第二十話 結果待ちの期間に、もう戻れなかった自分
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
結果は、
まだ出ていない。
カレンダーを見ても、
通知は空白のままだ。
それでも、
男の一日は、
試験前と同じには戻らなかった。
---
朝、
席に着くと、
すでに資料が置いてある。
「これ、確認もらえますか」
言い方は、
以前と変わらない。
だが男には、
はっきり分かる。
**もう“仮”じゃない**
という扱いだ。
---
合格したかどうかは、
誰も知らない。
男自身も、
分からない。
だが、
戻る前提で話している人は、
一人もいなかった。
---
「念のため」
「一応」
そんな言葉が、
消えている。
代わりに出てくるのは、
「どう考えます?」
「ここ、整理できますか」
---
男は、
その問いを断らなかった。
結果が出るまで、
待つ理由が
もうなかったからだ。
---
もし落ちていたら。
そのとき、
自分はこの席にいていいのか。
一瞬、
頭をよぎる。
---
だが、
すぐに消えた。
**この席は、
合格通知で与えられたものじゃない。**
試験前から、
もう座っていた。
立たずにいた。
---
途中の説明で、
言葉に詰まることがある。
迷う瞬間もある。
それでも、
黙らない。
「今の前提だと、
確認が必要です」
そう言える自分が、
すでにいる。
---
結果待ちの期間は、
宙ぶらりんのはずだ。
合否が決まっていない時間。
だが男にとって、
それは戻るための猶予ではなかった。
---
**もう一度、
“考えない人”に戻ることだけは
できなくなっていた。**
---
夕方、
ふと気づく。
テキストを開いていない日でも、
考え方が残っている。
順番。
根拠。
説明の出口。
それが、
仕事の中に常駐している。
---
拾われた男は、
静かに理解した。
試験は、
人を変えるイベントじゃない。
**変わってしまった後に、
確認だけが届く仕組み**だ。
結果は、
まだ先だ。
だが自分は、
もう、
待っているだけの場所には
いなかった。
お読み頂き、ありがとうございます。




