幕間 いつからか、名前で呼ばれる席にいた人
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
後輩は、
最初から気づいていたわけじゃない。
ただ、
困ったとき、
自然に声をかけていた。
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「この資料なんですけど……」
返事は、
すぐには返ってこない。
画面を見て、
一度、
全体を眺めてから、
「前提、どこまで決まってる?」
そう聞かれる。
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正直、
少し緊張する。
怒られるわけじゃない。
否定されるわけでもない。
でも、
適当に流せなくなる。
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「そこが曖昧なら、
ここは保留だね」
「先に決める順番、
逆かもしれない」
言葉は静かだ。
声も、
大きくない。
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それなのに、
会議が終わるころには、
「あ、
まずここを詰めないと
ダメなんだ」
そう、
頭の中が整理されている。
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気づけば、
周りも同じように
聞いている。
誰かが説明に詰まると、
視線が一度、
そこに集まる。
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後輩は思う。
——あれ、
この人、
前からこうだったっけ。
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資格の話を、
聞いたことがある。
試験を受けたらしい、
という噂も。
でも、
合格したかどうかは、
誰も知らない。
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それでも、
仕事の流れは、
もう変わっていた。
「念のため」は減り、
「どう考えます?」が増えた。
それを投げられても、
この人は逃げない。
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全部分からなくても、
分からないまま、
立ち止まらない。
「ここは確認が要る」
「この条件なら、
こうなる」
そう言って、
線を引く。
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後輩は、
ふと気づく。
この人に聞くと、
“正解”が返ってくるわけじゃない。
**考える場所**が
返ってくる。
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だから、
頼ってしまう。
教えてほしい、
というより、
一緒に整理してほしい、
と思ってしまう。
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夕方。
後輩は、
資料を抱えたまま、
立ち止まる。
声をかけようとして、
一瞬、迷う。
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それから、
気づく。
もう、
役職でも、
結果でもなく。
**名前で呼ばれる席**に
この人は、
最初から座っていたのだと。
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試験の結果は、
まだ出ていない。
でも後輩にとっては、
もう関係なかった。
この人は、
考える人だ。
そして、
立っていなくなる人じゃない。
お読み頂き、ありがとうございます。




