# 第三話 ## 星風食堂へようこそ
# 第三話
## 星風食堂へようこそ
「着きました!」
リリアが立ち止まった。
春人は顔を上げる。
そこにあったのは、木造の二階建ての食堂だった。
入り口には手書きの看板。
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**星風食堂**
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花の鉢植えが並び、窓からは温かな灯りが漏れている。
思わず春人は呟いた。
「なんか……いい店だな」
「でしょ?」
リリアは嬉しそうに胸を張った。
まるで自分のことを褒められたみたいだった。
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ガラン。
扉を開ける。
途端に香ばしい匂いが広がった。
パンの香り。
スープの香り。
焼きたての肉の香り。
空腹の春人にはたまらない。
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「ただいまー!」
リリアが元気よく声を上げる。
奥の厨房から返事が飛んできた。
「おう、おかえり」
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現れたのは大柄な男性だった。
四十代後半くらい。
腕は太く、いかにも料理人という雰囲気。
しかし目元は優しい。
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「その兄ちゃんは?」
「道で倒れそうになってたんです」
「ほう」
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男性は春人を見る。
少しだけ沈黙。
そして言った。
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「腹減ってるか?」
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春人は即答した。
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「めちゃくちゃ減ってます」
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男性は大笑いした。
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「ははは!正直でいい!」
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数分後。
春人の前には大皿が置かれていた。
肉料理。
野菜スープ。
焼きたてパン。
サラダ。
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「食え」
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春人は遠慮しようとした。
だが腹が限界だった。
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「いただきます」
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一口。
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「……うまい」
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思わず目を閉じた。
温かい。
それだけで泣きそうになる。
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家ではいつもコンビニ弁当だった。
一人で食べる食事だった。
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でも今は違う。
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リリアが笑っている。
店主が腕を組んで見ている。
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誰かと同じ空間で食べるご飯。
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こんなに温かかったんだ。
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「気に入ったか?」
店主が聞く。
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「はい」
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「なら良かった」
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その言葉だけで嬉しかった。
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食事が終わると、
店主は椅子に腰掛けた。
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「俺はこの店の主人、ダンだ」
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「春人です」
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「事情は聞かねえ」
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春人は驚く。
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「聞かないんですか?」
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「話したくなったら話せ」
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ダンは笑った。
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「誰にでも事情はある」
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春人は少しだけ救われた気がした。
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その後。
リリアが言った。
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「それでですね」
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嫌な予感がする。
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「春人さんに働いてもらおうと思います!」
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「決定なの!?」
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「人手不足ですから!」
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「いや俺、接客経験ないぞ」
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「大丈夫です!」
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全然大丈夫そうじゃない。
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しかし。
その日の夜。
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春人はエプロンを着ていた。
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「なんでこうなった……」
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そして。
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開始十分後。
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ガシャーン!!
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皿を落とした。
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「うわああああ!!」
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店内に響く悲鳴。
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リリアが走ってくる。
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「大丈夫ですか!?」
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「俺は大丈夫!」
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「皿は!?」
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「皿はダメだ!」
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ダンが頭を抱える。
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常連客たちは笑っていた。
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「新人か?」
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「派手にやったな!」
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「昔のリリアみたいだ!」
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「それは言わないでください!」
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リリアが真っ赤になる。
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店内は笑い声に包まれた。
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その時。
春人は気付いた。
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誰も怒っていない。
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失敗したのに。
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責める人がいない。
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前の世界なら。
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ため息をつかれた。
怒られた。
迷惑そうな顔をされた。
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でもここは違う。
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「次は気を付けろよ」
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ダンが笑った。
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「はい……」
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「最初から完璧な奴なんかいねえ」
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春人は言葉を失う。
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そして。
胸の奥が少し熱くなった。
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この場所なら。
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やり直せるかもしれない。
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そう思えた。
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閉店後。
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店の片付けを終えた春人は外へ出た。
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夜空には満天の星。
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都会では見られない景色だった。
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「綺麗ですね」
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隣にリリアが立つ。
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「そうだな」
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しばらく二人で星を見上げる。
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するとリリアが小さく笑った。
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「今日は大変でしたね」
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「皿三枚割ったしな」
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「四枚です」
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「増えた!?」
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リリアは声を上げて笑った。
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その笑顔を見ていると、
春人まで笑ってしまう。
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異世界に来てまだ一日。
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それなのに。
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少しだけ思った。
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明日も頑張ろう。
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そう思わせてくれる人が、
もう隣にいた。
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### 次回
## 第四話
### 「初めてのお給料」
春人、人生初の異世界アルバイト!
しかし働く理由を聞かれた時、春人は答えに詰まってしまう――。
そしてリリアは、そんな春人の過去を少しだけ知ることになる。




