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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第二章〜ナナの家と愛情の形〜
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81/86

「今の家へ」

第二章 第三十八話


今の家へ


━━━━━━━━━━━━━━━


猫神様の落ち着いた声が和室の中に響いた。


猫神様

「さて」


「クロの方も」


「今は姿が安定しておるとはいえ」


「魂だけの存在であることに変わりはない」


「社の外へ出すのであれば」


「相応の備えは必要じゃ」


クロ

「……分かりました」


猫神様はルナを見る。


猫神様

「ルナ」


ルナ

「はい」


猫神様

「外にいる間」


「クロをお主の結界で守ってやってくれるかの?」


ルナ

「もちろんです」


ルナは、

迷うことなく頷いた。


ルナ

「クロさん」


クロ

「ん?」


ルナ

「外に出ている間は」


「絶対に私の結界から出ないでください」


クロ

「分かった」


そして。


少しだけ間を置いて。


クロ

「あとさ、ルナ」


ルナ

「はい?」


クロ

「俺に敬語じゃなくていいぜ」


ルナ

「え?」


クロ

「普通に喋ってくれよ」


「ノワの仲間なんだろ?」


ルナ

「……そう?」


クロ

「ああ」


「だから、

そんなにかしこまらないでくれよ」


ルナ

「……分かったわ」


クロ

「それでいいよ」


ノワ

「兄さん」


クロ

「ん?」


クロがノワの方を見る。


ノワ

「結界の話、

ちゃんと聞いてた?」


クロ

「き、聞いてたって!」


ノワ

「本当に?」


クロ

「何だよ」


「信用ないなぁ」


ノワ

「昔の兄さんを知ってるから言ってるのよ」


クロ

「…………」


ノワ

「何よ」


クロ

「何も言い返せない」


ノワ

「でしょうね」


ミル

「大丈夫です!」


「クロが出そうになったら」


「ミルが捕まえます!」


ノワ

「あんたは余計なことしないの」


ミル

「何でですか!?」


クロ

「ハハハ!」


猫神様

「ほっほっほ」


猫神様は、

楽しそうに笑った。


そして。


猫神様

「それと」


「儂も同行しよう」


ミル

「猫神様もですか?」


猫神様

「うむ」


「万が一ということもあるからの」


「クロを社の外へ連れ出す以上」


「儂も共に行った方がよかろう」


ナナ

「ありがとうございます」


ルナ

「それなら安心ですね」


クロ

「すみません」


「俺のために」


猫神様

「気にするでない」


「お主にとっては」


「大切な妹が今暮らしておる家じゃ」


猫神様は、

穏やかにクロを見る。


猫神様

「見てみたいと思うのは」


「当然じゃろうて」


クロ

「……ありがとうございます」


猫神様

「では」


猫神様は、

掛け軸へ向き直る。


猫神様

「掛け軸の封を解くとするかの」


ミル

「封?」


猫神様

「うむ」


猫神様は、

掛け軸の前へ立つ。


そして。


ゆっくりと片手を、

前へ差し出した。


その掌の前に、

淡い光が灯る。


次の瞬間。


その光を中心に、

幾重もの線が走った。


円を描き。


複雑に重なり合いながら。


光の術式が、

猫神様の手の前へ展開されていく。


ミル

「わぁ……」


ミルが、

思わず声を漏らす。


ノワも。


ナナも。


初めて見る光景に、

目を奪われていた。


掛け軸の中では。


ソラもまた、

不思議そうに術式を見つめている。


クロも。


目の前へ広がる光の術式を、

興味深そうに見つめていた。


昨日。


この掛け軸へ入る時にも、

目にした術式。


二度目とはいえ。


複雑な紋様が重なり合い、

光を放つその光景から。


クロは、

なかなか目を離せずにいた。


ルナもまた。


静かに、

猫神様の術式を見つめている。


猫神様の指先が、

僅かに動く。


すると。


光の術式が、

ゆっくりと回転を始めた。


一つ。


また一つ。


術式を構成していた紋様が、

淡い光となって解けていく。


そして。


最後の紋様が消えた瞬間。


――カチリ。


見えない錠が、

外れたかのような音が響いた。


同時に。


猫神様の前に浮かんでいた術式が、

光の粒となって消えていく。


猫神様

「これでよい」


掛け軸の表面が、

水面のように静かに揺らぎ始める。


猫神様

「クロ」


クロ

「はい」


猫神様

「ゆっくり出てくるのじゃ」


クロ

「分かりました」


クロは。


掛け軸の中から、

ゆっくりと前足を踏み出す。


水面のように揺らぐ表面へ、

前足が触れる。


そのまま。


ゆっくりと、

掛け軸の外へ出ていく。


頭が。


身体が。


そして。


最後に黒い尻尾が、

掛け軸の外へ抜けた。


クロ

「…………」


黒猫の姿をしたクロが、

和室へ姿を現す。


クロは。


自分の足元を確かめるように、

その場で数歩歩く。


そして。


ノワ達を見上げた。


クロ

「……出た」


ミル

「クロ!」


ミルが、

嬉しそうに駆け寄ろうとする。


ルナ

「待って」


ミル

「あっ」


ルナが、

静かに前へ出る。


そして。


クロへ向かって、

片手をかざした。


ルナ

「クロ」


「そのまま動かないで」


クロ

「ああ」


ルナの手から。


淡い紫色の光を放つ糸が、

ゆっくりと伸びる。


その糸は、

クロの周囲を囲むように伸びていき、

やがて四角い箱のような結界を形作った。


クロ

「おお……」


クロは、

結界の中を見回す。


そして。


その場でくるりと身体の向きを変えると、

静かに腰を下ろした。


ルナ

「これで大丈夫」


「でも」


ルナの紫色の瞳が、

真っ直ぐクロを見る。


ルナ

「外にいる間は」


「絶対にこの結界から出ないで」


クロ

「ああ」


「分かった」


ノワ

「兄さん」


クロ

「分かってるって」


ノワ

「まだ何も言ってないんだけど」


クロ

「顔に書いてあるよ」


ノワ

「……ならいいわ」


クロ

「心配性だなぁ」


ノワ

「誰のせいよ」


クロ

「ハハハ!」


結界の中で。


クロが、

楽しそうに笑う。


その姿を見ながら。


ノワは、

目の前にいる兄を静かに見つめていた。


生きていた頃と同じ、

黒猫の姿。


すぐそばにいる。


けれど。


今の兄に、

身体はない。


ノワ

「…………」


それでも。


ノワは、

小さく微笑んだ。


クロ

「じゃあ」


「行こうぜ」


ミル

「はい!」


ミルが、

元気よく返事をする。


猫神様

「ほっほっほ」


「そう慌てるでない」


クロ

「すみません」


ミル

「クロ!」


クロ

「ん?」


ミル

「ドキワクしてますね!」


クロ

「してる!」


ミル

「ミルもです!」


ノワ

「何でミルまでドキワクしてるのよ」


ミル

「クロにお家を見てもらえるからです!」


ノワ

「まあ、ナナの家だけどね」


ミル

「あっ」


クロ

「ハハハ!」


ナナ

「ふふっ」


ミル

「でも」


ミルはナナを見上げる。


ミル

「ミル達のお家でもあります!」


ナナ

「もちろんよ」


ミル

「はい!」


ミルは嬉しそうに微笑む。


ノワ

「……まったく」


呆れたように呟きながら。


ノワも、

小さく笑った。


そして。


クロは、

ふと後ろを振り返る。


掛け軸の中では。


ソラが、

穏やかにこちらを見つめていた。


クロ

「ソラ」


ソラ

「はい」


クロ

「行ってくるよ」


ソラ

「はい」


ソラは、

優しく微笑む。


ソラ

「行ってらっしゃいませ」


ミル

「ソラ!」


「行ってきます!」


ソラ

「はい」


「行ってらっしゃいませ、ミル姉様」


ノワ

「行ってくるわね」


ルナ&ナナ

「「行ってきます」」


ソラ

「皆様も」


「行ってらっしゃいませ」


猫神様

「では」


「行くとするかの」


ノワはクロが入った結界を、

大切そうに両手で持ち上げる。


結界の中では。


クロが、

黒い尻尾をゆっくりと揺らしていた。


クロ

「またノワに運んでもらうことになるとはな」


ノワ

「いいから」


「大人しくしてて」


クロ

「はいはい」


ノワ

「返事は一回」


クロ

「はい」


ノワ

「よろしい」


クロ

「ハハハ!」


ミル

「出発です!」


猫神様

「ほっほっほ」


ナナの傍らでは。


ウオ太も、

皆についていくようにふわりと動き出す。


そして。


猫神様と共にミル達は、

社を後にした。


向かう先は、

今のノワ達が暮らしている場所。


ナナの家。


結界の中でクロの黒い尻尾が、

楽しそうに揺れていた。



第二章 第三十八話 完

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