# 第二話 ## 最初のありがとう
# 第二話
## 最初のありがとう
町へ続く道を歩き始めてから、一時間ほどが経っていた。
「はぁ……はぁ……」
春人の足取りは重い。
腹が減っていた。
それに喉も渇いている。
異世界に来てから何も食べていないのだから当然だ。
それでも町が見えた時は少し安心した。
石造りの門。
木造の家々。
煙突から上がる白い煙。
人々の話し声。
どこか懐かしい風景だった。
「助かった……」
春人はそう呟いた。
しかし。
安心した途端に力が抜けた。
視界が揺れる。
足がもつれる。
そのまま地面に膝をついた。
「やばい……」
立ち上がろうとする。
だが体に力が入らない。
空腹は想像以上だった。
このままでは本当に倒れてしまう。
その時だった。
「大丈夫ですか?」
優しい声。
春人は顔を上げた。
そこには一人の少女が立っていた。
年齢は十八歳くらい。
明るい茶色の髪。
柔らかな笑顔。
白いエプロン姿。
両手にはパンの入った籠を抱えていた。
「顔色、悪いですよ?」
「いや……ちょっと腹が減ってて」
春人は苦笑した。
少女は目を丸くする。
そして少し考えたあと。
籠からパンを一つ取り出した。
「どうぞ」
「え?」
「食べてください」
「いや、お金ないし」
「大丈夫です」
「でも……」
「食べないと倒れますよ?」
少女は困ったように笑った。
春人の腹が、そのタイミングで鳴った。
ぐぅぅぅ。
最悪だった。
少女が吹き出す。
「ふふっ」
春人は顔を赤くした。
「笑わないでくれ」
「ごめんなさい」
そう言いながらも笑っている。
どこか楽しそうだった。
春人は観念してパンを受け取った。
まだ温かい。
焼きたてらしい。
一口かじる。
「……うまい」
思わず声が漏れた。
外は少し香ばしく。
中はふわふわ。
優しい甘さが広がる。
気付けば夢中で食べていた。
少女はその様子を嬉しそうに見ている。
「よかった」
「本当に助かった」
春人は頭を下げた。
「ごちそうさま」
少女は笑う。
その笑顔は春の陽だまりみたいだった。
そして。
「こちらこそ」
小さく頭を下げる。
「ありがとうございます」
春人は固まった。
ありがとう。
たったそれだけの言葉。
だけど胸の奥が熱くなった。
なぜだろう。
こんなに嬉しいなんて。
こんなに温かいなんて。
忘れていた気がする。
誰かから感謝されることを。
春人は思わず笑った。
「いや……」
そして静かに言う。
「こちらこそ、ありがとう」
少女も笑った。
「はい」
風が吹く。
町の鐘が鳴る。
青空の下。
異世界で初めて交わした言葉。
それは。
春人がずっと欲しかった言葉だった。
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少しして。
少女は改めて自己紹介した。
「私、リリアって言います」
「リリアか」
「はい」
「俺は湊春人」
「ハルトさんですね」
名前を呼ばれただけで少し照れくさい。
「ところで」
リリアが首を傾げた。
「ハルトさん、この町の人じゃないですよね?」
「分かる?」
「服が変です」
即答だった。
春人はショックを受けた。
「変か……」
「かなり」
「そこまで言う?」
リリアは楽しそうに笑う。
春人もつられて笑った。
不思議だった。
異世界に来て不安だらけのはずなのに。
この少女と話していると少し安心する。
その時だった。
リリアが何かを思いついたように手を叩く。
「あっ」
「?」
「もし行く場所がないなら」
「うん」
「うちの食堂で働きませんか?」
春人は目を瞬かせた。
「え?」
「ちょうど人手不足なんです」
「初対面だぞ?」
「そうですね」
「普通誘うか?」
「でも困ってる人を放っておけませんから」
リリアは当たり前のように言った。
春人は言葉を失った。
こんな風に誰かに必要とされたのは。
いつ以来だろう。
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その日。
春人はリリアと一緒に町の中心へ向かう。
まだ知らない。
この食堂が。
この町が。
そしてリリアが。
自分にとってかけがえのない居場所になることを。
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### 次回
## 第三話
### 「星風食堂へようこそ」
リリアに連れられ、食堂で働くことになった春人。
しかし初日から皿を割り、料理を運んで転び、大失敗の連続。
そんな春人に店の主人が言った言葉とは――。




