表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
資格を学んで人生やり直し  作者: 仕事が生きがい~結婚諦めた~
第二章 ビジネス実務法務3級とは

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/57

第二十四話  「それは、誰の行為だったのか」

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

そのトラブルは、

ごくありふれた形で持ち込まれた。


「取引先が怒ってまして……」


電話口の声は、困っていたが、

どこか当事者意識が薄かった。


理由は単純だった。


現場担当が、

ある約束をした。


納期。

条件。

口頭での調整。


だが、その内容が

社内で共有されていなかった。


「いや、それは対応できませんって

 会社としては言いたいんです」


報告に来た社員は、そう言った。


男は、すぐには答えなかった。


——また来たな、と思った。


**“誰の責任か”を

一言で済ませたくなる場面**だ。


以前なら、

「担当の独断ですね」

そう言っていたかもしれない。


だが今は、違う。


「その人、

 どんな立場で話しました?」


社員が答える。


「営業です。

 名刺も出してます」


男は、机の引き出しから

テキストを取り出した。


**代理・代表行為**の章。


---


そこには、こう書いてある。


> 代理人が、本人の名において行った行為は、

> その効果が本人に帰属する。


男は、ゆっくり言葉を選んだ。


「まず、この話。

 **個人の約束か、会社の行為か**を分けよう」


社員が、少し首を傾げる。


「会社の人間がやったんだから、

 会社の行為じゃないですか?」


「——“いつも”はね」


男は続ける。


「でも、

 代理として成立するには条件がある」


テキストを指で押さえる。


- 本人のためにする意思

- 代理権の存在

- 本人の名で行うこと


「この三つが揃って、

 **初めて会社の行為になる**」


社員は黙って聞いている。


「今回、

 その営業に

 どこまでの権限があった?」


「……いつもの取引条件まで、です」


「じゃあ、

 それを超えてた?」


沈黙。


男は、はっきり言った。


「その場合、

 **無権代理**になる可能性がある」


---


無権代理。


テキストの文字が、

妙に重く見えた。


> 代理権のない者がした代理行為は、

> 原則として本人に効力を生じない。


——原則として。


男は、そこに線を引く。


「ただし、

 話はそれで終わらない」


追認。


本人(=会社)が

後から「よし」と言えば、

その行為は有効になる。


逆に言えば。


「会社がどう動くかで、

 **責任の帰属が決まる**」


社員は、少し息を呑んだ。


「じゃあ……

 会社としては?」


男は、すぐには答えない。


これは、

処理の問題ではない。


**立ち位置の選択**だ。


---


社長に、簡単に報告する。


状況。

構造。

選択肢。


社長は、少し考えてから言った。


「これ、

 追認しないとまずいな」


男は、うなずいた。


「はい。

 交渉の余地は残しつつ、

 会社の行為として引き取る形が

 一番現実的です」


社長は、男を見る。


「……ちゃんと、

 理由も説明できるな」


男は、答えた。


「無権代理ですが、

 相手の信頼や現場の実情を考えると、

 追認した方がリスクが小さいです」


それは、

感情論じゃなかった。


**代理と責任の構造**を

踏まえた上での判断だった。


---


夜、

男は一人で、

テキストをもう一度開く。


代理。

代表行為。

使用者責任。


> 事業の執行について、

> 使用者が被用者に加えた損害は、

> 使用者が賠償責任を負う。


行為者と、

責任を負う者は、

必ずしも同じじゃない。


——だから、

会社は怖い。


でも同時に。


——だからこそ、

構造を知らないと

誰かを守れない。


男は、ページの端に書いた。


> 「誰がやったか」ではなく

> 「誰としてやったか」


社長に指摘された

足りなさ。


それは、知識量じゃない。


**線を引き、

引き受ける位置を

言葉にできるかどうか**。


男は、静かに頷いた。


まだ、足りない。


でも、

戻る場所は

もう迷わない。

お読み頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ