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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第二章〜ナナの家と愛情の形〜
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「待ち人」

第二章 第四十五話


待ち人


━━━━━━━━━━━━━━━


ナナの家。


二階。


ねこフードルーム。


先程までの騒ぎが嘘だったかのように、

部屋の中には静かな時間が流れていた。


ベッドの上では、

ナナが静かに眠っている。


その傍には、

ウオ太が寄り添うように浮かんでいた。


ミルはベッドのすぐ横に座り、

じっとナナを見つめている。


ノワもその隣で、

心配そうにベッドへ視線を向けていた。


少し離れた場所にはルナ。


クロも猫の姿のまま、

静かにナナを見守っている。


そして猫神様も、

皆と同じようにナナの目覚めを待っていた。


誰も、

その場を離れようとはしなかった。


ミル

「……」


ミルは眠るナナを見つめたまま、

膝の上でぎゅっと手を握る。


あれから、

どれくらい経ったのだろう。


猫神様は、

今は待つしかないと言っていた。


だから。


ミル達は待っていた。


ただ、

ナナがもう一度目を開けるのを。


ノワ

「……ミル」


ミル

「大丈夫です」


小さな声。


けれど、

ミルの視線はナナから離れない。


ノワもそれ以上は何も言わず、

再びナナへ目を向ける。


窓の外へ目を向けると、

空は少しずつ夕暮れの色へ変わり始めていた。


ルナ

「……そろそろ日も落ちますし」


ルナは皆を見回す。


ルナ

「皆さんのご飯を準備してきます」


ミル

「ルナ……」


ルナ

「ナナが目を覚ましたら、

すぐに呼んで」


ミル

「はい」


ルナが部屋を出ようとする。


その時、


ノワ

「私も手伝うわ」


ルナ

「ノワ?」


ノワは立ち上がり、

もう一度ナナを見る。


ノワ

「人数も多いし、

一人じゃ大変でしょ」


ルナ

「……ありがとう」


ノワ

「いいわよ」


ノワはクロを見る。


ノワ

「兄さん、ちょっと離れるわ」


クロ

「あぁ、分かった」


ノワは頷いたあとナナへ視線を向けた。


━━━━━━━━━━━━━━━


気がつくと。


ナナは、

リビングのソファに座っていた。


ナナ

「……?」


ぼんやりと辺りを見回す。


見慣れたリビング。


いつものテーブル。


いつものソファ。


そして。


ナナの傍には、

ウオ太がふわふわと浮かんでいる。


少し離れたところでは、

ミルとノワが何やら楽しそうに話していた。


その近くにはルナもいる。


ミル

「行きましょう!」


ノワ

「ちょっと、

そんなに急がなくてもいいでしょ」


ルナ

「ミル、転ぶわよ」


ミル

「大丈夫です!」


ミルが元気よく玄関へ向かって走り出す。

その後ろをうお太が泳いでついて行く。


ノワ

「はあ……」


呆れ顔のノワもその後を追う。


ルナも小さく笑いながら、

二人に続いていった。


ナナ

「……?」


ナナは、

その様子をぼんやりと見つめていた。


やがて。


三人が玄関から外へ飛び出していく。


ナナ

「あ……」


そこでようやく。


ナナは慌てて立ち上がった。


ナナ

「あ、皆!ちょっと待って!」


ナナは玄関を飛び出した。


外には、

少し先を進んでいく三人の姿。


ミル。


ノワ。


ルナ。


ナナ

「待って!」


三人を追いかける。


けれど。


おかしい。


走っているはずなのに。


追いかけているはずなのに。


三人との距離は、

少しずつ離れていく。


ナナ

「待って……!」


ナナは、

必死に手を伸ばす。


それでも。


三人の背中は、

どんどん遠くなっていく。


ナナ

「……待って!」


その時。


三人の足が、

ぴたりと止まった。


ナナ

「……!」


ミルが振り返る。


ノワも。


ルナも。


三人は、

追いかけてくるナナを見つめていた。


そして。


ミルが笑った。


ノワも、

柔らかく微笑む。


ルナも、

優しくナナを見つめていた。


三人が。


ナナへ向かって、

手を差し伸べる。


ナナ

「……!」


ナナも、

三人へ向かって手を伸ばす。


もう一度。


今度は、

その手へ向かって走り出す。


ナナ

「みんな……!」


━━━━━━━━━━━━━━━


ぴくっ。


ベッドの上。


横たわっていたナナの指が、

ほんの僅かに動いた。


ミル

「……あ!」


ミルが身を乗り出す。


ミル

「今、指が動きました!」


クロ

「本当か!?」


ミル

「動きました!」


部屋を出ようとしていたルナとノワが、

すぐに足を止める。


クロもナナへ顔を向けた。


猫神様は静かに目を細める。


ウオ太も、

ナナの傍で小さく揺れた。


ミルは立ち上がると、

そのままベッドの上へ上がった。


ノワ

「ちょっと、ミル」


ミル

「起きるかもしれません!」


四つん這いになりながら、

ナナの傍まで近付いていく。


そして。


ミルは、

眠っているナナの顔をそっと覗き込んだ。


ミル

「ナナ……?」


返事はない。


だが。


ナナの唇が、

僅かに動いた。


ナナ

「……みんな……」


ミル

「……!」


ノワ

「ナナ……!」


閉じられていたナナのまぶたが、

ゆっくりと動く。


そして。


ゆっくり開く。


ぼんやりした視界。


その目の前いっぱいに、

淡いピンク髪の少女の顔が映る。


ミル

「ナナ……!」


ナナ

「……」


まだ少しぼんやりとした瞳が、

目の前の少女を見つめる。


やがて。


ナナ

「……ミル」


ミルの目が大きくなる。


ミル

「はい……!」


次の瞬間。


ナナの腕が、

ゆっくりとミルの背中へ回った。


ミル

「え……?」


ぎゅっ。


ナナは、

ミルを自分の胸元へ抱き寄せた。


ミル

「……!」


ミルは驚いたまま、

ナナの腕の中で固まっている。


ナナ

「……よかった」


小さな声だった。


それでも、

すぐ傍にいるミルにはしっかりと届いた。


ミル

「ナナ……」


少し遅れて。


ミルの腕も、

ナナの背中へ回る。


ミル

「よかったです……」


「本当に……」


ナナ

「……ええ」


その時。


ルナ

「ナナ……!」


ルナが、クロの傍を駆けベッドへ向かう。


クロ

「うおっ!」


うお太

「!」


クロの声にビクッと、うお太も反応する。


ナナ

「ルナ……?」


ルナ

「……」


ナナは確かに、

ルナの名前を呼んだ。


それでも。


ルナの表情から、

不安は消えなかった。


ルナ

「ナナ……」


一度、

言葉が止まる。


いつもの落ち着いたルナとは違う。


その瞳には、

隠しきれない不安が滲んでいた。


ルナ

「私のこと……分かる?」


おそるおそる。


答えを聞くことさえ怖がるような声だった。


ナナは、

そんなルナをじっと見つめる。


そして。


その不安を感じ取ったように、

表情を柔らかくする。


ナナ

「……ええ」


ルナ

「……」


ナナ

「もちろん分かるわ」


「ルナでしょう?」


ルナ

「……!」


その言葉を聞いた瞬間。


ルナの肩から、

張り詰めていた力が抜けた。


ルナ

「……よかった」


小さく零れた声。


ナナは、

そんなルナをしばらく見つめていた。


そして。


ナナ

「ありがとう、ルナ」


ルナ

「……え?」


不意に告げられた言葉に、

ルナが少し驚いた顔をする。


ナナ自身も、

なぜそんな言葉が出たのか分からないように、

少し不思議そうな顔をしていた。


ナナ

「どうしてかしら」


「分からないけれど……」


ナナは、

ルナへ柔らかく微笑む。


ナナ

「あなたに、

ありがとうって言いたくなったわ」


ルナ

「……」


ルナの瞳が、

大きく揺れた。


何かを堪えるように、

唇をきゅっと結ぶ。


けれど。


その目には、

少しずつ涙が滲んでいた。


ミル

「……ルナ?」


ノワ

「どうしたの?」


ルナ

「……なんでもない」


そう答えながら、

ルナはそっと目元を拭う。


そして。


もう一度ナナを見る。


ルナ

「……本当に、よかった」


ナナは、

涙ぐむルナを不思議そうに見つめる。


けれど。


どこか安心したように、

小さく微笑んだ。


その時。


ぐぅ〜。


「……」


静かな部屋に、

妙に大きな音が響いた。


その瞬間。


ウオ太が、

びくっと身体を震わせた。


そして。


きょろきょろと、

辺りを見回し始める。


ミル

「……」


ノワ

「……」


ルナ

「……」


ナナ

「……」


クロ

「……」


猫神様

「……」


皆の視線が、

ゆっくりとミルへ集まる。


ミル

「ち、違います!」


ノワ

「何が違うのよ」


ミル

「これは……!」


「その……!」


もう一度。


ぐぅ〜。


ミル

「……」


ノワ

「思いっきりミルじゃない」


ミル

「うぅ……」


今度こそ音の出所が分かったのか。


ウオ太は、

くるりとミルの方を向いた。


そして。


すいーっ。


宙を泳ぎ、

ミルの横へ移動する。


ミル

「あっ」


ウオ太は、

ミルの隣で嬉しそうに跳ね始めた。


ぴょん。


ぴょん。


ミル

「ウオ太ぁ……!」


クロ

「なんで嬉しそうなんだよ」


ノワ

「そういう子なのよ」


ミル

「今じゃなくてもいいじゃないですかぁ!」


ウオ太はお構いなしに、

ミルの横で楽しそうに跳ね続ける。


その姿を見て。


ナナは、

くすっと笑った。


ルナも目元を拭いながら、

嬉しそうに微笑む。


先程まで張り詰めていた部屋に、

ようやくいつもの空気が戻ってきた。


ルナ

「……それじゃあ」


ルナは立ち上がる。


ルナ

「私、

ご飯を作ってきますね」


猫神様

「うむ」


ナナ

「あ、それなら私も――」


そう言って。


ナナが、

身体を起こそうとする。


その瞬間。


ミル

「ダメです!」


ノワ

「寝てなさい!」


ルナ

「ナナは寝てて!」


猫神様

「寝ておれ!」


ナナ

「えっ」


四方から飛んできた声に、

ナナの動きがぴたりと止まる。


クロ(心)

「俺もよく言われたな…」


クロは静かに目を閉じた。


ナナ

「でも、

ご飯の準備くらい――」


ミル

「ダメです!」


ミルが、

ナナの肩を押してベッドへ戻す。


ノワ

「さっきまで意識を失ってたのよ?」


ルナ

「今日は私が作るから」


猫神様

「大人しく休んでおれ」


ナナ

「……」


ナナは皆の顔を順番に見る。


誰一人として、

譲る気配がない。


ナナ

「……分かったわよ」


少し困ったように笑いながら、

ナナは大人しくベッドへ横になった。


ミル

「それでいいんです!」


ルナ

「もう……」


呆れたように言いながらも、

ルナは嬉しそうに微笑んだ。


ルナ

「じゃあ、

作ってきますね」


猫神様

「うむ」


ルナはもう一度ナナを見ると、

ねこフードルームを出ていった。


ノワ

「私も行くわ」


ノワはナナへ目を向ける。


ノワ

「ナナ」


「目が覚めてよかったわ」


ナナ

「……心配かけたわね」


ノワ

「ほんとよ」


そう言いながらも、

ノワの表情は柔らかい。


ノワ

「とりあえず、

ルナの手伝いをしてくるわね」


ナナ

「ええ」


ノワもルナを追い、

部屋を出ていった。


ナナ

「……」


ナナは、

二人が出ていった扉をしばらく見つめる。


すると。


ミル

「ナナ!」


すぐ傍から、

いつもの明るい声が飛んできた。


ナナ

「なに?」


ミル

「ちゃんと寝てないとダメですよ!」


ナナ

「ええ。分かってるわよ」


優しく微笑むナナ。


ミル

「本当です?」


ナナ

「本当よ」


ミル

「ならいいです!」


満足そうに笑うミル。


その横では、

ウオ太がまだ楽しそうに跳ねている。


クロはそんな二人を眺めながら、

呆れたように尻尾を揺らした。


クロ

「元気だなぁ」


ミル

「元気なのはいいことです!」


クロ

「さっき腹鳴らしてたやつが言うか?」


ミル

「それはもう終わった話です!」


クロ

「ついさっきだろ」


ミル

「終わったんです!」


ナナ

「ふふっ」


思わず、

笑い声が零れた。


ナナは枕へ頭を預ける。


階下からは、

夕飯の準備を始めたルナとノワの声が微かに聞こえていた。


目の前では、

ミルとクロがまだ何か言い合っている。


その横を、

ウオ太が楽しそうに泳いでいる。


ナナは、

そんな光景を静かに眺める。


そして。


安心したように、

小さく笑った。


ナナ

「……みんな、ちゃんといるわね」


ミル

「?」


ナナ

「ふふっ」


「なんでもないわ」


ミルは不思議そうに首を傾げる。


けれど。


すぐにいつもの笑顔を浮かべた。


穏やかな夕暮れの中。


ナナの家には、

いつもの時間が流れていた。



第二章 第四十五話 完

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