少年、巻き込まれる。
「どうした、ニル? 考え事か?」
「うん? まあ、そんなところ……っていうか」
「なんだ?」
「そういえばメフィ、兵士たちに追われてたんじゃなかったっけ? こんな街中にいて大丈夫なの?」
「あの件に関していえば大丈夫だ、心配するな。私の存在は一部の人間しか知らないからな。むしろこうして公の場に居る方が安全なんだ。人目につくところだと、奴らも手出しできないからな」
「……へえ。で、その奴らって何者なの?」
「それは秘密だ。いずれ時が来れば教えてやる」
メフィが再びストローに口をつけた。
僕は何気なく視線を空へ向けた。
この青空だけは、僕が知っているものと変わっていない。強いて言うならちょっと霞んだような気がするくらいだ。
大気汚染とか進んでるらしいしね。詳しくは知らないけど。
「……!」
「どうしたニル。いつも以上に変な顔をして」
「いつも以上に、は余計だよ。それよりも―――」
なんだか嫌な予感がする。
そう言おうと思って僕が口を開いた瞬間、背後で尋常じゃないくらいの大きなが音が起こった。
僕は反射的にメフィを押し倒し、テーブルの影に身を伏せた。
「どうしたいきなり。お前、案外積極的だな」
「こんなときにそんな呑気なこと言ってる場合じゃないだろ! 何が起こったんだ!?」
地面の揺れが収まり、やじ馬たちの喧騒が聞こえ始める中、僕は顔を上げて音がした方を見た。
ビルの入り口に突っ込んだトラックが炎上しているのが見えた。
入り口は衝撃でめちゃくちゃになっている。
「……事故か?」
僕が呟くと、メフィは、
「いや、事故ではないだろう」
「じゃあどうして」
「恐らくは故意に突っ込んだんだ。あのトラック、ナンバープレートがついていないだろう」
「な、ナンバープレートって、車の番号が書かれてる札のこと?」
「そうだ。よく分かったな。偉いぞ、ニル。来年のルクト科学賞はお前のものかもしれないな」
「……今僕をバカにしただろ」
「ほう、思ったより頭は悪くないようだ」
感心したような顔をするメフィ。
こ、この女……!
「……で、ナンバープレートがついてないと、どうして事故じゃないんだ?」
「プレートの装着は義務だからな。あれがないということは、あのトラックは盗難車かそれに準じるものだ。そんな車を好きこのんで運転する人間なんていないだろう。ということは、必然的に何らかの意図をもって特別に用意されたトラックなんだよ、あれは。例えば―――そう、テロ行為のため、とかな」
「テロ行為……!」
「そうだ」
「……って、どういう意味?」
メフィがため息をつく。
「話の腰を折るようなことを言うな。私は真面目な話をしているんだ」
「悪かったよ」
「テロ行為というのは、要するに自らの主張を訴えるために暴力的な手段に出るようなことを言うんだ」
「じゃあ、あのトラックは……」
「どこかの組織が用意したもの、ということになるな」
「でも一体どこの誰が」
その時、炎上しているトラックの荷台が開き、中から数人の人間が降りて来た。
彼らは一様に黒ずくめの恰好をしていて、その手には拳銃が握られていた。顔は覆面のようなもので覆われていて、人相は分からない―――が。
僕には、彼らの瞳が茶色をしているのが分かった。
そう、ナパ人の瞳の色を。
やじ馬たちがどよめき、突如現れた黒ずくめの集団に奇異の目を向ける。
直後、黒ずくめの中の一人が発砲し、トラックが突っ込んだビルの向かい側にある建物の窓が割れた。
それは、やじ馬たちを静かにさせる効果があった。
発砲した一人―――多分男だろう、彼は拡声器を片手に一歩前へ出て、言った。
「これは報復である。昨晩、ロニ公国の末裔たるノイン・ロニ様のお屋敷がルクト帝国の息のかかった者に襲撃された。この行動は、ルクト帝国に対する抗議の意を示すべく決行したものである。我々『リュウビ』は、ルクト帝国から不条理な支配を受ける民族を解放するために立ち上がったのである」




