少年と契約。
「お前が若返ったのは私と契約したからだ。契約者には若さと強靭な肉体が約束される」
「じゃあ、その契約っていうのは? 僕は何をすればいい?」
「単純なことさ。この帝国を終わらせてくれ。お前の手で」
終わらせる?
この帝国を?
「……もう一度訊く。君は何者だ? ――――いや、何なんだ?」
メフィは僕の方へ顔を上げ、あの時と同じ凄惨な笑みを浮かべた。
「私は悪魔だよ。この世に混沌をもたらすためのな」
「悪魔が、人の膝の上に座るのか……」
「人より優れているからな、私たちは」
「大体、この帝国を終わらせるって言ったってどうすればいいんだよ。僕にそんな力は―――」
ない、でもない。
光速の抜刀術があれば、出来ないわけじゃないかもしれない。
「お前のことは信頼している。ニルは私を助けてくれたからな。あの力を使えば不可能じゃないだろう」
「だけど、国を終わらせるなんてそんなこと、僕にはできないよ」
「……そうか。なら、私はお前と心中することになるな」
「え?」
「だって、そうだろう? 契約を果たせなければお前は死ぬんだぞ」
「ど、どういうこと?」
はあ、とメフィはため息をつく。
「ニルは私と契約したじゃないか。私はお前を若返らせ、強靭な肉体を与えた。その代わりにお前は帝国を終わらせてくれる。もしお前が私の望みを果たせなければ、その瞬間お前は死ぬ。同時に私も死ぬ」
「なんでそうなるんだよ」
「それが契約だからだ。というか、そもそも本当ならお前は死んでいるんだぞ。それを無理やり私が生かしているだけなんだ。いつ死んでも不思議じゃないさ」
「でも、僕が生きてる限りは、僕の手によって帝国が滅びる可能性はあるわけだろ? 契約が果たせないかどうかなんて、どうやったら分かるんだよ」
「……フッ」
突然メフィが笑った。
まるで僕を見下すように。
「な、何がおかしいんだよ」
「案外細かい男だと思ってな。まあ、いいだろう。質問に答えてやる。もう少し正確にいえば、お前が関与しないところで帝国が滅びるか、お前が契約を履行する意思を失った時に私たちは死ぬ。これで分かるようになったか?」
「……契約とかいうものの中身はね。だけど僕には――――」
「この帝国を滅ぼす理由なんてない、か?」
「!」
すべてを見透かすようなメフィの視線に、僕は言葉を失った。
そんな僕に構わずメフィは話を続ける。
「本当にそうか? この帝国はシュニ人のものだ。お前は、ナパ人とシュニ人の混血だろう?」
「それが……どうかしたの?」
「強がるなよ。お前は心のどこかで、シュニ人とナパ人が憎み合う帝国の在り方が間違っていると思っている。だから、帝国を滅ぼす理由はあるさ。それをニルがうまく言葉にできていないだけだ」
「お前に僕の何が分かるんだ」
「分かるさ。私はメフィ―――悪魔だからな」
見た目の幼さとは不釣り合いな怪しくも艶めかしい笑顔で、メフィは言った。
僕は全身が総毛立つのを感じた。
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