第十九話 試験当日、手応えより気になったこと
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
試験会場は、
思ったよりも静かだった。
紙の擦れる音。
椅子を引く気配。
知らない誰かの呼吸。
それだけが、
ゆっくり流れている。
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男は、
緊張していないわけじゃなかった。
心臓は、
ちゃんと早い。
だが、
焦りはなかった。
逃げ場のない仕事前と、
似た感覚だった。
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問題用紙を開く。
見覚えのある言い回し。
何度も迷った論点。
解ける。
解けない。
それより先に、
別のことが頭をよぎる。
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**「これ、
もし実務だったら
自分はどう言うだろう」**
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一問、一問、
選択肢を消す。
覚えた知識じゃなく、
説明できる順番を思い出す。
なぜそれがダメで、
なぜこちらが残るのか。
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途中で、
簡単な問題に出会った。
反射的に、
答えが浮かぶ。
そこで、
一度ペンを止めた。
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なぜ、
そう言い切れるのか。
それを、
頭の中で言葉にしてから
丸をつけた。
時間は、
少しだけ余計にかかった。
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周囲を見回す。
みんな、
必死そうだった。
焦り。
不安。
点数への執着。
どれも、
悪いものじゃない。
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だが男の意識は、
そこに無かった。
気になっていたのは、
**自分の態度**だった。
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解けなかった問題がある。
自信のない選択肢もある。
それでも、
ペンを投げたくならない。
「あとで確認しよう」
そう思える余白が、
まだ自分に残っている。
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試験終了。
見直しは、
最小限だった。
粘らなかった。
終わりを、
ちゃんと受け入れて
提出した。
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会場を出たとき、
男は、
合格を確信しなかった。
落ちたかもしれない。
それは、現実だ。
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それでも、
胸の奥に残っている感覚は、
一つだけ。
**「立ち方は、
間違えていなかった」**
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拾われた男は、
空を見上げて思った。
試験は、
力試しじゃない。
**問いの前に、
どう座る人間かを
試される場だった。**
結果は、
少し先の話だ。
今日気づいたことの方が、
ずっと重かった。
お読み頂き、ありがとうございます。




