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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第二章〜ナナの家と愛情の形〜
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86/87

「ナナの家」

第二章 第四十四話


ナナの家


━━━━━━━━━━━━━━━


約七メートルもの巨体が、

ナナの家へ向かって倒れ込んでいく。


ミル

「……っ!」


ノワ

「兄さん!!」


ミルとノワが、

同時に家へ向かって駆け出す。


だが。


間に合わない。


檻猫の巨大な身体が、

ナナの家へ触れた。


その瞬間。


さらっ。


家へ触れた檻猫の身体の部分が、

光の粒となって消えた。


ミル

「……え?」


ノワ

「……?」


二人の足が、

思わず止まる。


闇猫

「……あ?」


檻猫の巨体は、

そのまま家へ倒れ込んでいく。


だが、

家に触れた部分から。


さらさらと。


次々に光の粒へ変わり、

その身体が消えていく。


闇猫

「な……!」


「なんだ……!?」


家が何かを放ったわけではない。


光も。


攻撃も。


何もない。


ただ檻猫が家へ触れた瞬間、

その部分だけが消えていく。


檻猫の身体が、

さらに深く家へ沈んでいく。


触れる。


その度に、

巨体の一部が光の粒へ変わる。


まるで檻猫そのものが、

ナナの家へ吸い込まれていくように。


ミル

「……家に……」


「檻猫さんが、

沈んでいってます……」


ノワ

「……何なのよ、これ……」


あれほど攻撃を受けても、

瞬く間に身体を再生していた檻猫。


ミルとノワが二人で同じ場所を狙っても、

その再生を上回ることはできなかった。


その身体が今。


その抵抗すら許されないまま、

次々と消えていく。


闇猫

「おい!」


「何してやがる!」


「さっさとあの家を潰せ!!」


闇猫の声が響く。


檻猫も、

ただその身を任せていたわけではない。


地面へ残った脚に力を込め、

倒れ込む身体を必死に支えようとする。


だが。


家へ触れた部分から、

その身体は容赦なく光の粒へ変わっていく。


檻猫

「――ッ!!」


巨体を大きく捻り、

家から離れようとする。


それでも。


離れようと動いた先で、

また別の場所が家へ触れる。


さらっ。


触れた場所が、

瞬く間に消えていく。


身体を支えようにも、

そのための脚まで少しずつ失われていく。


後ろへ下がろうとしても、

既に傾いた巨体を押し戻すことができない。


檻猫

「――――ッ!!」


檻猫自身にも、

もうどうすることもできなかった。


自らの巨体に押されるように、

さらに家へ沈んでいく。


そして。


最後に残った檻猫の身体が、

ナナの家へ触れた。


さらっ。


その瞬間。


檻猫の姿が、

完全に消えた。


ミル

「…………」


ミルは口をあんぐりと開けたまま、

檻猫が消えた場所を見つめている。


ノワ

「…………」


ノワも目を大きく見開き、

ナナの家を見つめていた。


闇猫

「…………」


闇猫は何も言えないまま、

その場に呆然と立ち尽くしている。


誰も、

すぐには言葉を発することができなかった。


ほんの少し前まで。


巨大な身体で暴れ、

猫神様と戦っていた檻猫。


その姿が、

どこにもない。


静かだった。


ナナの家も、

何事もなかったかのようにそこに建っている。


やがて。


檻猫が消えた場所から、

細かな光がふわりと浮かび上がった。


一つ。


また一つ。


そして、

数え切れないほどの小さな光の粒が。


さらさらと。


風に乗るように、

ゆっくりと辺りへ広がっていく。


ミル

「……」


ミルは何も言わず、

その光を見つめていた。


ノワも同じように、

空へ広がっていく光を目で追っている。


それは、

いくつもの魂ではない。


細かく砕かれ、

檻猫という存在を形作っていた。


たった一つの魂。


その一つの魂から生まれた光が、

今。


静かに、

辺りへ広がっていた。


猫神様

「……」


猫神様もまた、

その光をじっと見つめていた。


やがて最後の光が、

ふわりと空へ舞い上がる。


そして。


消えた。


ミル

「……よかった」


小さな声が、

静かな空気の中へ落ちる。


ミル

「ちゃんと」


「浄化できたんですね……」


猫神様

「……そうじゃな」


ミルの表情が、

少しだけ緩む。


その直後。


ノワ

「いや!」


ミル

「……?」


ノワが勢いよく、

ナナの家を指さす。


ノワ

「どうなってるのよ!あの家!?」


ミル

「……あ」


ノワ

「今の見たでしょ!?」


「触れただけよ!?」


「触れただけで、

あの檻猫が全部消えたのよ!?」


先程まで目の前で起きていたことが、

ようやく頭の中へ追いついてきたように。


ノワは家を指さしたまま、

いつになく興奮した様子で猫神様を見る。


ノワ

「一体何なのよ、

あの家は!?」


猫神様

「ノワ」


「話は後じゃ」


ノワ

「……え?」


猫神様の視線は、

既に別の場所へ向いていた。


闇猫

「……ふざけるな」


低い声。


ミル達が、

闇猫へ視線を向ける。


闇猫は。


檻猫が消えた場所ではなく、

ナナの家を睨みつけていた。


闇猫

「なんだ……」


「あの家は……!」


その赤い瞳に、

先程までの余裕はない。


檻猫を倒すことはできる。


攻撃を受ければ、

傷つくこともある。


だが。


傷ついた端から、

それ以上の速さで再生する。


だからこそ、

闇猫には確信があった。


あの家を押し潰せると。


闇猫

「俺様の檻猫が……」


「触れただけで……!」


ノワ

「……」


ノワが、

静かに光剣を構える。


闇猫

「……!」


ノワ

「随分」


「余裕がなくなったみたいね」


闇猫

「……なんだと?」


ノワは答えない。


ただ一歩。


闇猫へ向かって、

前へ出る。


闇猫

「ぐっ!」


闇猫は一歩下がった。


そして。


ノワの隣へ、

ミルが並んだ。


猫じゃらしを握り締め、

真っ直ぐに闇猫を見つめる。


ミル

「もう」


「檻猫さんはいません」


闇猫

「……」


ミル

「今度こそ」


「逃がしません!」


その後ろでは、

猫神様が静かに闇猫を見つめていた。


闇猫が、

小さく舌打ちする。


闇猫

「……ちっ」


赤い瞳が、

三人を順番に捉える。


ミル。


ノワ。


そして、

猫神様。


先程までとは、

状況が違う。


その時。


闇猫の左腕につけられた、

金色の腕輪が淡く光った。


猫神様

「……!」


猫神様の目が、

その腕輪へ向く。


じっと。


何かを確かめるように、

光を放つ金色の腕輪を凝視する。


すると。


闇猫の足元へ、

ゆっくりと影が広がり始めた。


ノワ

「……!」


「逃げる気!?」


ノワが地面を蹴る。


闇猫

「覚えとけよ」


ノワ

「……っ!」


闇猫の身体が、

影の中へ沈んでいく。


ミル

「待ってください!」


ミルも、

闇猫へ向かって走り出す。


だが。


闇猫

「俺様は」


「これで終わったつもりはねぇからな」


ミル

「……!」


闇猫の身体が、

さらに影へ沈む。


そして。


闇猫

「次に会った時を」


「楽しみにしてろ!」


その言葉を最後に。


闇猫の姿は、

完全に影の中へ消えた。


ミル

「……」


ミルは、

闇猫が消えた場所を見つめる。


ノワもそのすぐ傍で、

周囲へ警戒するように視線を走らせていた。


そして猫神様は。


闇猫が消えた影を見つめながら、

先程闇猫の左腕で光を放っていた腕輪のことを思い返していた。


しばらくして。


ノワ

「……行ったみたいね」


ミル

「……はい」


ミルが、

悔しそうに猫じゃらしを握り締める。


その時。


ミル

「……あっ!」


ノワ

「何?」


ミル

「ナナ!」


ノワ

「……!」


ミルが勢いよく、

ナナの家へ振り返る。


ミル

「ルナも!」


「クロも!」


「家の中にいます!」


ノワ

「兄さん……!」


二人は同時に、

家へ向かって駆け出した。


ミル

「ナナ!」


ノワ

「兄さん!」


二人が玄関へ飛び込んでいく。


猫神様は、

その背中を見つめる。


そして。


先程まで闇猫がいた場所へ、

一度だけ目を向けた。


もうそこには、

何も残っていない。


猫神様

「……」


猫神様も、

二人の後を追って家へ入った。


━━━━━━━━━━━━━━━


ねこフードルーム。


ルナは今も、

ナナの傍に座っていた。


ウオ太も変わらず、

そのすぐ近くを漂っている。


クロは窓辺に立ったまま、

外を見つめていた。


クロ

「……消えた」


ルナ

「……」


クロ

「さっきのでかいやつ」


「家にぶつかったと思ったら、

そのまま消えたぞ……」


ルナは何も答えず、

ナナの傍から窓の外へ視線を向ける。


先程まで窓のすぐ向こうにいた、

巨大な檻猫。


その姿は、

もうどこにもなかった。


ルナ

「……まさか」


クロ

「……?」


ルナ

「ここまでだなんて……」


クロ

「何がだ?」


ルナ

「……ううん」


ルナ自身も、

ここまでのことは想像していなかった。


ナナの家に、

普通の迷い猫が近づけないことは知っている。


けれど。


あれほど巨大な檻猫が。


家へ触れただけで、

跡形もなく消えてしまうなんて。


クロ

「……この家」


「一体なんなんだよ……」


その時。


バパタバパタバパタッ!


廊下から、

誰かが走ってくる音が聞こえた。


クロ

「……!」


ルナ

「……!」


次の瞬間。


勢いよく、

ねこフードルームの扉が開く。


ミル

「ナナ!」


「ルナ!」


「クロ!」


ノワ

「皆無事!?」


クロ

「ノワ!」


ミルとノワが、

部屋の中へ飛び込んでくる。


クロ

「無事だったか!」


ノワ

「それはこっちの台詞よ!」


ノワがクロの姿を確認する。


怪我はない。


そのことに気づき、

ノワの表情が僅かに緩んだ。


ルナ

「ミル」


「外は?」


ミル

「もう大丈夫です!」


「闇猫は、

逃げちゃいましたけど……」


ルナ

「……闇猫?」


ノワ

「檻猫を操っていた奴よ」


ルナ

「やはり黒幕が居たのね」


ノワ

「ええ」


ルナが、

小さく息を吐く。


そして。


部屋全体を包んでいた、

淡い紫色の光。


ルナが片手を下ろすと同時に、

結界を形作っていた光の糸が静かに消えていく。


壁。


天井。


床。


ねこフードルームを守っていた結界が、

ゆっくりと解かれていった。


ミルはすぐに、

ナナの傍へ駆け寄る。


ミル

「ナナ……!」


ナナは、

まだ目を閉じたままだった。


その横ではウオ太が、

心配そうにナナの顔を覗き込んでいる。


ミル

「まだ」


「起きてないんですか……?」


ルナ

「ええ」


「ずっとこのまま」


ノワも、

ナナの傍へ歩み寄る。


ノワ

「……」


そして。


遅れて部屋へ入ってきた猫神様が、

ナナの前へ静かに座った。


ミル

「猫神様」


「ナナは……」


猫神様

「……」


猫神様は何も答えず、

静かにナナの様子を見る。


ミルも。


ノワも。


ルナも。


クロも。


誰も、

何も言わなかった。


ウオ太だけが、

ナナのすぐ傍をゆっくりと漂っている。


しばらくして。


猫神様が、

静かに口を開いた。


猫神様

「……待とう」


ミル

「……」


猫神様

「今は」


「この子が目を覚ますのを、

待つんじゃ」


ミルはナナを見つめたまま、

小さく頷いた。


ミル

「……はい」


そして。


皆はただ。


ナナが再び、

その目を開く時を待った。


━━━━━━━━━━━━━━━


暗い部屋。


闇猫

「あり得ない……!」


闇猫の声が、

部屋の中へ響き渡る。


闇猫

「あり得ない!」


「あの檻猫が!」


「あんな家に触れただけで、

消えただと!?」


苛立ったように、

闇猫が拳を握り締める。


何度考えても、

理解できない。


あれほどの再生力を持った檻猫が。


攻撃を受けたわけでもなく。


ただ、

あの家へ触れただけで。


跡形もなく消えた。


闇猫

「くそっ……!」


闇猫が、

低く唸る。


だが。


しばらくすると、

その表情が少しずつ変わっていく。


闇猫

「……まあいい」


口元が、

ゆっくりと歪む。


闇猫

「檻猫一匹を失った程度で」


「俺様が終わるとでも、

思っているのか?」


闇猫が、

片手を前へ出す。


その手の中には。


一つの小さな宝石。


暗い部屋の中で、

キラキラと美しい光を放っていた。


闇猫

「貴様らには」


「もっと」


「絶望をくれてやる」


闇猫の手の中で、

宝石が静かに輝く。


記憶結晶。


闇猫

「フハハハハハッ!」


高らかな笑い声が、

暗い部屋へ響き渡る。


そして。


その奥。


光の届かない暗がりの中で。


一つ。


また一つ。


小さな光が、

浮かび上がっていた。


赤。


青。


緑。


白。


様々な光が、

暗闇の中でキラキラと輝いている。


それはまるで。


夜空いっぱいに広がる、

満天の星のように。


数え切れないほどの、

記憶結晶。


闇猫

「フハハハハハハハッ!!」


美しく輝く記憶結晶に囲まれながら。


闇猫の笑い声だけが、

いつまでも暗闇の中へ響き続けていた。



第二章 第四十四話 完

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