「闇猫襲来」
第二章 第四十二話
闇猫襲来
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二階。
ねこフードルーム。
ルナの腕の中では。
ナナが、
意識を失ったまま動かない。
その傍らでは。
ウオ太が心配そうに、
ナナの近くを泳いでいる。
クロ
「……何だ?」
クロが、
光を放つ猫じゃらしを見る。
クロ
「何なんだよ、
その光……」
ミル
「……近くにいます」
クロ
「近く?」
ミル
「迷い猫さんか」
「それとも……」
ミルは、
猫じゃらしを強く握る。
その表情から。
さっきまでの、
明るさが消えていた。
ノワも立ち上がる。
そして。
ミルが、
ルナの腕の中にいるナナを見る。
ミル
「……」
一瞬。
その場から動くことを、
躊躇う。
しかし。
猫じゃらしの光は、
弱くならない。
ミル
「……ミルが、行きます!」
ノワ
「私も行くわ」
ミルは頷く。
そして。
ルナを見る。
ミル
「ナナを守れるのは、
ルナだけです」
ルナは、腕の中のナナを見る。
そして、ミルへ頷いた。
ルナ
「分かったわ」
その後ろから。
猫神様
「それがよかろう」
皆が、
猫神様を見る。
猫神様は、
ゆっくりと立ち上がった。
猫神様
「どれ」
「わしも出るかの」
ミル
「猫神様も?」
猫神様
「うむ」
ミル
「猫神様が居れば怖くないです!」
猫神様の視線が。
光を放つ、
ミルの猫じゃらしへ向く。
猫神様
「これほどの異質な反応じゃ」
「何が来ておるのか、
わしも見ておいた方がよかろう」
ルナ
「……はい」
ルナは、
ナナをベッドへ寝かせる。
ウオ太も。
そのすぐ傍へ、
ふわりと降りた。
そして。
ルナが、
両手を前へ出す。
淡い紫色の光の糸が。
ねこフードルーム室内の隅を走り、
四角い骨組みを構築していく。
壁。
天井。
床。
部屋全体を囲うように。
結界が、
静かに広がっていく。
クロ
「……これ昨日の!ルナのだったのか」
ルナ
「ええ。今はこの部屋全体を、
結界で守った」
クロは、
辺りを見回す。
ルナ
「ここにいれば大丈夫」
クロ
「……分かった」
ルナは。
もう一度、
ナナを見る。
その表情には。
まだ心配が残っていた。
ミル
「ルナ」
ルナ
「何?」
ミル
「ナナのこと」
「お願いします」
ルナ
「任せて」
ミル
「はい!」
猫神様
「では、
行くとするかの」
猫神様が。
二人へ目を向ける。
ミル
「はい!」
ノワ
「ええ」
猫神様を先頭に。
ミルとノワも、
ねこフードルームを後にした。
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玄関の扉が開く。
猫神様に続いて。
ミルとノワが、
家の外へ出る。
ミル
「……!」
ノワ
「……あれは」
ミルとノワはすぐに、
各々の武器を構える。
そこに。
二つの影があった。
一つは。
巨大な檻猫。
その身体を覆う歪みは、
以前見た時と変わらない。
黒く。
厚く。
幾重にも、
身体へ纏わりついている。
その周囲では。
空間そのものが。
ゆらり。
ゆらりと。
不自然に歪んでいた。
景色が揺れる。
檻猫の輪郭さえ。
時折歪んだ空間へ、
溶け込むように揺らいでいる。
そして。
その傍ら。
一人の男が、
三人を見ていた。
高い背丈に、
細身の身体。
灰色の髪。
頭には。
所々が傷み、
ほつれた灰色の猫フード。
その上から。
対照的に、
綺麗な黒いマントを羽織っている。
左腕には。
金色に近い色合いの腕輪がキラリと光っている。
そして。
フードの奥から覗く、
鋭い赤色の瞳。
その口元には。
どこか楽しんでいるような、
僅かな笑みが浮かんでいた。
ノワ
「……あなた」
「この前の……」
街で。
ほんの一瞬だけ見た。
黒い影。
あの時。
建物の影から、
こちらを見ていた存在。
しかし。
ミルはすぐには、
男へ意識を向けなかった。
その目は。
檻猫へ向いている。
ミル
「……?」
何かが違う。
ミル
「……何でしょう」
ノワ
「ミル?」
ミル
「いえ……」
「何か、
前と違うような……」
以前。
この檻猫と、
初めて対峙した時。
その身体の中には。
多くの迷い猫達がいた。
けれど今。
目の前にいる檻猫からは、
少しの気配も感じない。
ミル
「迷い猫さん達が居ないです!」
ノワ
「逃がした……訳じゃなさそうね」
その時。
男が。
ミルとノワを見て。
ゆっくりと、
口元を歪めた。
闇猫
「ようやく会えたな」
ミル
「……!」
闇猫
「俺様は闇猫」
「貴様達が何度も邪魔してくれた、
コレクションの主だ」
ノワ
「コレクション……?」
闇猫
「ああ」
闇猫は。
楽しむように、
二人を見る。
闇猫
「迷い猫」
「歪み猫」
「俺様が集めようとしていた魂を、
貴様達は随分と好き勝手にしてくれたな」
ミル
「……集めて……?」
ノワの表情が変わる。
ノワ
「……まさか」
ミル
「ノワ?」
ノワ
「最近」
「迷い猫が、
急に少なくなってた……」
ミル
「……!」
ミルも。
闇猫を見る。
ミル
「あなたが……?」
闇猫
「さてな」
「だが」
闇猫は、
僅かに目を細める。
闇猫
「これ以上」
「俺様の邪魔をされるのは、
少々目障りでな」
一歩。
闇猫が、
前へ出る。
闇猫
「貴様達には」
「ここで消えてもらう」
ミル
「……そんなこと」
ミルが、
猫じゃらしを握り直す。
ミル
「させません!」
ノワも。
レーザーポインターを、
強く握る。
その間。
猫神様は。
闇猫を見ていなかった。
その目は。
闇猫の隣にいる、
檻猫へ向けられている。
猫神様
「……」
檻猫。
確かにその存在は、
歪み猫に近い。
しかし違う。
自然に生まれたものとは。
どこかが、
決定的に違っている。
猫神様の目が、僅かに細くなる。
そして。
先程闇猫が口にした言葉。
――コレクション。
猫神様
「……なるほどのう」
闇猫
「?」
猫神様は。
檻猫からゆっくりと、
闇猫へ視線を移した。
いつもの穏やかな笑みは、
そこにはない。
猫神様
「貴様がこれを作ったのか」
闇猫
「……!」
その時闇猫が、
目の前の獣人が猫神様と気がついた。
闇猫
「……貴様」
ほんの一瞬。
闇猫の表情から、
余裕が消える。
闇猫
「……猫神か」
猫神様
「……」
闇猫は猫神様を見る。
そしてすぐに。
先程までの余裕を、
取り戻すように笑った。
闇猫
「なるほど」
「まさか貴様まで、
ここにいるとはな」
猫神様
「答えよ」
闇猫の笑みが。
僅かに止まる。
猫神様
「これを作ったのは、
貴様か」
短い沈黙。
そして。
闇猫が笑う。
闇猫
「……だったら、
どうする?」
猫神様
「……そうか」
その声は。
静かだった。
だが。
ミルとノワにも分かる。
猫神様が怒っている。
闇猫
「ふん」
闇猫は、
その空気を振り払うように。
檻猫へ、
視線を向ける。
闇猫
「まあいい」
「ちょうどいい機会だ」
闇猫の目が、
細くなる。
闇猫
「こいつがどこまで使えるのか」
「俺様も、
見ておきたかったところだからな」
檻猫がゆっくりと前へ出る。
その動きに合わせ。
周囲の空間が、
大きく歪む。
ずしり。
地面へ巨大な前脚が落ちる。
ミル
「……来ます!」
ノワ
「ええ!」
檻猫の視線が。
猫神様へ向いた。
そして。
前脚が、
ゆっくりと持ち上がる。
速くはない。
見える。
動きも、
追える。
だが。
その巨大な爪が。
猫神様へ向かって、
振り下ろされた瞬間。
ミル
「猫神様!」
ミルが。
飛び出した。
猫じゃらしを構える。
振り下ろされる爪へ。
真正面からではなく横から。
猫じゃらしを叩きつける。
ミル
「っ……!」
重い。
爪の軌道が。
僅かに、
横へ逸れる。
しかし。
その力を、
完全には流し切れない。
ミルの身体が。
大きく、
横へ押される。
ノワ
「ミル!」
ノワが駆ける。
ミルの身体を支え。
二人で、
その場から離れる。
直後。
逸らされた巨大な爪が。
猫神様の、
すぐ横へ叩きつけられた。
轟音。
土が弾ける。
ミル
「……っ!」
ノワ
「まともに受けちゃ駄目!」
ミル
「はい!」
檻猫は。
止まらない。
地面へ落とした前脚を、
そのまま横へ薙ぐ。
巨大な爪が。
猫神様へ迫る。
しかし。
猫神様の表情は、
少しも変わらない。
爪が届くその寸前。
猫神様は。
ほんの僅かに、
身体をずらす。
巨大な爪が。
そのすぐ横を、
通り過ぎた。
ミル
「!」
ノワ
「避けて!」
二人も。
左右へ飛ぶ。
巨大な爪が。
二人の間を、
通り抜ける。
檻猫が。
さらに一歩踏み込んでくる。
周囲の景色が、
ぐにゃりと歪む。
ミルは。
その攻撃を避けながら。
猫じゃらしを、
強く握った。
ミル
「今度はこっちです!」
猫じゃらしの穂先へ。
ピンク色の光が、
集まっていく。
ノワ
「ミル!」
檻猫の前脚が。
再び、
ミルへ伸びる。
その横から。
ノワが飛び込む。
光を纏わせ。
前脚の側面へ、
攻撃を叩き込む。
ノワ
「こっちよ!」
爪の軌道が、
僅かに逸れる。
その隙に。
ミルが狙いを定める。
ミル
「ハートライドショット!」
弾けるような音と共に、
ピンク色の光が、
歪みの表面で散った。
ミル
「……!」
確かに。
当たった。
歪みも僅かに、
削れている。
だが。
ミル
「……浅いです」
ノワ
「ええ」
「でもあれほど硬いのを削れるだけでも凄いわよ!」
ミル
「えへへ」
「ノワに褒められました!」
弾かれたわけではない。
攻撃は確かに入っている。
それなのに、
分厚い歪みそのものが。
衝撃を吸い込むように、
奥へ届かせない。
その間にも檻猫は。
二人へ向かって、
前脚を振るう。
ノワ
「来るわ!」
ミル
「っ!」
ミルが身を沈める。
頭上を巨大な爪が、
通り過ぎる。
ノワの目が、
削れた一点へ向く。
ノワ
「ミル!」
「今よ!」
ミル
「はい!」
二人は。
すぐに動いた。
檻猫の爪が、
再びミルへ迫る。
ノワはレーザーポインターで
軌道を逸らす。
ミルはその横を、
駆け抜ける。
狙うのは今、
歪みを削った場所。
ソラとの戦闘で得た戦い方を、
ミルとノワは上手になぞる。
ミル
「やぁっ!」
猫じゃらしが。
同じ一点へ、
叩き込まれる。
歪みが散る。
だが。
檻猫は。
身体を捻り。
今度はノワへ、
巨大な前脚を振るう。
ノワ
「っ!」
ノワが身体を滑らせるように、
その一撃を避ける。
巨大な爪がすぐ横を、
通り過ぎる。
そのままノワは、
レーザーポインターを向け檻猫に踏み込む。
光が伸び、寸分違わず同じ場所。
ミルが削った一点を、
ノワの光が穿つ。
歪みがさらに、
僅かに剥がれた。
ミル
「いけます!」
ノワ
「まだよ!」
猫神様
「……」
猫神様はそんな二人の戦いを静かに見ている。
檻猫は二人を休ませない。
前脚だけでも、
ミル達より大きい巨大な身体を使い、
絶えず二人へ攻撃を仕掛けてくる。
速くはない。
だが。
一撃一撃が、
あまりにも重い。
まともに受けることは、
できない。
ノワが逸らす。
ミルが避け攻撃を流し。
今度はノワが、
同じ一点へ攻撃を重ねる。
二人は。
互いの隙を、
互いに埋めながら。
少しずつ。
少しずつ。
同じ場所を、
削っていく。
闇猫
「なかなかやるではないか!」
以前。
歪み猫と戦った時と、
同じように。
一度作った突破口を。
塞がれる前に、
広げていく。
闇猫
「だが!」
そのはずだった。
ミル
「……え?」
さっき。
二人で削った場所。
そこへ。
黒い歪みが、
すでに戻り始めている。
ノワ
「……!」
それでも檻猫の攻撃をかわしながら。
二人は止まらない。
ミルが削る。
ノワが追撃する。
また爪が来る。
ミルがその軌道を横へ流す。
ノワが踏み込む。
同じ場所。
同じ一点。
さらにミルが続く。
しかし。
ミル
「……また……!」
剥がれた歪みが。
次々と、
元へ戻っていく。
闇猫
「無駄だ無駄だぁ!ハハハハハッ!」
ノワ
「ぐっ!腹立つわねアイツ!」
攻撃は通っている。
確かに削れている。
それなのに削った端から歪みが、
傷を埋めていく。
ノワ
「回復が……」
ノワが迫る爪をギリギリでかわす。
ノワ
「速すぎる……!」
ミル
「でも!」
檻猫が。
再び、
前脚を振り下ろす。
ミルは横へ飛び。
地面へ落ちた爪の側面へ、
猫じゃらしを叩きつける。
軌道を逸らす。
そのままミルは、
もう一度構えた。
ミル
「まだです!」
ノワ
「ええ!」
二人が。
同時に駆ける。
檻猫も二人を狙い。
前脚を、
大きく薙ぐ。
ミル
「ノワ!」
ノワ
「分かってる!」
ノワがその攻撃を引きつける。
寸前で身をかわす。
その隙にミルが、
一点を削る。
ノワが振り返り、
そこへ重ねる。
さらにミルが続く。
一瞬。
歪みが大きく散る。
だが、次の瞬間には。
その奥から。
新たな歪みが、
傷口を覆っていく。
ミル
「……っ!」
ノワ
「これじゃ……」
ノワが歯を食いしばる。
ノワ
「削る方が、
追いつかない……!」
檻猫が。
再び、
前脚を持ち上げる。
ミル
「……!」
ノワ
「来るわよ!」
二人が構える。
その時。
猫神様
「もうよい」
ミル
「……え?」
ガキィィィィィィン!
ノワ
「うわっ!」
二人の前に突如として現れた光の盾。
檻猫の攻撃が盾に阻まれ、
ピタリとその動きを止めた。
ミル
「……!」
先程まで。
二人がまともに受けることすら、
できなかった一撃。
その巨大な爪が。
今は。
光の盾を前に、
完全に止まっている。
ミルとノワ。
その後ろから猫神様が、
ゆっくりと歩いてくる。
猫神様
「ミル」
「ノワ」
猫神様は。
二人の前へ出る。
そして。
檻猫を、
静かに見上げた。
猫神様
「ようやった」
「下がっておれ」
ミル
「でも……!」
猫神様
「心配はいらん」
静かな声。
しかしそこには。
先程までとは違う、
強い意志があった。
猫神様は檻猫から、
目を逸らさない。
猫神様
「ここからは」
「わしが相手をしよう」
第二章 第四十二話 完




