「猫神様と檻猫」
第二章 第四十三話
猫神様と檻猫
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ねこフードルーム。
窓辺では、
クロが外の様子を見つめていた。
その視線の先には、
巨大な檻猫と向かい合うミルとノワ。
クロ
「……すげぇな」
ルナ
「……?」
クロ
「ノワのやつ」
「あんなのと、
戦ってたんだな……」
巨大な檻猫。
窓から見ていても、
その大きさは嫌というほど分かる。
その前に立つノワは、
あまりにも小さく見えた。
クロ
「話には聞いてたけどさ」
「実際に見ると、全然違うな」
「皆あんなにデカいのか?」
クロがルナの方を振り返る。
ルナ
「あれは特殊な個体ね」
「普通は1メートル位よ」
クロ
「全然違うじゃねーか」
「アイツ家位デカいぞ!」
ルナ
「そうね」
クロは再び外を見る。
クロ
「俺の知らないところで」
「あいつ、
ずっとこんなことやってたのか……」
ルナは意識を失ったナナの傍に座ったまま、
クロと同じように窓の外へ目を向ける。
ルナ
「ミルも」
「ああやって、
一つでも多くの魂を救おうと頑張ってる」
クロ
「……」
クロは窓の向こうにいる、
ミルへ目を向ける。
あれほど巨大な相手を前にしても、
その場から逃げることなく真っ直ぐに立っている。
クロ
「……あいつも、
頑張ってんだな」
ルナ
「ええ」
そしてルナは、
ミルの隣へ視線を移す。
ルナ
「そんなミルを、
ずっと隣で支えてるのが」
「今のノワよ」
クロは何も言わず、
窓の外を見つめる。
外ではノワが、
ミルのすぐ傍に立っていた。
クロの頭に、
昨日聞いた言葉が蘇る。
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ノワ
「この子を放っておけないもの」
ーーーーーーー
クロ
「……そっか」
クロの尻尾が、
小さく揺れる。
クロ
「本当に、決めたんだな」
「ミルの隣にいるって……」
しばらくクロは何も言わず、
戦う妹の姿をじっと見つめていた。
やがて、
その表情が少しだけ緩む。
クロ
「……頑張れよ、ノワ」
その声は、
結界に包まれたねこフードルームの中だけに響いた。
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猫神様
「ここからは」
「わしが相手をしよう」
檻猫の身体から、
黒い歪みがゆらりと溢れる。
その赤い瞳が、
目の前に立つ小さな猫神様を捉えた。
次の瞬間、
巨大な前脚が振り下ろされる。
猫神様は動かない。
爪が迫る、
その寸前。
すっ。
ほんの僅かに、
身体を横へずらす。
轟音。
巨大な爪が猫神様のすぐ横へ叩きつけられ、
土が弾ける。
だが猫神様は、
もう檻猫を見上げていた。
檻猫が反対の前脚を振るう。
猫神様はまた、
必要な分だけ身体を動かす。
すっ。
巨大な爪が、
その目の前を通り過ぎていく。
さらに檻猫は身体を捻り、
続けざまに前脚を薙ぎ払う。
しかし猫神様は、
まるでそこへ攻撃が来ることを最初から知っていたかのように、
僅かに一歩だけ足を動かす。
爪が空を切った。
ミル
「猫神様、
すごいです……!」
ノワ
「……」
ミルが隣を見る。
ノワは猫神様から、
一度も目を離していなかった。
ミル
「ノワ?」
ノワ
「見てるのよ」
「猫神様の動き」
ミル
「……」
ミルはそんなノワの横顔を見つめ、
どこか満足そうに小さく微笑んだ。
ノワの目は今も変わらず、
猫神様の動きを追っている。
ノワ
「ほとんど動いてない……」
「攻撃が来てから避けてるんじゃない」
「来る場所を見て、
必要な分だけ先に動いてる……」
その間にも、
檻猫は何度も攻撃を繰り返す。
右。
左。
上から。
巨大な身体から繰り出される重い攻撃を、
猫神様は僅かな動きだけで避け続けていた。
闇猫
「……何故だッ!」
さらに檻猫の爪が、
猫神様へ振り下ろされる。
だがまたしても、
猫神様は僅かに身体をずらす。
轟音。
巨大な爪が地面を抉った。
闇猫
「何故当たらない!」
闇猫の目が、
僅かに細くなる。
そして檻猫が、
大きく身体を起こした。
ミル
「……?」
次の瞬間、
巨大な両前脚が左右から猫神様へ迫る。
片方ではない。
両側から猫神様ごと押し潰すように、
巨大な前脚が一気に閉じていく。
ミル
「猫神様!」
だが猫神様は、
動かなかった。
その両側へ光が生まれ、
瞬間、二枚の光の盾が左右へ展開された。
ガンッ!!
巨大な両前脚が、
二枚の盾へ同時に激突する。
衝撃が走る。
だが、
止まった。
檻猫の両前脚が、
完全に止められている。
ミル
「……!」
ノワ
「二枚……!」
檻猫がさらに力を込める。
しかし光の盾は、
僅かにも動かない。
その中心で猫神様は、
ただ静かに檻猫を見上げていた。
檻猫が少し下がった。
そして、
ふっと二枚の盾が同時に消える。
猫神様
「さあ」
「次を打ってこんか」
猫神様はちらりと、
後ろへ視線を送る。
猫神様
「弟子が見ておるんじゃ」
その声は、
離れた場所にいるミルとノワまでは届かない。
しかし二人は、
そんなことも知らず。
今も猫神様の一挙一動を、
見つめ続けていた。
闇猫
「くッ……!」
闇猫の表情から、
先程までの余裕が少しずつ消えていく。
檻猫が再び前脚を持ち上げ、
猫神様へ向かって勢いよく振り下ろす。
その瞬間、
猫神様が動いた。
すっ。
前脚の軌道から身体を外し、
通り過ぎようとする前脚へそっと手を添える。
止めない。
逆らわない。
檻猫自身が生み出した力を、
そのまま流れていく方向へさらに押し流す。
檻猫
「――ッ!」
巨大な身体が前へ傾く。
踏み止まろうとした脚が、
自らの勢いに追いつかない。
次の瞬間。
ズズンッ!!
檻猫の巨体が地面へ崩れ落ち、
土煙が大きく舞い上がる。
ノワ
「……!」
ノワの目が、
大きく見開かれる。
力で止めていない。
檻猫自身の力を、
そのまま利用している。
ノワ
「……そういうこと……」
「私も……」
「私もあれができれば……」
ノワは倒れた檻猫ではなく、
その前に立つ猫神様を見つめていた。
闇猫
「……っ!」
闇猫の顔が、
僅かに引きつる。
闇猫
「ふざけるな……」
「もう一度だ!」
「起きろ!檻猫!」
「今度こそ、
叩き潰せ!」
だが猫神様は、
倒れた檻猫を静かに見つめる。
猫神様
「さて」
「次はこちらの番じゃな」
その瞬間、
猫神様の背後に眩い光が一気に走った。
幾重にも重なる巨大な光の輪。
その中心には、
肉球を思わせる大きな紋様。
さらにその周囲へ、
複雑な光の紋様が凄まじい速さで描かれていく。
そして、
巨大な魔法陣が一瞬にして展開された。
その大きさは、
ナナの家すら覆ってしまいそうなほどだった。
ミル
「……え……?」
ノワ
「……何よ、あれ……」
二人が思わず見上げる。
闇猫も、
その巨大な魔法陣を見つめていた。
何が来るのか。
どんな力なのか。
闇猫には分からない。
それでも。
闇猫
「退け!」
その声が響く。
檻猫は地面へ倒れた身体をすぐさま起こし、
大きく後方へ跳んだ。
巨体が一気に、
魔法陣の前から離れる。
猫神様は追わなかった。
巨大な魔法陣も、
光の粒となり静かに消えていく。
ミルとノワが、
猫神様の後ろまで駆け寄る。
ミル
「猫神様……」
猫神様は、
闇猫を真っ直ぐに見ていた。
猫神様
「……今すぐにでも」
「集めた魂を、
解放せい」
先程までとは違う、
低い声。
闇猫
「……あ?」
猫神様
「迷い猫達を、
どこへやった」
闇猫は僅かに口元を上げる。
闇猫
「ここにはいない」
「それに」
「俺様も、
今は持っていない」
ミル
「……?」
猫神様の目が、
僅かに細くなる。
猫神様
「……どういう意味じゃ」
闇猫
「神様なら」
「知っているんじゃないか?」
一拍。
闇猫
「記憶結晶を」
その言葉が、
静かに落ちた。
ミル
「……記憶結晶……?」
ミルが小さく、
その言葉を繰り返す。
隣でノワは、
猫神様を見ていた。
猫神様の表情が、
明らかに変わっている。
ノワ
「……何なのよ、それ……」
猫神様の身体が、
怒りを必死に押さえ込むようにほんの僅かに震えた。
猫神様
「……貴様!」
その声に力が入る。
そして。
猫神様
「集めた魂を……!」
「すべて記憶結晶にしたのか!!」
怒声が、
辺りへ響き渡る。
闇猫
「……さあな」
闇猫はそんな猫神様を見て、
僅かに笑う。
闇猫
「そこまで教えてやる義理はない」
闇猫はさっきまで檻猫がいた方に視線を向ける。
闇猫
「フハハハ!」
「俺様に気を取られすぎたなッ!」
猫神様
「……!」
闇猫の赤い瞳が、
ナナの家へ向く。
闇猫
「檻猫!」
「あの家ごと押し潰せッ!」
その瞬間、
猫神様が檻猫へ視線を戻す。
だが。
もうそこに、
檻猫の姿はなかった。
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ねこフードルーム。
外の音は、
何一つ聞こえてこない。
ルナは今も、
意識を失ったナナの傍にいる。
ウオ太も心配そうに、
そのすぐ近くを漂っていた。
窓辺ではクロが、
外の戦いをじっと見つめている。
クロ
「……?」
クロが横を向く。
クロ
「なんだ、お前か」
ウオ太が、
クロの横まで来ていた。
クロ
「お前も心配か?」
ウオ太は、
否定するように横に揺れた。
クロ
「そっか。なら安心だな」
クロは再び外を見た。
クロ
「ん?」
先程まであれほど巨大な身体で、
猫神様と戦っていた檻猫。
その姿が、
どこにもない。
クロ
「……あいつ」
クロが窓の外を見回す。
クロ
「消えたぞ……?」
ルナ
「……え?」
クロ
「さっきまでいた、
でかいやつだ」
「急に、
いなくなった」
ルナ
「……」
ルナの表情が変わる。
理由は分からない。
けれど、
何かがおかしい。
胸の奥に嫌な感覚が走る。
ルナはナナの傍を離れないまま、
片手を素早く上げる。
淡い紫色の光の糸が、
ねこフードルーム全体へ再び走った。
壁。
天井。
床。
部屋を包んでいる四角い結界の光が、
先程よりも強くなる。
クロ
「……」
クロはもう一度、
窓の外へ顔を向ける。
そして。
クロ
「……え?」
赤い瞳。
窓のすぐ向こう。
視界いっぱいに、
巨大な黒い歪みが広がっていた。
クロ
「ぎゃああああああっ!?」
ルナ
「……!」
ルナも窓の外へ視線を向ける。
そこにいた。
檻猫。
影の中を移動し、
ナナの家のすぐ目の前へその巨大な身体を現している。
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外。
突如としてナナの家の影から現れた檻猫。
ミル
「……!」
ノワ
「まさか……!」
二人がようやく、
闇猫の狙いに気づく。
ミル
「ルナ!」
「ナナ!」
ノワ
「兄さん!」
猫神様も、
ナナの家へ視線を向ける。
猫神様
「……!」
その表情に、
初めて僅かな焦りが浮かぶ。
家そのものを心配したわけではない。
闇猫に一瞬意識を向けさせられ、
その隙を突かれたことに気づいたのだ。
闇猫
「ハハハハハッ!」
檻猫がナナの家の前で、
巨大な身体をゆっくりと傾ける。
爪ではない。
前脚でもない。
その身体そのものを家へ押しつけるように、
倒れ込ませようとしていた。
ミル
「……っ!」
ノワ
「兄さん!!」
そして。
約七メートルもの巨体が、
ナナの家へ向かって傾き始めた。
第二章 第四十三話 完




