「妹の居場所(後半)」
第二章 第四十一話
妹の居場所(後半)
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二階。
ねこフードルーム。
開かれた扉の前で。
クロは、
部屋の中をじっと見つめていた。
クロ
「……ここが」
ミル
「はい!」
「ねこフードルームです!」
クロ
「話には聞いてたけど……」
クロはすぐには入らず。
扉の前から、
部屋の中を窺う。
それから。
少し警戒するように、
そっと前足を踏み入れた。
クロ
「……」
もう一度、
辺りを見回す。
ミル
「大丈夫ですよ!」
クロ
「いや」
「話には聞いてたけどさ」
クロはもう一度、
部屋の中を見回す。
クロ
「猫が人間になる部屋なんだろ?」
「やっぱり、
ちょっと警戒するって」
ノワは少し警戒しているクロを見た。
ノワ
「ふふ」
クロ
「なんだよノワ」
ノワ
「いえ、兄さんにも怖いことがあるのねと思って」
クロ
「べ、別に怖いってわけじゃねぇけどよ」
猫神様
「心配せんでもよい」
クロ
「猫神様?」
猫神様
「お主がこの部屋へ入っても、
問題はない」
「安心して入るとよいぞ」
クロ
「……そっか」
「猫神様がそう言うなら、
大丈夫そうだな」
クロはようやく警戒を解き。
ゆっくりと、
部屋の中へ入っていった。
そして。
改めて、
部屋の中を見回す。
クロ
「へぇ……」
「ここで、
ノワとミルが暮らしてるのか」
ミル
「はい!」
クロの視線が、
部屋に置かれたダブルベッドへ向く。
クロ
「ここで、
ミルと一緒に寝てるのか?」
ノワ
「そうよ」
ミル
「はい!」
「毎日一緒です!」
クロ
「毎日か」
ミル
「毎日です!」
ノワ
「なんで二回言うのよ」
ミル
「大事なことだからです!」
クロ
「ははっ!」
ノワ
「もう……」
クロは笑いながら。
もう一度、
部屋の中へ視線を巡らせる。
クロ
「でも」
「昔のお前からは、
ちょっと想像できないな」
ノワ
「何がよ」
クロ
「こうやって誰かと一緒に暮らして」
「毎日同じベッドで寝てるってことがさ」
ノワ
「……悪い?」
クロ
「悪いなんて言ってないだろ」
「ただ」
クロは、
少し笑う。
クロ
「感慨深いって言うのかな?こういうの」
ノワ
「?」
クロ
「俺の知らない間に知らない世界に飛び出して生活してるんだもんな」
ノワ
「飛び出して生活してるってところはお互い様よ」
クロ
「ああ。そうだな」
クロは少し嬉しそうに答えた。
ノワ
「……ええ」
そんなやりとりを、
皆は微笑ましく見ていた。
クロは、
部屋の中をゆっくりと見回す。
ベッド。
置かれている物。
ミルと笑っている、
今のノワ。
自分が知らなかった時間が。
この部屋の中には、
確かに積み重なっている。
クロ
「……ノワ」
ノワ
「何?」
クロ
「お前」
「ここでの暮らし、
好きか?」
ノワ
「……」
ノワは少しだけ、
目を丸くした。
そして。
ミルを見る。
ルナを見る。
ナナを見る。
猫神様を見る。
ナナの傍らには。
ウオ太が、
静かに浮かんでいる。
ノワ
「……ええ」
「好きよ」
「色々あったけど」
ノワは、
小さく笑った。
ノワ
「今は、
楽しいわよ」
クロ
「そっか」
クロの表情が、
柔らかくなる。
クロ
「なら、よかった」
「兄ちゃんとしては」
少しだけ、
照れくさそうに笑う。
クロ
「今のお前が、
楽しく暮らしてるって分かっただけで十分だ」
ノワ
「……兄さん」
クロ
「なんだよ」
ノワ
「別に」
クロ
「そっか」
ミル
「ふふっ」
ノワ
「ミルまで何よ」
ミル
「なんでもありません!」
ノワ
「絶対何かあるでしょ」
ミル
「ありませんよ!」
クロ
「はははっ!」
和やかな笑い声が、
ねこフードルームに広がった。
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それから。
一行は、
ナナの部屋へ向かった。
ナナ
「ここが、
私の部屋よ」
クロ
「へぇ……」
クロは中へ入り。
ゆっくりと、
部屋の中を見回す。
クロ
「なんか、
落ち着く部屋だな」
ナナ
「そう?」
クロ
「ああ」
ナナ
「ふふっ」
「ありがとう」
ノワ
「ミルは色んな部屋にいるものね」
ミル
「遊びに行ってるだけです!」
ノワ
「それを言ってるのよ」
ミル
「むむむ……」
ミルは少し考えた。
やがて。
ミル
「そうとも言えます!」
ノワ
「それ以外なんて言うのよ」
クロ
「ははっ」
クロは楽しそうに笑いながら。
再び、
部屋の中へ視線を巡らせる。
そして。
部屋の一角にある、
一つの扉へ目を向けた。
クロ
「……ん?」
「ナナ」
「あの扉は?」
ナナ
「……ああ」
ナナは、
その扉へ視線を向ける。
そして。
ゆっくりと、
扉の前まで歩いていった。
ナナ
「この扉ね」
ナナはそっと手を伸ばすと。
扉へ、
優しく指先を触れさせた。
ナナ
「鍵がかかっていて、
開けられないの」
クロ
「鍵が?」
ナナ
「ええ」
ナナはそのまま。
少しだけ、
扉を見つめる。
ナナ
「……私ね」
「この部屋には、
私の失った記憶に関係する何かがあるんじゃないかって」
「そんな気がするの」
クロ
「ナナの記憶……」
「ソラから聞いてたけど、本当に記憶が無いんだな」
ナナ
「ええ」
「記憶の手掛かりが本当にここにあるかは分からないけど」
ナナの指先が、
そっと扉をなぞる。
ナナ
「でも」
「その前に鍵を見つけないと」
クロ
「……そっか」
「開けられるといいな」
ナナ
「ええ」
ナナは小さく微笑むと。
扉から、
そっと指先を離した。
それから。
クロは再び、
ナナの部屋を見回した。
その視線が。
ふと。
壁に掛けられている時計で、
止まる。
クロ
「……ん?」
ナナ
「どうしたの?」
クロ
「いや」
クロは、
時計を見上げる。
その文字盤を見て。
一つだけ、
数字が抜けていることに気づいた。
クロ
「七の数字が無いんだなと思ってよ」
ミル
「ほんとです!」
「七がありません!」
ノワ
「あんたは今気がついたのね」
ミル
「えへへ」
ノワ
「褒めてない!」
クロ
「ははは」
「にしても」
「七無し時計か」
ナナ
「……え?」
クロ
「ん?」
ナナ
「……七無し……時計……」
ナナは、
時計を見つめる。
その言葉を。
確かめるように、
もう一度心の中で繰り返した。
ナナ
「……っ」
突然。
頭の奥に、
鋭い痛みが走った。
ナナ
「うっ……!」
ミル
「ナナ?」
ノワ
「どうしたの?」
ナナは、
片手で頭を押さえる。
ナナ
「うぅ……」
その瞬間。
――
誰かの腕の中。
身体を包む、
温かな感触。
すぐ近くから。
男性の優しい声が聞こえる。
謎の男
「同じだね」
――
ナナ
「……っ」
ナナの瞳が、
大きく揺れる。
ナナ
「……子どもの頃の……」
声が掠れる。
ナナ
「記憶……?」
その瞬間。
ナナの膝から、
力が抜けた。
ルナ
「ナナッ!」
誰よりも早く。
ルナが、
床を蹴る。
崩れ落ちるナナの身体を。
その両腕で、
咄嗟に抱き止めた。
ルナ
「ナナ!」
ナナ
「……」
ルナ
「ナナ!」
「しっかりして!」
返事がない。
ミル
「ナナ!」
ミルも、
すぐ傍へ駆け寄る。
ミル
「どうしたんですか!?」
ノワ
「ナナ!」
クロ
「おい!」
「どうしたんだよ!」
一瞬で。
部屋の中が、
騒然となった。
ノワも駆け寄る。
クロも、
そのすぐ後を追う。
ウオ太も。
異変を感じ取ったように、
勢いよくナナの傍へ寄ってくる。
ノワ
「返事して!」
クロ
「ナナ!」
皆の声が、
次々と重なる。
ルナ
「ナナ!」
腕の中のナナへ、
何度呼びかけても。
返事はない。
ルナ
「……っ」
ルナの顔から、
いつもの落ち着きが消えていた。
ルナ
「猫神様!」
猫神様
「うむ!」
猫神様も、
すぐ傍へ歩み寄る。
先程までの穏やかな表情は、
もうない。
猫神様は、
意識を失ったナナの様子を確かめる。
ミル
「猫神様!」
「ナナは……!」
猫神様
「……」
ルナ
「……猫神様」
猫神様の視線が、
ルナへ向く。
ルナも。
猫神様を見る。
ほんの一瞬。
二人の視線が、
重なった。
言葉はない。
けれど。
その目を見た瞬間。
ルナには分かった。
猫神様も。
自分と同じことを、
考えている。
ナナが倒れた理由。
先程起きたこと。
二人には。
心当たりがあった。
いや。
ほとんど、
確信していた。
その時だった。
突然。
ミルの持つ猫じゃらしが。
まるで何かが、
いきなり近くに現れたかのように、
強い光を放ち始めた。
ミル
「……え?」
ノワ
「……っ!」
ノワが、
その光を見る。
ナナはまだ。
ルナの腕の中で、
意識を失ったまま。
ノワ
「……こんな時に……!」
第二章 第四十一話 完




