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資格を学んで人生やり直し  作者: 仕事が生きがい~結婚諦めた~
第二章 ビジネス実務法務3級とは

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第二十八話 「責任は、どこまで広がるのか」

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

その火種は、いつも通りの顔をして届いた。


「先方が、損害賠償を言ってきてます」


営業が、メールの画面を差し出す。

内容は短い。だが、数字だけが重かった。


- 追加人員の手配費

- 代替品の緊急調達費

- 納期遅延による違約金

- そして——「逸失利益」


男は、すぐに言葉を返せなかった。


「……まず、何が起きたかを、もう一回」


営業が説明する。


外注先が納品した部材に不具合があり、現場で再加工が発生した。

結果、納期が遅れた。

納期が遅れた結果、取引先の工事が一日ずれた。

工事がずれた結果、取引先はさらにその先の顧客から違約金を取られた。


「それも含めて、うちが払えって」


営業の声には、怒りより先に疲れがあった。

怒りたくなる。だが、怒りは判断を短くする。


男は、白紙を一枚取り出した。

その紙に、いつもの四角を描く。


- 債務不履行は何か

- 損害は何か

- 因果関係はどこまでか

- 免責はあるか


「——これ、債務不履行の話です」


男は言った。


「契約上の義務を守らなかった場合、損害賠償が問題になります」


営業がうなずく。

社長は腕を組んで黙っている。


「ただ、今回の肝は、ここです」


男は、線を二本引いた。


**どこまでが“通常”で、どこからが“特別”か。**


---


外注先の不具合。

これは、債務不履行の類型としては「不完全履行」に近い。

納期遅れが出れば、履行遅滞の顔も見せる。

形が混ざるほど、損害の話は難しくなる。


男は、取引先の請求項目を一つずつ見ていった。


「再加工にかかった費用。代替品の調達費。

これは、比較的“通常損害”の範囲に入りやすいです」


社長が、短く問う。


「じゃあ、違約金は?」


男は、そこで一度、呼吸を置いた。

この“間”が、以前の自分には作れなかった。


「違約金は……状況によります。

相手の契約に違約金条項があることを、こちらが知っていたか。

少なくとも、予見できる事情だったか」


社長の目が少し細くなる。


「逸失利益は?」


男は、紙の端に「416」と書いた。


「損害賠償の範囲は、原則として“通常生ずべき損害”。

でも、“特別の事情による損害”でも、予見できたなら対象になります」


営業が口を挟む。


「つまり、向こうが“困った”って言えば、全部来るんですか?」


「来ます。でも——通るとは限らない」


男は言い切った。


「特別損害は、“その事情を予見すべきだったか”が条件です」


---


会議室に、静かな空気が落ちる。


社長が、低い声で言った。


「君さ。

“因果関係”って言葉、前は便利に使ってたな」


男は、否定しなかった。


「はい。便利すぎました」


男は、因果関係の線を引き直した。


「今回の請求は、因果の鎖が長い。

外注の不具合 → 納期遅延 → 取引先の工事遅れ → その先の顧客の違約金」


男は、最後の箱を指で叩く。


「ここまで行くと、

“通常”の範囲から外れやすい。

外れるなら、“特別事情”として、予見可能性が必要になる」


社長が問う。


「じゃあ、予見できたかどうか、どう見る」


男は、事実の棚卸しを始めた。


- 相手が「その先に大口案件がある」と事前に言っていたか

- 納期がズレた場合の影響を、共有されていたか

- こちらが短納期を受ける時点で、その背景を知っていたか


「メールと議事録、確認します。

“知ってたか”じゃなく、“知るべきだったか”の材料が必要です」


そこで営業が、苦い顔をした。


「……でも、うちも、仕様を途中で変えてます」


男は、手を止めた。


「どのタイミングで?」


「外注が作り始めた後です。

現場都合で、寸法を……」


その瞬間、社長が小さく笑った。

責める笑いじゃない。

“見つかったな”という笑い。


男は、うなずいた。


「——過失相殺の話になります」


社長が短く言う。


「こっちにも落ち度があるなら、賠償は減る」


男は、強く頷いた。

そして、もう一つ付け足す。


「ただし、こっちの落ち度でゼロにはなりにくい。

でも、額は動く可能性が高い」


---


会議が終わり、社長が男を呼び止めた。


「前なら、どうしてた?」


男は答えた。


「相手が悪い、と言ってました。

“うちは被害者です”って」


社長は言う。


「今は?」


男は、紙の四角を見た。


「誰が悪いかより、

“何が要件で、どこまで通るか”を先に見ます」


社長は、それ以上言わなかった。

だが、男には分かった。


「まだ足りない」は、

責められる言葉じゃない。


**基準のある言葉**だった。


---


その夜。

男はテキストを開く。


債務不履行。損害賠償。

要件。範囲。予見可能性。

因果関係。


ページの余白に、男は短く書いた。


> 損害は、広がる。

> でも、責任は、無限じゃない。


それは、相手を切るための言葉じゃない。

自分の会社が、誠実に引き受ける範囲を決めるための言葉だった。


合格は、ゴールじゃない。

でも、合格できる人は、

こういう時に迷わない。


男は、ペンを置いた。


——次は、

「解除」を自分の言葉で言えるようになる。

お読み頂き、ありがとうございます。

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