第十八話 落ちる前提で、準備を始めた理由
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
試験日までの残り日数を、
男は数えなかった。
減っていく数字は、
安心よりも焦りを生むと知っていた。
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代わりに、
男は一つだけ決めたことがある。
**「落ちる前提で、準備をする」**
悲観でも、
弱気でもない。
それは、
仕事のやり方と同じだった。
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想定外が起きる。
説明を求められる。
記録が残る。
試験も、
同じだ。
上手くいかなかったときに、
何が残るか。
そこだけを、
考え始めた。
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もし落ちたら。
誰かに言い訳をするか。
肩書きがなくなるか。
役割が消えるか。
どれも、
違う。
落ちても、
問いは続く。
判断は、
求められる。
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ならば――
**合否に関係なく、
説明できる状態を作る。**
それが、
準備の基準だった。
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男は、
勉強のノートを分けた。
一つは、
試験用。
もう一つは、
「誰かに説明する前提」でまとめる。
書き方も変えた。
結論から。
理由を二つ。
例外を一つ。
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丸暗記は、
捨てた。
点を取りにいく勉強を、
意識的に削った。
代わりに、
**「それ、何でそうなるんですか?」**
と聞かれた場面を想像する。
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勉強時間は、
減った。
だが、
机に向かう理由が変わった。
合格したいから、
ではない。
**間違えても、
黙らないため。**
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男は知っている。
資格を持っていても、
事故は起きる。
だが、
準備せずに立っている人間の言葉は、
一度も信用されない。
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拾われた男は、
ようやく腑に落ちた。
試験は、
ゴールじゃない。
**落ちたあとでも、
席を立たずにいられるかどうかを
確かめる通過点**だ。
だから、
落ちる前提でいい。
立ち続ける準備だけは、
今、しておく。
お読み頂き、ありがとうございます。




