだから」


 ナツは楽しそうに三人を校舎の奥へ案内する。


ユナ

「ナツはここに通ってたの?」


ナツ

「……どうだろうね」


レイ

「何それ?」


 その先で出会ったのは、本を抱えた少女。


 シオリ(まひる)。


シオリ

「日が沈む前には出た方がいいよ」


ミオ

「ほら! やっぱり帰ろう!」


 シオリはユナに古い校舎の見取り図を渡す。


シオリ

「迷わないようにね」


 直後、校内放送からノイズが流れた。


謎の声(音羽)

「……そこから右」


レイ

「誰?」


謎の声

「階段は使わないで」


 それだけ告げて放送は切れる。


ユナ

「行ってみよう!」


ミオ

「絶対ろくなことにならないよ……」


 三人は見取り図を頼りに、さらに校舎の奥へ進んでいく。


 しかし、やがて見取り図にはない分かれ道に出てしまう。


???

「そっちは行かない方がいいよ」


 三人が振り返る。


 そこには一人の少女が立っていた。


 ミコ(みこ)。


ミコ

「こっち」


ユナ

「この学校、詳しいんだね」


ミコ

「何度も歩いてるから」


レイ

「ここに通ってたの?」


ミコ

「さあ?」


レイ

「またそれ?」


 ミコは楽しそうに笑うと、三人を渡り廊下まで連れていく。


ミコ

「ここから先は大丈夫」


ユナ

「ありがとう!」


ミコ

「また迷ったら呼んで」


 三人が振り返った時には、ミコの姿は消えていた。


 渡り廊下を抜けると、保健室がある。


 中には明るい少女。


 ヒナ(ひのり)。


ヒナ

「こんにちは!」


ユナ

「びっくりした……」


ヒナ

「せっかく来たんだから、楽しまなきゃ損だよ!」


ミオ

「廃校だよ……?」


ヒナ

「だから面白いんじゃん!」


 その明るさに、緊張していた三人も思わず笑ってしまう。


ヒナ

「じゃあ、気をつけてね!」


 続いて三人が入った職員室では、ナナ(七海)が古い資料を調べていた。


ナナ

「この学校に来る人は、みんな同じ場所で迷うの」


 ナナは一枚の古い写真を差し出す。


 そこには、三人が先ほど歩いてきた廊下が写っている。


ミオ

「これ……さっきの場所」


ナナ

「この先に何があるのかは、自分で確かめて」


 家庭科室では、サリ(紗里)が三人を迎える。


サリ

「少し休んでいけば?」


 サリの穏やかな雰囲気に、三人は少しだけ足を休める。


レイ

「みんな、どうしてこの廃校にいるの?」


サリ

「ここが大事な場所だからかな」


ユナ

「大事な場所?」


サリ

「場所がなくなっても、そこで過ごした時間までなくなるわけじゃないでしょ?」


 三人はその言葉を胸に、再び歩き出す。


 やがて体育館へ辿り着く。


 中央には、一人の少女が立っていた。


 アリス(アリス)。


アリス

「ここから先は、自分たちで進みなさい」


ユナ

「どうして?」


アリス

「誰かについていくだけでは、答えは見つからないから」


レイ

「あなたも、この学校のことを知ってるの?」


アリス

「ええ。でも、教えるつもりはないわ」


 アリスは出口を指す。


アリス

「自分の目で見て、自分で決めなさい」


 三人は顔を見合わせる。


 そして今度は、誰にも導かれず歩き出した。


 その先から、ピアノの音が聞こえてくる。


 音楽室。


 夕日の差し込む室内で、一人の少女がピアノを弾いていた。


 ユカ(唯香)。


 演奏が止まる。


ユカ

「ずいぶん遠回りしたわね」


ユナ

「私たちのこと、知ってるの?」


ユカ

「ええ。最初から見ていたもの」


 ユカはこれまで出会った少女たちについて語る。


ユカ

「ナツはこの学校を好きだった。シオリは記憶を残し、ミコは迷った人を導く」


 そして窓の外へ目を向ける。


ユカ

「ヒナは楽しかった時間を覚えている。ナナは記録を残している。サリは過ごした時間を大切にしている」


ミオ

「アリスは?」


ユカ

「自分で進むことを教えてくれたでしょう?」


レイ

「じゃあ、あなたは?」


 ユカは少しだけ笑う。


ユカ

「私は、この物語を見届ける人」


 ユカは立ち上がる。


ユカ

「あなたたちがここへ来て、何を見つけ、何を持って帰るのか。それを見届けるためにいる」


 そして三人を旧校長室へ連れていく。


 そこには、この学校で過ごした少女たちの古い写真が並んでいた。


 ナツ、シオリ、ミコ、ヒナ、ナナ、サリ、アリス。


 そしてユカ。


 さらに中央には、ユナたち三人によく似た少女たちの写真。


ミオ

「……私たち?」


ユカ

「違うわ。この学校で最後の夏を過ごした三人よ」


 三人は写真を見つめる。


ユカ

「あなたたちは、この場所で何を見つけた?」


 ユナは少し考える。


ユナ

「……友達と一緒にいる時間、かな」


レイ

「くだらないことでも、後から大事な思い出になるってこと」


ミオ

「怖かったけど……来てよかった」


 ユカは静かに微笑む。


ユカ

「それで十分よ」


 その時、校内放送から声が響く。


謎の声

「そろそろ時間だよ」


 気がつけば、窓の外は夕暮れ。


 三人は校舎を出る。


 校門を抜けたところで、ユナが振り返る。


 校舎の窓に、これまで出会った少女たちが並んでいる。


 あの少女たちは幽霊だったのか。


 この学校に残された記憶だったのか。


 それとも――。


ユナ

「……またね!」


 三人は夕暮れの道を歩き出す。


 その直後。


 校舎の時計が静かに止まった。


 ――カチッ。


 暗転。


『青春ジュブナイル』


 エンドロールが流れ始める。


 そして、映画はエンドロールを迎えた。


 スクリーンに出演者やスタッフの名前が流れ、最後に『青春ジュブナイル』のタイトルが映し出される。


 暗転。


 一瞬の静けさのあと、客席から大きな拍手が起こった。


「おお……!」


 綾音が思わず声を漏らす。


「すごい……ちゃんと拍手されてる……!」


「そりゃ映画なんだから拍手くらいされるでしょ」


 そう言いながらも、七海の表情は少し嬉しそうだった。


「自分が映ってるの見るの、やっぱり変な感じだったなぁ」


 風花が苦笑する。


「私、自分のところ恥ずかしくてちゃんと見られなかった……」


 美春も顔を赤くする。


「私は完璧だったね!」


 りんかが胸を張る。


「はいはい」


「音羽ちゃん適当!」


 上映が終わり、照明が戻る。


 観客たちが感想を話しながら席を立ち始める中、紗里が客席の一角に気づいた。


「あっ!」


 そこには紗里の両親と、妹の花乃がいた。


「お姉ちゃん!」


 花乃が手を振りながら駆け寄ってくる。


「来てくれたんだ!」


「約束したでしょ。映画、面白かった!」


「ほんと?」


「うん! お姉ちゃんもちゃんと出てた!」


「ちゃんとって何よ」


 紗里が笑う。


 すると、ひのりたちも家族の姿に気づいて集まってきた。


「あ、紗里ちゃんのお母さん!」


「皆さん、この前はありがとうございました」


 母親が頭を下げる。


「撮影の日、お弁当まで用意していただいて」


 ひのりも慌てて頭を下げた。


「いえいえ! こっちこそ、すっごく美味しかったです!」


「本当に助かりました」


 七海も続ける。


「十六人分でしたから、準備するのも大変だったんじゃないですか?」


「みんなで食べてもらえるなら、それくらい」


 紗里の母親は笑った。


「映画を観て、あの日みんなで何をしてたのか、やっと分かったわ」


「お母さん、それ撮影の日にも言ってたじゃん」


 紗里が少し照れたように笑う。


 花乃は姉を見上げる。


「でも、お姉ちゃんたち、本当に映画作っちゃったんだね」


「うん」


 紗里はスクリーンを振り返った。


「みんなで作ったんだよ」


 会場ではまだ、映画について話す声があちこちから聞こえている。


 撮影の日には、廃校の中だけにあった『青春ジュブナイル』。


 それが今は、大勢の人たちの記憶にも残る一本の映画になっていた。


やがて、文化祭も終わりの時間を迎えた。


 朝から賑わっていた校内も、少しずつ片付けが始まっている。


 綾音たち一年生にとっては、初めての文化祭。


 りんかたち二年生にとっては、後輩を迎えて過ごした二度目の文化祭。


 そしてアリスにとっては、舞風学園で迎える最初にして最後の文化祭だった。


 ひのりたち三年生にとっても――これが最後だった。


「終わっちゃったね」


 ひのりが、少し寂しそうに校内を見渡す。


「三回もやったのに、終わる時はあっという間ね」


 七海も静かに答えた。


「最初は五人だけだったんだよね」


 紗里の言葉に、みこが頷く。


「それが今じゃ、こんなに増えた」


 少し離れたところでは、りんかたちが一年生と一緒に片付けを進めている。


 もう三年生がいなくても、演劇部は動いている。


 唯香はその姿を見ながら、小さく笑った。


「大丈夫そうね」


「うん!」


 ひのりも笑う。


 今日をもって、三年生は演劇部を引退する。


 綾音たちには、これから二度の文化祭がある。


 りんかたちには、あと一度。


 けれど、ひのりたちの文化祭はこれで終わり。


 一年生の春、五人で始めた演劇部。


 初めて舞台に立ち、仲間が増え、ぶつかり合い、いくつもの物語を演じてきた。


 そして最後に残したのは、後輩たちと一緒に作った一本の映画だった。


 ひのりは、まだ賑やかな多目的室を振り返る。


「楽しかったなあ……演劇部」


「まだ卒業じゃないでしょ」


 七海が苦笑する。


「あ、そうだった!」


 いつものひのりの声に、みんなが笑った。


 最後まで、いつも通りだった。


 三年生の演劇部としての日々は、ここで幕を下ろす。


 けれど、舞風学園演劇部の物語は終わらない。


 ひのりたちが始めた舞台は、もう次の世代へと受け継がれていた。


 続く。

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