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昨日までの片想い  作者:
昨日までの幼馴染

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6/16

昨日までの幼馴染(五)

「今、何て」


 私の小さな呟きが、日が完全に落ちた静かな帰り道に響く。

 その呟きを聞いた途端、湊は目に見えて狼狽えていく。


「あ、いや。違う。何でもない」


 先ほどまでの威勢は鳴りを潜め、今度は、湊が私から距離を少しずつ取っていく。

 湊の表情は、照れというより、言ってしまったことを後悔しているように見えた。“言ってしまった”と言わんばかりの表情を浮かべる湊に、私は再び問いかける。


「……今言ってくれたことって、ほんと?」


 私の勘違いかもしれない。勝手に期待して、自惚れているだけかもしれない。

 それでも、もう聞かずにはいられなかった。

 しかし、僅かな期待に鼓動を速める私とは反対に、湊は言葉を詰まらせ顔を俯かせている。


「……」

「湊?」


 湊からは沈黙のみが返ってくる。俯いた顔のせいで、表情も見えない。

 沈黙が続き、ガードレールの向こう側を、何度も車が通っていく。車が横を通り過ぎ、ヘッドライトが湊を照らす。

 

「ねぇ……なんで何も言ってくれないの?」


 どうして何も言ってくれないのか。そんなもどかしさを抱くが、それと同時に、そんな自分に対して呆れに近い感情を抱く。

 ──ずっと、自分の気持ちを言ってこなかったのは私も同じじゃないか。

 湊が漏らしてしまった言葉は、どこまで本当か分からない。けれど、全てが嘘とも思いたくなくて。


 言うつもりのなかった言葉だとしても、湊は確かに「付き合いたい」と口にしてくれた。

 結局、私だけが何も言えていない。

 関係が壊れることを恐れ。相手にされていないと早とちりをし。もう手遅れと勘違いして。

 私が抱いた感情と同じものを抱き、今にも逃げ出してしまいそうな私の好きな人に向かって私は一歩を踏み出す。


「あのね、湊」


 気持ちを言おうとするたび、口が閉じ。聞こうとするたび、自ら話題を逸らし。

 そんな情けない過去の自分にも笑いかけながら、俯く湊へ笑顔を向ける。


「私も……私も、湊のこと」


 俯く湊。

 涙で、きっとぐちゃぐちゃな顔の私。

 一度は溝が出来たしまった二人の距離を、今度は、私が埋めていく。

 

「ずっと……湊のことが好きだった」


 言葉にした瞬間、胸の奥に何年も溜まっていたものが、全部ほどけていく気がした。

 湊は、俯いていた顔を上げ、驚きの視線をこちらに向けていた。

 その表情がどこか面白くて。私は声を出して笑ってしまった。


***

「俺は……ずっと、自分に自信がなかった」


 久しぶりに訪れた近所の公園。幼少の頃に乗ったはずの遊具は、面白いほど小さくて。

 街灯に照らされたブランコに腰かける。もう一個のブランコに腰かけた湊が、少しずつ言葉を漏らしていく。


「灯里は……教室ではずっと誰かと笑っていて。勉強もできて」


 何も特別なことではない。

 友達と話せば笑いも起こる。勉強なんて、得意不得意あって当然だろう。

 湊だって、男子と楽しそうに会話しているし。体育では、湊にボールが集まって。

 湊から語られる、湊の本心。

 勉強と運動の差はあるけれど、湊も私と似た様なものじゃないか──そう言おうとするが、湊に先を越される。


「三年。いや、六年間……我ながら頑張ったと思うよ。周りにテンションを合わせて、服装とかも勉強して」


 どこか、遠くを見つめる湊。

 高校に入ってからは、確かにワックスを付け始めていた。湊も男子なんだなぁ、と思ったのは覚えている。

 部活も、勉強も頑張っていた湊はよく知っている。

 しかし──私は、そんな湊に向けて言わずにはいられなかった。


「湊は……何で、そんなこと頑張ったの?」

「な、何でって、灯里に釣り合うように──」

「私が、湊のこと好きだったのはもっと前からなんだから。そんなこと、しなくても良かったのに」


 湊の頑張り。小さな一つ一つが嬉しい。

 でも、空回りしていた湊を見てしまうと、つい笑ってしまう。

 肩を落とす湊に、私も小さく語りかける。


「高校に入ってさ。友達とか、クラスメイト見てると『あの子可愛いなぁ』とかずっごく思うんだよね。そして、どんどんカッコ良くなってく幼馴染。きっと、私なんて──ってずっと思ってた」


 結局はお互い様、だったのだろう。

 しかし、『蓋を開ければ』と言うがその蓋を開けるのにも勇気がいるわけで。

 ずいぶん遠回りした現状に、乾いた笑いが漏れていく。


「ねぇ、湊」


 ブランコから勢いよく立ち上がり、湊の前に立つ。

 いつもは私が見上げていた湊を、今は上から見つめる。


「春から、別々になっちゃうけどさ」


 高校生活もあと僅か。

 もっと早く行動すれば──そんな考えても意味のないことを端に寄せながら、これからの事を考える。


「少なくとも、あと2ヶ月。よろしくね」

「はぁ……今から、大学変えられねぇかな」

「湊の学力じゃ……難しいかも?」


 私の一言で、さらに肩を落としていく湊。

 そんな湊を笑って──私よりずっと大きな手を取る。


「ほら、帰ろ」


 私の手を簡単に包み込む、温かな手。握り返されたその手を、私もそっと握り返す。

 昨日までと同じ帰り道を、昨日までとは違う距離で歩いていく。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。


2026/8/18

12時半頃、エピソードを更新いたします。

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