「妹の居場所(前半)」
第二章 第四十話
妹の居場所(前半)
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ナナの家。
玄関の前では、
ミルによるナナの家案内ツアーが始まろうとしていた。
ミルは皆の先頭へ立つと、
くるりと振り返った。
その顔は。
これから始まるお家探検を、
誰よりも楽しみにしているようだった。
ミル
「それでは!」
「お家探検、出発です!」
クロ
「おう!」
元気いっぱいの返事が返ってくる。
ノワが抱えている箱型の結界の中で、
クロもすっかりその気になっていた。
そんなクロを見て。
ノワは小さく息をつく。
ノワ
「兄さんまで……」
クロ
「いいだろ?」
「せっかく案内してくれるんだからよ」
ミル
「そうです!」
「せっかくなので、
全部見ていってください!」
クロ
「おう!」
ミル
「では!」
ミルは勢いよく、
玄関へ手を向ける。
――かと思いきや。
その指先は。
玄関の横にある、
小さな扉へ向けられていた。
ミル
「まずはこちらです!」
クロ
「おっ?」
ミル
「猫さん用の扉です!」
クロ
「おお!」
クロは興味津々に、
その小さな扉を見つめる。
クロ
「こんなのまであるのか!」
ミル
「はい!」
「猫の姿の時は、
ここから出入りできます!」
クロ
「へぇ!」
結界の中で、
クロが少し身を乗り出す。
猫一匹が通るのに、
ちょうど良さそうな小さな出入り口。
人間が使う玄関のすぐ横に。
当たり前のように、
猫のための入口が用意されている。
クロ
「なんかいいな、これ」
ミル
「ですよね!」
「ミルもこっちから入るの好きですよ!」
ノワ
「知ってるわよ」
ミル
「ノワも使います?」
ノワ
「私は普通に玄関から入るわよ」
ミル
「せっかくあるのに」
ノワ
「あるからって、
毎回使わなくてもいいでしょ」
クロ
「はははっ!」
ミル
「むぅ……」
少し不満そうにしながらも。
すぐに気を取り直し。
ミルは今度こそ、
隣にある玄関へ手を向けた。
そして。
玄関の扉を開く。
ミル
「こちらが玄関です!」
クロ
「おお!」
ノワ
「……」
ルナ
「……」
二人の視線の先で。
ミルとクロは、
何の疑問も抱いていない。
むしろ二人とも、
楽しそうだった。
少し後ろでは。
ナナがそんな皆の様子を、
にこやかに眺めている。
その傍らを。
ウオ太も、
ふわりと浮かびながらついていた。
猫神様もまた。
賑やかな一行を見守りながら、
穏やかな表情を浮かべている。
ミル
「では!」
「中へどうぞ!」
クロ
「おう!」
皆は順番に、
家の中へ入っていった。
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玄関。
皆が家の中へ入ったところで。
猫神様が、
ノワの抱えている結界へ目を向けた。
猫神様
「ノワよ」
ノワ
「何?」
猫神様
「もうクロを、
そこから出してやって構わんぞ」
クロ
「いいのか?」
猫神様
「うむ」
「この家の中ならば、
心配はいらんじゃろう」
ノワ
「分かった」
ルナも頷く。
そして。
クロを守っていた箱型の結界が、
静かに消えていく。
クロはその場へ降りると。
自分の足で、
玄関を歩き始めた。
右を見て。
左を見る。
クロ
「ここが、
今ノワ達が住んでる家か……」
ノワ
「そうよ」
クロ
「へぇ……」
外から眺めるのとは、
やはり違う。
ここでノワが毎日を過ごしている。
そう思うと。
目に入るもの一つ一つが、
クロには新鮮に映った。
そんなクロの様子を見て。
ミルは嬉しそうに笑う。
ミル
「では次です!」
クロ
「おう!」
ミルは数歩進むと。
今度は、
廊下へ手を向けた。
ミル
「こちら!」
「廊下です!」
クロ
「おお!」
ノワ
「……」
ルナ
「……」
ミル
「こっちから、
色んなお部屋に行けます!」
クロ
「なるほどな!」
ミル
「そして、
こちらへ進むと――」
クロ
「おう!」
ノワ
「……ねえ、ルナ」
楽しそうに先を歩く、
ミルとクロを見る。
ノワは隣を歩くルナへ、
そっと顔を寄せた。
ルナ
「何?」
ノワ
「普通、家を案内する時って」
「玄関とか廊下まで、
わざわざ紹介するものなの?」
ルナ
「……」
ルナは少し考える。
ルナ
「知らないわ」
ノワ
「……そうよね」
ミル(遠声)
「クロ!ここがトイレです!」
ルナ
「ノワは知ってるの?」
クロ(遠声)
「おお!」
ノワ
「知らないから聞いたのよ」
ルナ
「じゃあ、
あれで合ってるかもしれないわね」
ノワ
「……そうなのかしら」
前方では。
ミルが次の場所を案内しようと、
すでに張り切っている。
その隣では。
クロもすっかり、
ミルのお家案内を楽しんでいた。
そんな二人の後ろを。
ナナがにこやかに、
ゆっくりとついていく。
ウオ太も、
ナナの傍らをふわふわと進んでいた。
ミル
「次はこのリビングの扉です!」
「段差があるので注意です!」
ノワ
「前にミルがつまずいて転んだ場所ね」
ミル
「の、ノワ!」
ノワは優しく微笑んだ。
クロ
「俺の為に言ってくれたんだよな!」
「ありがとな!」
ミル
「も、もちろんです!」
猫神様も。
その賑やかな光景を、
微笑ましそうに眺めていた。
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ミル
「こちらがリビングです!」
クロ
「おお……!」
ミルに案内され。
クロは、
リビングを見渡した。
皆で囲むテーブル。
ソファ。
普段使っている物が、
部屋のあちこちに置かれている。
特別な場所には見えない。
けれど。
ここで皆がご飯を食べ。
話をして。
笑ったり。
時には喧嘩をしたりしながら。
毎日を過ごしている。
クロ
「ここで、
いつもみんなで過ごしてるのか?」
ノワ
「そうね」
「ご飯を食べたり、
ゆっくりしたり」
ミル
「お昼寝したりです!」
ノワ
「それは主にあんたでしょ」
ミル
「ノワだって、
ソファで寝ることあるじゃないですか!」
ノワ
「たまによ」
ミル
「ミルもたまにです!」
ノワ
「嘘つきなさい」
ミル
「嘘じゃないです!」
ルナ
「寝る時は二人ともくっついて寝てるわね」
ナナ
「そうね。幸せそうな顔してね」
ルナ
「ええ」
クロ
「はははっ!」
楽しそうに笑うクロ。
その声につられるように。
ルナもナナも、
くすりと笑った。
ミル&ノワ
「「ッ!」」
ミルとノワは互いの顔を見て赤面していた。
猫神様も。
猫神様
「ほっほっほ」
楽しそうな声が、
リビングに重なる。
ウオ太もナナの傍らで、
嬉しそうにふわふわと揺れていた。
クロは。
そんな皆を見ながら、
もう一度リビングを見回す。
クロ
「……そっか」
ノワ
「な、何?」
クロ
「いや」
「ここで暮らしてんだなって思ってさ」
ノワ
「……ええ」
クロ
「なんか不思議だな」
ノワ
「そう?」
クロ
「ああ」
それ以上は言わず。
クロは、
どこか嬉しそうに笑った。
ミル
「では!」
その空気を元気よく切り替えるように。
ミルが、
再び手を上げる。
ミル
「次のお部屋へ行きましょう!」
クロ
「おう!」
ノワ
「まだそのテンション続くのね……」
ミル
「お家探検ですから!」
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リビングの隣。
ミルは一枚の襖の前で、
足を止めた。
ミル
「次はこちらです!」
クロ
「ここは?」
ミル
「ルナのお部屋です!」
クロ
「ルナの?」
ルナ
「ええ」
ルナが前へ出る。
そして。
襖へ手を掛け、
静かに開いた。
その先にあったのは。
畳の敷かれた、
落ち着いた和室だった。
派手な物は少なく。
部屋の中は、
綺麗に整えられている。
クロ
「へぇ……」
クロは和室へ入り、
辺りを見回す。
クロ
「なんかここだけ、
雰囲気が違うな」
ルナ
「そう?」
クロ
「ああ」
「でも、
なんか落ち着くな」
ルナ
「私もそう思う」
ルナは和室へ入り。
畳へ視線を落とした。
ルナ
「ここが一番落ち着くの」
クロ
「ここで寝てるのか?」
ルナ
「ええ」
「夜は布団を敷いて寝てるわ」
クロ
「へぇ」
猫神様
「ほっほっほ」
「ルナらしい部屋じゃのう」
ルナ
「そうですか?」
猫神様
「うむ」
ルナはもう一度、
自分の部屋を見回す。
ルナ
「……やっぱり、
こういう部屋が落ち着くんです」
猫神様
「そうかそうか」
猫神様は、
どこか嬉しそうに頷いた。
ミル
「ミルもこのお部屋好きですよ!」
ノワ
「あんたはどこでも好きでしょ」
ミル
「そんなことないです!」
ノワ
「この前、
リビングの床で寝てたじゃない」
ミル
「あれは!」
少し考える。
ミル
「……ちょっと眠たかったんです」
ノワ
「ちょっとで床に寝る?」
ミル
「気づいたら寝てたんですよ!」
そのやり取りを聞いていたナナが、
後ろからくすりと笑う。
ナナ
「ふふっ」
「そういえばあの時、
ノワがミルを抱えて部屋まで運んだのよね」
ミル
「えっ」
ミルはぱっと、
ノワを見る。
ノワ
「……まあね」
ミル
「それは……」
「申し訳ないです……」
ノワ
「別にいいわよ」
クロ
「はははっ!」
ミル
「笑わないでください!」
クロ
「悪い悪い」
ルナも横で、
ふふっと笑う。
猫神様もまた。
猫神様
「ほっほっほ」
楽しそうに笑っていた。
クロは。
そんな皆の姿を、
どこか嬉しそうに眺めていた。
初めて来た家。
初めて見る部屋。
知らなかった、
ノワの今の暮らし。
その一つ一つを知るたびに。
クロの中で。
この家が少しずつ、
ただの知らない場所ではなくなっていく。
そして。
そんなクロ達を。
ナナは和室の入口から、
穏やかな笑顔で見守っていた。
その隣には、
猫神様。
ナナの傍らでは。
ウオ太が、
静かにふわりと浮かんでいた。
しばらくして。
ミルが、
ぱんっと両手を合わせる。
ミル
「では!」
クロ
「おっ?」
ミル
「次のお部屋へ行きましょう!」
クロ
「おう!」
ミル
「次は、
ミルとノワのお部屋です!」
クロ
「……おっ」
クロの目が、
少しだけ輝く。
クロ
「ついに、
ねこフードルームか!」
ミル
「はい!」
「ねこフードルームです!」
クロ
「ここが、
話に聞いてた部屋なんだな」
これまで見てきたのは。
玄関。
廊下。
皆が集まるリビング。
そして。
ルナが毎日眠っている部屋。
けれど次は。
ノワが眠り。
朝を迎え。
今の毎日を過ごしている場所。
クロ
「……そりゃ、
見とかないとな」
ノワ
「何でよ」
クロ
「兄ちゃんとしては、
気になるだろ」
ノワ
「……はいはい」
呆れたように答えながらも。
ノワの表情は、
どこか柔らかかった。
ミル
「それでは!」
ミルは元気よく、
和室の出口へ向かう。
ミル
「ねこフードルームへ出発です!」
クロ
「おう!」
ノワ
「だから、
何で兄さんまでそんなに元気なのよ」
二人の声が。
再び、
家の中へ賑やかに響いていく。
その後ろを。
ノワとルナ。
そしてナナと猫神様が、
ゆっくりとついていく。
ウオ太も。
いつものように、
ナナの傍らをふわりと進んでいた。
クロはまだ知らない。
この家で。
ノワがどんな毎日を過ごしているのか。
どんな時間を重ね。
どんな場所を。
今の自分の居場所にしているのか。
その続きを確かめるように。
クロもまた。
ミルの後を追って、
次の部屋へ向かっていった。
第二章 第四十話 完




