少年と必殺の剣。
「しかし、技名は考えておいた方が良いと思うぞ」
諦めの悪いやつだなあ。
「後で考えておくよ」
言いつつ、僕は頬の傷に触れた。
銃で撃たれたのは初めての体験だ。どのくらい深い傷になっただろうか――――。
と、そのとき、僕は違和感を覚えた。
撃たれたはずの箇所に傷がなかったからだ。
「契約者には強靭な肉体が与えられる―――と言ったはずだけどな。忘れたか?」
メフィが冷めたような視線を僕に向ける。
「強靭な肉体って?」
「だから、お前の感じている通りだよ。もはやお前は銃で撃たれたくらいじゃ死なない。悪魔と契約しているんだから、お前はもう人間をやめたようなものだ」
「なんか、嬉しいとも悲しいとも言いづらいね」
「喜んでくれると嬉しい。大体な、ニル。お前がやっているような音速を超えた抜刀―――いや、そもそも距離を無視して間合いを詰めるような人体を超えた動きなんて、普通は体が壊れてしまうに決まってるだろ。私と契約しなければ、お前は全力で戦うこともできなかったんだ」
メフィと初めて出会った、あの山の中での一件を思い出す。
確かにあの時、あの戦闘の後、僕は死にかけた。
「お礼を言っておくよ、ありがとうメフィ」
「なあに、私としては契約さえ果たしてくれればそれでいいんだ」
メフィが満足げに頷いたとき、僕らのいる路地裏に慌ただしい足音が近づいて来た。
振り返ると、覆面をつけた男がこちらへ走って来ているところだった。
男は僕らに気付くと、大声で叫んだ。
「た、助けてくれ! 頼む!」
彼の背後には、銃を構えた治安警察の部隊が見えた。
僕は咄嗟に剣の柄に手をやったが、その手をメフィに止められた。
「どうするつもりだ、ニル」
「どうするって、あの覆面を助けるんだよ」
「いいのか? 奴はナパ人だろう? お前の父を殺した憎いナパ人だ」
「……どうして君は僕を惑わすようなことを言うんだ」
「私は悪魔だからな」
……あれ?
でもなんでこいつ、僕の父親のことを知ってるんだ?
「ナパ人だろうがシュニ人だろうが関係ないね。僕の力は、僕が守りたいと思ったものを守るための力だ」
そして、人種に左右されない世界を切り開くための力だ。
これ以上、誰かが誰かを虐げる連鎖は見たくない。
「……そうか。ならば、思うようにやるといい」
メフィが僕から一歩分離れた。
僕は一瞬で呼吸を整えた。
「―――『この斬撃消えるよ』」
相手は死ぬ。
―――いや、冗談だけど。
とりあえず、敵は峰打ちにしておいた。




